これから… 9 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

あの時は、吸い始めたタバコを何本もふかしていた。部屋がくぐもるくらい吸った気がする。持っていた煙草が全部無くなった。予備としておいてあった1カートンが全部。山のようになった吸殻、その日を最後に煙草をやめた。

引っ越しを終えた後、呑んだ酒が初めての詰まらない酒だった。

居酒屋で飲み食いして、友人と騒いで、連れて行ってもらったBarD。友人達は、居酒屋でナンパした女性達とボックス席に座り、ボトルをキープして騒ぎ続けていた。確か、健太を気遣ってのナンパだったはずだが、自分達が盛り上がっていた。女性も一人足りない事もあり、健太は、カウンター席にフラフラと移った。

水割りを頼んだ健太にカウンターのスタッフは水をだした。

初めて入ったBar、初めて見るバーテンダーは、何処か別世界の人のように思えた。だが、注文とは違う商品に健太はカウンター越しに水城の胸倉を掴んだ。

「色んな酒を呑む人がいる」

「えっ?」

「どんな酒であろうとも、俺達は口を出す気は無い」

「だったら!」

「それが明日へつながる力になるのなら、だ…」

「……えっ?」

「嫌な事、愉しい事、悲しい事…色々あるだろうけど…」

バーテンダーは、そう言って言葉を区切り、健太の手首をひねり上げた。そして首を少し動かすと、他のスタッフがボックス席へと向かった。

「追い出すのか?」

「…静かに飲んでもらうだけですよ…」

「?」

「他の人に迷惑の掛かる呑み方はおやめください……と」

「でも、俺には…」

「呑みすぎは、程ほどにした方がよろしいですよ…」

「あ、あんたに何が解る?」

「何か解ったほうが良いですか?」

「……えっ?」

「お客様の事に触れるのは、オーナーの意向に添いませんので…」

「………」

「何があったかは知りませんが…愉しく呑まれた方が身体にはよろしいかと」

「……何だよ…説教なんかされたくないよ…」

「そんなつもりはありませんよ…その水を飲んで、まだアルコールが呑めるのなら…遠慮なく」

「……いいよ、もう…」

健太は、店を後にした。翌日、冷静になって、店が開店する前に謝りに行った。その店は隠れ家のような感じの漂う店で、まだまだガキだった健太にとっては敷居が高く感じられた。酔った勢いでもなければ入れないような気もする。

「どうしました?」

「へっ?」

不意に掛かった声に健太は振り返った。そこには昨日のバーテンダーがたっていた。彼の名前は、水城裕也。BarDのチーフバーテンダーだった。この店が、初めてのバイト先になったのは、たぶん、昨日の晩の水城の言葉の真意を知りたくなった所為だろう。

Barには色々な人が来る。数多の想いがその場所には集い、元気に去っていく。そのBarの客は、誰もが胸を張って帰っていく、そんな風に感じられた。

リバイバー。水城は、カクテルの総称をそう呼び時間を掛けて色々な事を教えてくれた。

「少しは……成長できてるのかね…俺は……」

不足の事態が生じるといまだにBarDの世話になっている。正直に言えば、すぐにでもいきたい。答えをだせない今というときから逃げるために。と、いっても考える時間を先送りにするだけだが。でも、それは、もうできない。麻奈を一人にするわけはいかないのだから。

(俺が……親父なんだから…)

弥生が姿を消して、煙草をやめた。

麻奈が現れて、一欠けらの勇気を持った。

何かが離れ、それ以上のものが手元に届く。そんな感じすらする。

「弥生…ごめんな…」

 

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