これも…恋物語(11) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「あっ…ここ……は?」
差し込んできた日差しに気付くように麻奈は目を覚ました。少し時が止まったように感じる。何処だろう、ここは?と思考をめぐらせる。残念ながら、記憶にあるものとは一致しない。悪あがきするように、記憶にある部屋の全てと照合をしながら、見慣れない天井を見詰め麻奈は記憶を手繰った。
(あっ…)
給料にもならない残業のあと、売り言葉に買い言葉のように上司と呑みに出かけた。そこで、何を話したのかは覚えていないが、いつになく急ピッチでジョッキーを空けた記憶だけが残っている。楽しく飲んだ気はする。弾けて、嫌な事を何もかも吹き飛ばすようにはしゃいだ気がする。気持ちは充分に満足しているが、お腹の辺りは少しばかり重い。
呑みすぎ食べすぎ、と、言うところだろうか。
それにしても、何処だろう。ここは。まさかとは思うが結城宅だろうか。
(寒い…えっ?)
布団を被りなおすようにかけなおした瞬間、麻奈は自分の状態に初めて気がついいた。
(まさか…)
隣で長髪の男は静かに寝ている。起こして状況を聞くには勇気が必要すぎる。
(えっ?長髪?)
麻奈は、手で自分の身体を擦りながら感じた状況を確認し始めた。着ているはずの服が無い。ブラジャーも、ショーツも身につけていない。それどころか、ベット脇の床の上に脱ぎ散らかした服の上に堂々と置かれている。
(つまり…)
血の気が引いていくような思いだった。哲也とならまだしも、見知らぬ男とベットインしている。この由々しき問題に正面から立ち向かうには、結構な勇気が必要になってきた。
(えっ…嘘…嘘でしょ?)
正体不明になるまで呑んでも男に身体を許した記憶は無かった。が、これは決定的な状況といえる。裸で、見知らぬ部屋のベットで寝ている。肉体関係が無いとはとても思えない。ひょっとしたら今までにもあったのかも知れない、ただ、自分の記憶に無いだけで…。
(ど……どうしよう…)
できる事はひとつだけである。とりあえずここから脱出。あとは妊娠していないかの検査をして、記憶からこの事を消すだけだ。少なくとも、自分の記憶から、この場所の記憶は消しておきたい。
(確か、店を出た後、おんぶをしてもらって…あっ、駅に向かった…)
麻奈は、コソコソとベットから転がるようにしており、ショーツを手にとった。できるだけ音を立てないように、この部屋から逃げる事が大事である。
(あっ…なんでティッシュの丸めたのがあるのよ…)
汚いものを摘むように麻奈は、ティッシュを摘みベット脇のゴミ箱に捨てて、ショーツを穿いた。もう、何もかもが信じられない状況だった。
(それにしても…)
窓にはブラインド。白と黒を基調としたモノクロの家具。飾り気もほとんどなく、無骨なラジカセが床に置かれ、その横にCDが積み重ねられている。片付けが行き届いているとはいえないが散らかっているわけでもない。
(どんな男なんだろう…)
服を着なおすと少なからずの好奇心が戻る。とはいえ、男の顔を見ようとして目を覚まされたら元も子もない。幸いな事に鞄が開けられた形跡も無い。見渡せる範囲に自分の名刺も置いていない。以前、酔って友達の家に行った時は、家族の人に名刺を配るという失態をやらかしている。
(よし…とりあえず、OK)
麻奈は、コソコソとスライドドアを静かに開けた。
「あっ、起きました?」
絵里は、眠たそうに声をかけた。はっきりといえば眠たい。幸いな事に今日は遅出で、まだゆっくりしていられるのが救いである。たぶん、もう哲也は出かけただろう。こういう時はオートロックがありがたく感じられる。
「う、うん…ごめんね…迷惑かけたみたいで…」
麻奈は、振り返りもせずに答えた。
(あれ…この声…何処かで……)
「コーヒーくらい入れましょうか?」
「えっと…ン、御迷惑じゃなければ…」
「って、逃げる予定だったでしょ…」
絵里は、クスクスと笑いながら麻奈の横を抜けた。
(えっ…えっと……総務部の…)
「モカとキリマンジャロがありますけど…」
「あっ、モカで…」
「はい…」