その昔、聖なる白木があった。
大きく葉が生い茂り、人々や動物たちが集まった。
聖なる楓の木だ。

そう、そなたと同じ名だ。
偶然ではあるまいが、それは今、重要なことではない。

その木の下に一人の少女がやって来た。
少女は楓の聖霊に頼み事をした。
楓の聖霊は承諾し、少女は安心して帰って行った。

その夜、少女の時が止まった。
少女の体は氷のように冷たく固くなり、両親は嘆いた。

何故、このような事が起きたのだ。
私たちが何をしたと言うのか。

両親は考え、楓の木にお願いすることにした。

「どうか、娘の時を戻してください。私たちのかわいい、かわいい娘。この命と引き換えてもいい。甦らせてください」

楓の木は快諾し、少女の時は戻った。
赤ん坊へと。

両親の命は失わなかったが、また、嘆いた。

「せっかく大きく育てたのに何故、このような仕打ちをするのか。また、手をかけねばならないではないか。こんなことなら、あのまま時が止まったままで良かった」

それを聴いた瞬間、楓の木々は黒く染まり、枯れ果てた。

動物たちはびっくりし、その者たちを責めた。

「なんと愚かなことを。少女は自らの時を止めたのに、楓の木に無理を言うとは」

両親は驚き、訊いた。

「娘が自らの時を止めた?そんなバカな。
娘は結婚が決まっていた。幸せになるところだったのに」

立派な角をはやしたシカが言った。

「彼女はそれを望んでいなかった。10年後、再び甦えり、あなた方がいない生活を望んだのだ。

「何故、私たちが。あの子に何をしたというのだ」

「あなたたちは彼女を奴隷のように扱い、贄として差し出し、自分たちの財を蓄えようとした。それをあの子は拒んだのだ」

「子が親の為になるのは当然のこと。その為に今まで育ててきたのだ。そんなバカなことがあってたまるか」

その瞬間、赤ん坊が鬼へと変化した。

「お前たちの為に私が食べてあげよう、その邪悪な心を」

そう言って口を開けると心臓に噛みついた。

悲鳴をあげた両親は生き絶え、そして、美しい光の球へと変化した。

鬼がその光を楓の木に埋め込むと、楓は美しく甦った。

鬼は大層、喜び、それ以後ずっと、楓の木と共に命尽きるまで過ごした。

そんな物語がある。

その話の意味することがわかるようになれば、人々の争いはなくなるであろう。


ゼウス 光の魂と共に