「タクシー運転手」 | 土方美雄の日々これ・・・

「タクシー運転手」

1980年、ソウルの個人タクシー運転手マンソプは、光州まで行ったら大金を払うという外国人がいるという話を耳にし、滞納している家賃を支払うチャンスとばかり、その仕事を横取りして、ドイツ人ジャーナリスト、ユルゲン・ヒンツペーターを無理矢理、自分の車に乗せて、光州へと向かう。

ところが、光州では、学生や市民が軍政の圧政に抗議して、大規模な反政府デモをくり広げ、軍と一触即発の状況となっていた。危険だから、直ちにソウルに戻ろうと主張するマンソプと、彼の制止をふりきって、取材を始めるヒンツペーター。そして、ついに軍は、学生や市民を「暴徒」「アカ(共産主義者)」と見なし、暴力的な弾圧にうって出る。ソウルのアパートに、11歳の娘を残してきたマンソプは、ヒンツペーターに無断で、光州から、命からがら、脱出するが、やはり、お客であるヒンツペーターを見捨てることは出来ないと思い直して、再び、光州へと、車をUターンさせる。ところが、彼が光州で目にしたのは、デモに決起した学生や市民に、容赦なく銃弾を浴びせ、死体の山を築く、軍の姿だった。

光州大虐殺の実態を初めて、世界に知らせたドイツ人ジャーナリストと、それを助けた無名の韓国人タクシー運転手という実話を元に、チャン・フン監督が制作した、2時間を超える渾身の社会派超大作である。主演のマンソプには、韓国を文字通り代表する名優、ソン・ガンホ。ピンツペーターには、トーマス・クレッチマン。

臆病でせこい、ごくフツーの名もなきタクシー運転手が、光州事件を目撃し、勇気と正義の心を取り戻していく、感動の物語である。果たして、マンソプとヒンツペーターは、無事、戒厳令下の光州を脱出し、その実態を世界に発信することが出来るのか???

キネカ大森で、17日まで、1日1回、上映中。秀作です。