これも…恋物語(12) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「ん~~」
哲也は、オフィスビルの屋上にある庭園で朝食をとっていた。久しぶりに困っている。女性の部屋においてきたからそれほどは怒っていないと思うが…どうなる事か、不安が一杯だった。
大体、女の扱いは苦手である。
初めて告白されたあの日からずっと時が止まっているかのように女性の相手は苦手なままだ。だからといって同性愛に走る気も無い。興味も無いが…。
ずっと心に引っ掛かっている。あの時、できなかった返事が。
もし、あの時、きちんと返事をしていたらどうなっていたんだろう。
16の冬、小池恵美は、家の前でずっと哲也の帰りを待っていた。一年ぶりくらいの訪問だった。別に特別な意図も無く部屋に招きいれた。友人に対する普通の対応のつもりだった。
二人目の告白。
「ずっと好きだった」と恵美は照れながら微笑んでくれた。その告白に対する答えは、自分でも不思議なほど簡単にでた。哲也もずっと好きだった。中学校で出会い、異性と認識した時からずっと。きっと、親友が告白しなければ、卒業式の日にでも告白していただろう。
いや、それでも告白する事はなかっただろう。
哲也が予定した告白日、それは、絵里が告白してくれた日よりも後だった。
絵里が告白してくれてから約一年近く、この間、恋だの愛だのを考えるような生活はしていない。ずっとあの日から止まったままになっていた恋という感覚の時計は、ついこの間動き始めたばかりだ。
好かれて告白されて、付き合うのだから、この瞬間に振られる事はない。でも、真っ直ぐに気持ちを告げてくれた心に返事を返していないのは間違えているようにも思えた。いや、本当は答えがはっきりしていた所為だろう。
ここでは、誰も邪魔をしない。
「ごめんな…」
「えっ?」
「……俺、好きな子がいるんだ…その子には、まだ何も言ってない…」
「………」
「1年と少し前くらいになるかな、告白をしてもらって、そのままになっているから…もう、俺の事はどうでもよくなっているかもしれないけれど…それでも、俺は彼女が好きなんだと思う…だから、これは受け取れないよ…」
「哲也…」
「ごめん…」
「ううん、いいの……じゃあ…友人チョコとして受け取って…」
「…うん…」
「帰るね、あたし…」
「ああ…」
他に言葉が思いつかない。かけられる優しい言葉など無いのかもしれない。今の自分が何を言っても傷付けるだろう。いや、後でもまた傷付ける事になるかもしれない。
「ねぇ、哲也…」
「ん?」
「哲也の好きな子の名前…教えてくれる?」
「……ん…」
少し戸惑いながら哲也は返事を返した。背を向けたままの二人には言葉の声のトーンだけが全てだった。息苦しい程のプレッシャーがそこにあった。
「あたしの知っている子?」
「…ああ…」
「……絵里だったら…ううん…やっぱりいい」
言い残すように恵美は駆けて行った。
哲也が追いかける事は無かった。追いかける権利も無いだろう。追いかけて何をする?どんな言葉をかける?追い詰める為の言葉をかけるのか?
あの時から、女性への扱いはちっとも成長しない。ただ、告白されてもそう動じる事はなかった。初めての告白は、熱病のような火照りをくれたが、二度目以降からはそんな緊張感にも似たほてりは無かった。その理由は、残念ながら解らないが、今にして思えば、冷めていただけかもしれない。
哲也は、空を見上げるようにしてベンチにもたれ掛ると深い溜息をついた。