(旅立ち…言葉は、使いようだな……弥生)
健太は空を見上げてそう思った。どんな言葉を活用しても、どんな言葉を費やしても、死という事柄を伝える事は出来ないだろう。いや、明確に感じ取る事は出来ないだろう。
大切な思いがある。過去に積み重ねられてきた想いが……。
死は、それを理解する事なのかもしれない。
「えっと…あとは…」
麻奈は、花壇に生えているタンポポの茎を手にした。
「麻奈!」
「!…えっ」
健太の声に麻奈は、ビクッと身体を震わせた。
「弥生は……花については教えてくれなかった?」
「えっ?」
「花も生きている……俺達と変わらないように…」
「ん…でも、ママにもあげたよ…」
「そうだね…でもね、それは用意された花だったろ…」
「用意された花は生きていないの?」
「どうかな…生きているのかも知れないし、生きていないのかもしれない…でも、その事を解らないままに命を終わらせてはいけないと思うんだ…花を送る事もあるだろうけど、その花は、きっと、用意されたものなんだと思う…すごく自分勝手な言い方かもしれないけれど…そう感じることも必要になると思うんだ」
「?」
「……だよな…」
健太は、麻奈の頭をクシャクシャと撫でると溜息をついて立ち上がった。
花を贈る。その心にどんな意味が込められているのだろうか。
成長する命である事に変わらないのに、命を終わらせる力が存在している。きっと、今の麻奈は、無垢なままなのだろう。無垢だからこそ、今とめておくべきことがある。言葉を重ねるだけでは、何も変わらない。言葉を繰り返すだけでは、本当に自分のものになる事は無い。
大切な、想いを……周りがしているからといって、おざなりな行動に乗せてはいけない。
健太は、上手く伝える事の出来ない自分のふがいなさにジレンマを感じながら麻奈を抱き寄せた。
「健太?」
「………」
「どうしたの?ポンポン痛くなった?」