おむすび(5) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

(よし!)
美紗は、パン!パン!と頬を叩き、覚悟を決めて、バスタオルで身体を包んで脱衣場からでた。どうせ、下着が乾くまでにまだ時間がある。
(あれ…)
足元に置いてあった服を見て美紗は、その場に座り込んだ。見事なまでに怖い思いの中での覚悟を裏切ってくれる。
(ありがとう…)
美紗は、用意されたTシャツを着ると新品のトランクスを手にして笑みを零した。確かに新品のショーツが置いてあったら引くけれど、トランクスを置いていかれても…。という感じだ。まぁ、ボクサーパンツとして穿けば気にかからないかもしれないが…。
「ありがとう…いいお湯でした…」
美紗は、髪の毛をタオルで拭きながらリビングに行くとそう言った。が、返事が返ってこない。
(寝たのかな?)
ベットルームを見てみる。が、いない。リビング、脱衣場、バスルームにはいないから、他の部屋を捜索開始。
トイレ、明らかにくつろいでいるだろう、と言いたくなるほどの装備がそこにはあった。
和室にもいない。
洋室A、書斎といったところだろうか。両側の壁にホワイトウッドの棚が床から天井まで隙間無く装填され、本が種類別に置かれている。占い形の本が多い。結構すきなのかもしれない。部屋の奥、窓際にガラストップの机が置かれ、その上にノートタイプのパソコンが二台置かれている。ウインドウズタイプとマッキントッシュタイプだった。
洋室B、ソファーベットが2台置かれている。壁にかけられた絵画がワンポイントになっている。誰の絵だろう。ナンバーが打たれているので版画という事だけがわかるが、絵の価値はわからない。でも、何処か和む感じの絵だった。
本来の目的も忘れ、美紗は、絵を見詰めた。
(あっ…)
バスルームに戻る途中、キッチンの流しの横に落ちている紙を拾った。

「はい?」
『急にいなくならないでよ!』
「怒鳴らなくても聞こえているよ…」
『だって…』
どうやら心細くなったらしい。一応、『よければ着替えに使ってくれ、少し出てくるので、寝ていていいよ、帰るなら、鍵はテーブルに置いてあるから閉めて帰ってくれていい』と書置きをしてきたのだが…。
「俺は、今から食事をするけど…来るか?」
『えっ?』
「但しジャージで来るな…ベット脇のクローゼットに、シャツとジーンズが入っているから…適当に……」
『えっ?』
「店は、マンションを出て、正面の大通りを越えて、賑やかな通りの一本裏側『遊然』という寿司屋にいる」
『…行くって言ってないもん』
「好きにしてくれていいよ…」
『本当にデリカシーがないわね…』
「(別に俺は君の恋人ではない)……帰るのも服が必要だったら同じね…」
俊平は、そういうと電話を切って店の中に戻った。
「お客を連れてきてくれるのか?」
「これだけ繁盛していて…客がいるのか?」
「稼げる時に稼ぐ主義だ…」
大将は、そう言うとフッと笑みを零した。
「そういえば…前の彼女連れてきませんね…」
「フッ、振られた…」
「あら……」
「だから、アイツがここに着ているときは、俺が入ってくる前に教えてくれ…」
「……それは約束しかねるな…」
「冗談だ……俺の連れの彼女だったんだ…マリッジブルーって言うのかな?結婚を決めた途端に不安になって、一緒にいられなくて、野郎の方も手がつけられない状態で、時間の解決を待つとかほざくし…」
「じゃあ…結婚したのか…貢いだのにな…」
「そういう部分、男は損だよな…見返りのない金払いが多くて…」
「それが甲斐性でしょ…」
「そんな甲斐性いらんわ…」
「全くだ……」
「そんな事より、来週のパーティ頼むよ…」
「2次会だったけ?」
「お披露目…件の彼女のな……」
「ああ……ばっちり、」
俊平は、マグロの造りを口に運んだ。口の中で解けて行くような絶妙な味わい。少し残る油ぽさも焼酎が綺麗に流してくれる。
「らっしゃい!」
大将が元気よく声をかけるのは一見の客の時だ。
「早かったな…」
少し俯き加減で、コートをバイトの女の子に預け美紗は俊平の隣の席に座った。少し目がはれぼったい印象を受ける。少し目線がきつめの美人系、笑顔よりもすまし顔が似合うと言った感じが美紗にはあった。

ブラックジーンズに、白のカッターシャツ。襟元からのぞく黒のTシャツ。細い線がスマートさを強調している。すっぴんなのに華やいでいる。残念ながら泣き腫らした目の感じで艶やかさは無いが。
「美人(シャン)じゃん…」
「?」
「あっ…もうシャンとは言わないのか…美人じゃん」
「嘘つき…」
「えっ?」
「そんな事思ってないでしょ……」
「いや、充分にタイプですよ…恋人がいなかったら口説くくらいに」
俊平は、そういうと呑んでいた焼酎を美紗に渡した。
一口、口に含み、広がる芳醇な香りを愉しんだ後、「あっ、おいしい」とい言葉が漏れた。
「同じものを」
「あいよ…」
大将は、そう言うと、少し立ち位置をずらした。カップルになった俊平に対する配慮であった。
「ここは長いの?」
「ん~、常連として扱ってもらっているのかな?」と大将に確認を入れると「もちろん」とウインク付きで返してくれた。
「5年位かな……」
「そうなんだ……大きなマンションに住んで…寿司屋さんの常連…稼ぐのね」
「まぁ、それなりの年齢だから…」
「25~6でしょ?」
「ほぼ+10だな…」
「えっ?…35なの?」
「まだ、34だけど……君よりも+10かな…」
「うん…もう少し若いけど…」
「仕事は?」
「質問好きだね…」
「だって……」
「プランナー…ウエディングが中心だけどね……」
「式場に勤めているとか?」
「いや、最近は、挙式場が斎場に変わっていくような世の中だぜ…ホテルや式場とも契約はしているけど、基本的に一生に一度の思い出作りのため、新郎新婦に雇われています」
「そうなんだ……でも、」
「ん?」
「……どっかで会わなかった?」
「さぁ…?この仕事していると、比較的、色んな人と会うからな」
「………」
「好きなものを食べな……但し、電話はマナーモードで、使う時は外に出ること、食を愉しむ為に食べてね」
「………うん」
美紗は、キョトンとして大将を見た。何も言わずに大将は、にっこりと微笑み「その通りだ」と意思表示をした。