健太は、麻奈を一度強く抱きしめると降ろした。
「走ろうか…?」
「いいよ…」
「用意…」
「どん…!」
「あっ…」
健太は、先に走りだした麻奈を追って駆け出した。
思えばいつも弥生の背を追っていた。弥生は、いつでも先に進んでいた。一つ上のステージをまるで牽引するかのように走っていた。それが当たり前のように。
健太は、その背を追い越そうと努力してきた。
いつか自分の世界で…自分の背を見せてやろうと思ってきた。
だけど、時はそれほどゆっくりと待ってはくれない。いまを精一杯駆け抜けていく者を、「いつか」と思っているものが追い抜かすことなどで気はしない。先に走る人を追い抜くには、フライングするか、その人の倍も走り抜けて見るかしか無い。
人生は、決して同じ時の流れの中には無い。
だからこそ…。
健太は、クスッと笑みを溢し、一気に麻奈を抜き去った。
背を見守る寛大さは持っている。が、背を追わせる事を選択してみた。色々な事な思いはあるがあえてそうしてみた。きっと、弥生もそうしてきただろう。子供の目線で未来を追うのは大切だ。だが、加減する事を間違えてはいけない。否定すべきところは否定する。
未来への時は駆け出した。
いま共に歩む人生という奇跡が分かれる時まで…精一杯、相手をしよう。
「あっ!健太…まて~~」
「勝負の世界は厳しいのだ」
「大人の癖に」
「大人も子供関係ない!」