「ねぇ…祐樹は…」
「理由なんて、必要ないし……聞かない方がいい…だから、俺も君の事は聞かない…」
「祐樹…」
「万が一の時、君は俺を切ればいいし、俺は君を切る…それでいいはずだ…」
祐樹は、静かに淡々とした口調で言う。そこに感情は、込められていない。そう感じられるように話した。
「そう…」
美紗は、その場を後にした。その背を祐樹が見送っている事にも気付かないままに。
祐樹は、視線を空へと戻した。流れていく雲を見るのが好きだ。何も考えずに雲だけを見ている。余計な事を考えるをやめ、ただ怠惰に時間を過ごす。考えたところで、何かの答えが出るわけではない。だったら、いまを楽しめば良い。その為に必要なお金を得るだけ働けば良い。それだけだった。
何度も組んでいる所為で美紗の事を気にしていることも無視すれば良い。
それで全てが丸く収まるはずだ。
そう、思い込む様にしても、思考は巡ってくる。
何を求めているのか。煩いほどに頭の中を駆け巡った。
大切なものが失われていくような恐怖が、それを成しているのかもしれなかった。
仕事を簡単だと思った事は無い。
だが、どこかでおざなりな自分を感じる。適当な処理をしているのではないかと疑いたくなる。
仕事が始まる数時間前はいつもこうだ。
マシンのチェックをする瞬間からはこんな事を考えない。考える暇が無い。だから、余計に今考えているのかもしれない。
(何しているんだろう…毎回毎回…)