これも…恋物語(36) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

2月14日。
「チーフ…これ……」
麻奈は、いつもと同じように早く出勤している哲也に合わせて出社するとチョコレートを渡した。少し奮発して。いや、結構考えて買った気がする。久しぶりに…大真面目に買ったのかもしれない。
「…ありがとう……義理を…」と、いつものように、他の女の子に返すように顔を見ずに返事を返した。
「本命がよかった?」
カチンとしながらも麻奈は、笑顔を無くさずに尋ねた。
「……倦怠期にでも突入したのか?」
哲也は、明らかな声のトーン違いに手を止め麻奈を見た。
「………冗談です…」
「それなら、いいけど……あっ、それから…明日辞令が出るけど…」
「えっ…」
「3月15日付けで、ここのチーフだから……」と、哲也は、麻奈を見ずに、書類を確認しながら言った。
「はい…えっ?…」
「メンバーで抜けるのは、俺だけ…新しいのが新人で来るから…」
「でも…高須さんや柴山さんは…?」
「二人とも移動も昇進も辞退した…高須さんは、大阪営業部企画部長を蹴ってここに留まるし、柴山さんは、現在受け持っている仕事を引き継いだら、会社を辞めるそうだ…」
「どうして…」
「奥さんの実家の工務店が傾いたというのが公式の理由だけど…」
「だけど…?」
哲也は、書類を机の上にポン!と投げ出し、一呼吸の間を空けてから麻奈を見た。応えるかどうか迷っているわけではない。麻奈には、聞く義務がある。少なくとも自分のチームに入るメンバーであり、自分のチームの時に退社するといわれているのだから。だが、次々に現実を突きつけるのは気がひけた。
誰もが色々な事に直面をする。誰もがその時に選択を迫られる。
現実を知ることが全て正しいわけではない。
「昨日、調べた段階では、倒産整理が必要だね…」
哲也は、溜息をつきながら言った。いま言うのも、先で言うのもそれほど変わりはしない。先延ばしにしても、ということなら…。と。
「だったら…」
「沈む船はほっておいて…ここに残れって?」
「………そうですよね」
「ああ…人との関係がなくて、営業は成立しないから……」
「ん…哲也は……何処に行くの?」
「内緒…」
「意地悪……」
「企画室統括次長……大抜擢だね…」
「…どうして?」
「俺に聞かないで……」
「でも……」
「もちろん、コネクションはないよ……ただ、企画室は、2年後には、社内子会社予定だから…そこに、いってもいいかどうかの確認はあったよ…」
「………」
「チーフのほとんどが断って、受けた何人かは、出世した、と…」
「そうなんですか…」
「なぁ…運命とか、宿命とかさ、突きつけられたとき、どうする?」
「…考えます」
「だよな……俺は考えられない…、その考える事から逃げ出したくて、すぐに答えを出すようにしている…考えても、答えはなかなかまとまらないし、明日の事も保証されてないの、その先まで視野に入れて考えられない……だから、受けた…その結果が良かっただけだよ…逃げるか、進むかなら、……せめて、進みたいよね…」
「うん…」
麻奈は、自席に座り、溜息をついた。