これも・・・恋物語(35) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

バレンタインデー前日。哲也は、ほろ酔いのまま、通いなれた道を歩いていた。今更ながらに寂しい自分を知る。いまさら、会ってどうなるのだろう。でも、もう自分の気持ちに背を向けるのは嫌だった。
何も言っていない。何も言われない。だからそれに甘えていた。
でも、そこから、やり直そう。時は、戻らないけれど、そして、関係は変わってしまうかもしれないけれど…。他に答えは出なかった。結構、まじめに考えた。たぶん、記憶の中で一番深く考えた、はずだ。
考えれば、恋愛的な考えに思考を働かせた事はあまり無い。
そうやって逃げてきたんだろう。
今なら素直にそう思う。いや、いまも逃げている。酒の力を借りているのだから…。
高須健吾と晶子の存在は、大きかった。人生観を変えるとは言わないが、自分の弱さに向き合う勇気をくれた事は確かだった。
俺だったら……逃げるかもしれない。
そんな状況にあの二人は向き合っている。一応、奇跡は、続いている。何処まで行っても安心のできない状態が続いている。それでも、高須は、信じている。このままいつまでも奇跡が続くと…。
もう、何年前なんだろう。初めてバレンタインデーというイベントとで告白されたのは。
懐かしい思い出にしていた。返事をするタイミングを見つけられないままに、自分の気持ちを偽っていた。いつ襲ってもおかしくはない。
ふーっ。
酔っていた筈だが、意識がはっきりとしている。たぶん、緊張の所為だろう。もうすぐ26。見知らぬ会社に飛び込みで営業ができても、自分を売り込む事は苦手だ。できる事は、たぶん、自分を真直ぐにだして真摯に対応するだけだった。
気前良く在りたい。それは、相容れなかった親父の口癖だった。
哲也は、親父が苦手だった。小学校低学年の頃までは親父!親父!と追いかけていたはずだがいつの間にか苦手になっていた。話す機会が減った所為かもしれないが…。互いが何を考えているのかわからなくなってからだ。
もっとも相手の考えなど解るわけが無い。それが当然だと知るまでに結構な時間がかかった。相手の事が何でもわかるというのはうぬぼれだ。そのうぬぼれが溝を作っている。話さずにわかることなど無い。超能力者?勝手に思考が読めるのなら別だが…。
結局、その頃から、『紡ぐ』という事をしてこなかったのだろう。
昨日、親父に久しぶりに電話をした。
何の事は無い。言葉を交わすだけだ。
電話を切る際に言った「また」という別れ言葉が重く感じられた。それは約束だ。言葉に代えない約束。
ふーっ。
哲也は、預かっていた鍵を取り出すとオートロックを開けようとした。が、やめた。背水の陣というのだろうか。メールボックスに向かい、絵里の部屋のポストに合鍵を落とし込む。
はーっ。ドキドキと胸が高鳴っている。周りにいれば聞こえてきそうなほどにしっかりと。ルームナンバーを押し、呼び出しボタンを押す。返事が無い。
少しの時間をあけ、再び繰り返す。
『はい…って、哲也…』
「あっ…あのさ……」
『ごめん、友達が着ているんだ…』
「アッ、わかった……」
『ごめんね』
「いや、突然、きたんだし…」
哲也は、モニターカメラに背を向けるとロビーから出て行った。なかなか予定通りに事は運ばないものだ。大体、他人が自分の思い通りに動くなどと考える事が間違えている。
哲也は、久しぶりに空を見上げた。月が、下限の月が、空が笑っているように見せてくれる。まるで「馬鹿だろう」と言っているかのような冷めた夜空の笑い顔だった。

「ごめん…ちょっと…出てくるね」
絵里は、受話器を置くと慌てて上着を手に取り、着ていた麻奈に言った。
「ん、恋人?ごめんね…気を使わなくてもよかったのに…」
「ううん…恋人になればいいな~って思っている人」
「そう…まだ片思いなんだ…」
「うん…」
「早く行かないと……頑張れ…」
「ありがとう…」
絵里は、クスッと笑みを零すと勢いよく部屋を飛び出していった。

(まぁ、仕方ないよな…)
哲也は、ブラブラと自宅に向かって歩き始めた。とりあえず何もしたくない。でも、何かをしていたい。そんな不安定な気持ちで一杯だった。莫迦気た話かもしれない。でも、それが素直な感情だった。
(こんな時は……そう、ひとつの言葉を繰り返しておくのがいいんだよな…)
絵里のマンションから自宅に向かう途中にある公園、そのベンチに腰を下ろし月を見上げた。途中で買ったコーヒーを飲みながら、憂うように月を見詰める。何も変わらないのに…。

「あれ……何処にいったんだろ…」
何度か哲也の携帯をコールをした後、絵里は、マンションから哲也のマンションに向かって走っていた。行き違いになったのかもしれないと駅へ向かい、行き付けの呑み屋にも行ったが出会えなかった。
(大体、携帯にでないってどういう事よ…)
はーっ。と、溜息をつき、自宅と哲也のマンションの間にある公園の入り口の柵に腰をかけながら、哲也の行動をなぞってみた。が、考えられる範囲はすべて見た。
「もう……」
きっと麻奈が来ていなかったら、哲也が帰ってくるまで哲也のマンションロビーで待ち続けただろう。が、それもできない。家を出て20分程度、いい加減に戻らないといけない、と思う。
(仕方ないか…でも、なんだったんだろう…)
絵里は、溜息をつきながら自宅へと足を向けた。