めぐり…あい(6) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「お待たせしました…私が、志村です…」
毅は、観客席に座っている女の横に座った。
「…仙道美紀です…昨日はありがとう」
「どういたしまして…」
「警察においていかなかったらもっと嬉しかったのに…」
「はは…そうかな?」
「ええ…」
「警察よりは、襲われた方がマシ?」
「襲われる可能性は……あなたの人間性しだいでしょ…」
「まぁね……」
「ここ、劇場なんだ…」
「ん……一歩下がった劇団だ」
「一歩?」
「後一つ、何かを見つける事ができれば、誰もが次へと進める…そんな劇団を目指している…ここでは、役者も演出も脚本も道具も全てを自分達でする…観客は、遠慮の無い意見をぶつけてくれる…」
「………」
「…誰もが、壁を持っている…その壁を越えるのは、きっと、少しの勇気なんだと思う…次へと向かう勇気、それを自信に置き換えようとするから、飛ぶのが遅れる…それだけなんだ」
「……何でも知っているのね」
「まさか…」
「だって…そんな口ぶりよ…」
「……そうだな、きっと、君よりも年を食っている分、君よりも、少しだけ経験が話せるんだよ…」
「そうなんだ…」
「ああ…で」
「…?」
「何をしにきたんだ?」
「あっ、お礼を……言いにきただけ」
「そっか…気にしなくていいよ…よければ舞台も見に来てくれ」
「うん…」
「暇だったら、通しがあるから見ていくか?、よかったら…感想をくれ」
「…いいの?」
「ああ…」
毅は、美紀に微笑みかけると立ち上がって舞台袖へと消えていった。

公演と違い、舞台の幕は上がったままの通し稽古が行われた。プロも舌を巻くほどに緻密に計算された間から台詞が心地よく飛び出していく。テンポの良い展開に、気を引く瞬間を随所に盛り込み、気を引いた刹那、背景が変えられていく。時には幕も使い、時には光加減だけで演出をする。ハイテンポの影に緩やかな流れも存在し、謎を残したままで話しは流れていく。
久しぶりに心地の良い熱気に当てられている。
身体の高揚が手に取るようにわかる。胸が高鳴り、舞台へと引き込まれていく。
舞台と映像との差はこの瞬間の真剣さだろう。無論、映像の中でも真剣に演じている。自分ではない別の誰かの人生を見せるために、真剣勝負で望んでいる。ただ、違うのは、やり直しが利くと言う事である。舞台にやり直しは存在しない。そのまま流れに任せて、一気に駈け抜けていかなければならない。舞台は、生き物である。一呼吸、間、全てが計算された上で、展開されていく。映像という演出がない分、そこに存在する全てが調和という演出をしなければならない。
舞台上の小道具の位置の変動、それは、役者の動きに合わせて行われていく。無理のないように、変に映らないように、呼吸を読み取り、光と音の演出の中で手際よく動かされていく。
息が詰まるような展開。
美紀は、身体を乗り出すようにして舞台を見詰めた。
(舞台か……いいな…)
美紀は、俳優である。自分をアイドル的に扱った記憶はない。それなりに若いタレントがする事は一通り齧ってきたが、周りが思うほどにアイドルをしていない。歌よりも、演じる事が好きでこの世界に来た。
誘われるまま。と言う事も事実の一つではあるが…。
そういえば、写真集も出している。18の時に出したから6年前のものだ。そんな物を持っている人にめぐり合う可能性は少ない。発行部数からいっても。それなりのファンレターの数、人気が出てきたと事務所は、写真集を発売させた。一冊目はそれなりに売れた。問合せ件数に合わせるように2冊目は多い目に発行し、完売した。増刷、そして、サイン会。イベントは、盛況に終わった。でも、それは、事務所の予定ほどではなかった。それがきっかけで事務所とはもめ、別の事務所に入った。今の事務所が採ってくれなければ、たぶん、芸能界からは姿を消していただろ。そういった知人は少なくないし…。
それよりも、ここのメンバーは誰も自分の事を知らなかった。これが事実だろう。周りでちやほやされるほどには売れていない、と言う事の証明だろう。最も、今の事務所ではそんな事が関係ない。仕事は、2種類の方法で掴み取ってくる。オーデションと売込だ。そのどちらも事務所と役者が行っているから、4種類の方法で仕事を得ているといっても過言ではない。役者である以上は、一定の能力が問われる。その能力を身につけるのは実践でしかない。色々な役をする事で自分を成長させていく。
成功と挫折。そんな繰り返しの中で日々が過ぎ、そんな繰り返しの中で去って逝く。
事務所から消え、芸能界から消え、人の記憶からも消えていく。
望んだ夢を掴むのか、夢を泡の様に消すのかは、その人しだいなのかもしれない。

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