代休に編集長からの電話で呼び出されたパンプルムース氏を待っていたのは、英仏間を結ぶ飛行船就航記念機内食メニューを考える仕事でした。
食の国フランスの威信がかかっているため、パンプルムース氏はわれらが愛犬ポムフリットとともにブルターニュへ飛びます。
折しもサーカスが興行中でゴム女と鰐、おまけに彼を追い回す謎の老婆も出現します。
グルメ珍コンビのシリーズ第5作です。
主人公のアリスティード・パンプルムース氏は、パリ警視庁の元刑事で、フランスで、最も伝統と権威あるグルメ・ガイドブック『ル・ギード』の覆面調査員です。
パンプルムース氏は、年齢は50代で大変な美食家でワイン通、男性的魅力にもあふれ、“女にかけては凄腕の刑事”と呼ばれていましたが、今は妻のドゥーセットに頭が上がりません。
そんなパンプルムース氏は、元警察犬でブラッドハウンドの愛犬ポムフリットと一緒に、調査のために各地のレストランを訪れています。
ポムフリットは体重40~50キロの大型犬で、老犬ホーム送りになりそうなところを、パンプルムース氏に引き取ってもらったことから、主人にはきわめて忠実でした。
ちなみに、フランス語でパンプルムースとはグレープフルーツのことで、ポムフリットとはフライドポテトのことです。
物語は、パンプルムース氏が編集長からブルターニュとイギリスとを結ぶ飛行船定期便の就航式の後の両国の要人が乗る初飛行で供されるメニューを考えてほしいというものでした。
パンプルムース氏とポムフリットは、ポール・サン・トーギュスタンという小さな港町に向かい、編集長の予約した“タイ・コズ”という小さなホテルに向かいます。
ところが途中、道路の左右を間違えたような尼僧を満載した車と事故を起こし、車は動けなくなってしまいます。
そんなパンプルムース氏とポムフリットを救ったのが、ちょうど通り合わせらヤスミンという若い娘の運転する車でした。
ヤスミンはポール・サン・トーギュスタンで興行中のサーカスの空中ブランコ乗りでした。
ようやく“タイ・コズ”にたどり着いたパンプルムース氏とポムフリットでしたが、ホテルの食事は散々なもので、おまけにパンプルムース氏はポムフリットの鼻に傷を負わせてしまいます。
さらに翌日、チケットを買いにサーカスに行くと、ヤスミンが昨夜の興行で空中ブランコから落下し、意識不明であること、救急車で運ばれる際にパンプルムース氏の名前を口にしていたことをサーカスの団長でヤスミンの母親のマダム・カウチューから聞かされます。
ショックを受けたパンプルムース氏は、ヤスミンの事故の真相を探り始めます。
しかし、怪しげな尼僧やパンプルムース氏を追い回す謎の老婆も登場し、謎は深まるばかりです。
ミステリとしては、前作に引き続き、サーカスで何が起きたのかという謎を解くホワットダニット〔Whatdunit〕のミステリです。
前作(『パンプルムース氏のダイエット』)以上にミステリ色は濃厚で、謎解きミステリとしての完成度も上がっています。
さらに、終盤に入り飛行船をめぐる陰謀の存在も明らかになり、サスペンススリラーとしての要素も加わります。
パンプルムース氏は相変わらず思い込みが激しく、その推理も思い付きが多いのは変わりませんが、今回は、その推理もそれほど的外れではありません。
しかし、何といっても大活躍なのはポムフリットで、その真意はなかなかパンプルムース氏に伝わりませんが、事件が無事に解決したのは、ほとんどポムフリットのおかげと言っても過言ではありません。
また、編集長も珍しく現場に登場し、パンプルムース氏に協力します。
今回、パンプルムース氏を絡む女性はゴム女ことマダム・カウチューです。
中でも、パンプルムース氏とマダム・カウチューとが、マダムのトレーラーハウスで一夜を過ごすことになる顛末は抱腹絶倒です。
一方、ミステリ色が濃くなった分、パンプルムース氏とポムフリットのドタバタぶりはやや落ち着いています。
エロティックなネタも控えめでしたが、最後の最後に笑わせてくれました。
パンプルムース氏とポムフリットの今後の活躍を読むのが楽しみです。
表紙のイラストは、絵本作家でイラストレーターの上垣厚子さんです。
飛行船にしがみつくパンプルムース氏と鰐、そしてポムフリットが描かれています。
上垣厚子さんのブログはこちらです。→https://atsukou.exblog.jp/
[2022年5月12日読了]
“パンプルムース氏シリーズ”のこれまでの作品を紹介したページは次のとおりです。
第1作『パンプルムース氏のおすすめ料理』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12728851573.html)
第2作『パンプルムース氏の秘密任務』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12729939153.html)
第3作『パンプルムース家の犬』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12733097399.html)
第4作『パンプルムース氏のダイエット』(https://ameblo.jp/hiikun-book/entry-12742272375.html)