「殺人鬼がもう一人」若竹七海 | ひいくんの読書日記

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ひいくんが、毎日の通勤電車の中で読んでいる本を紹介します。
通勤時間は30分ほどなので、軽い読物がほとんどです。

悪いヤツラが暮らす町・辛夷ヶ丘で続発する不審な出来事。
解決に奔走するのは悪徳警官
作者ならでは、毒気たっぷりの連作ミステリです。

6編の短編が収録された連作短編ミステリです。
ゴブリンシャークの目
丘の上の死神
黒い袖
きれいごとじゃない
葬儀の裏で
殺人鬼がもう一人

物語の舞台は、都心まで1時間半の寂れたベッドタウンの東京都辛夷ヶ丘〔こぶしがおか〕です。
辛夷ヶ丘は、20年ほど前に“ハッピーデー・キラー”と呼ばれた連続殺人事件があったきり、事件らしい事件もないのどかな町です。
全編を通して登場するのは、定年まで勤め上げ、その間にたっぷりと貯金をし、年金をもらって憂いのない老後を送ることがただ一つの野望だという辛夷ヶ丘警察署生活安全課砂井三琴です。
砂井警視庁の人材の吹き溜まりと言われている辛夷ヶ丘警察署に不倫のうわさが原因で飛ばされた180㎝に近い身長で、三角白目の大女でした。

各編は、2週間前の放火殺人以来、空き巣被害の訴えが相次ぎ、辛夷ヶ丘署がてんてこまいの中、町で一番の名家・箕作一族の最後の生き残りである箕作ハツエがひったくりに遭うという町にとっての大事件が発生し、生活安全課捜査員砂井三琴が、相方田中盛と共に捜査を命じられる(「ゴブリンシャークの目」)、与党の推薦を受けた現職高橋ヒロムとリベラル系の新人英遊里子が互角の情勢という辛夷ヶ丘市の市長選挙の最中に、英候補慎一郎が自宅で急死するという事件が起き、砂井田中生活安全課荒川課長からその事件を殺人事件として捜査するように命じられる(「丘の上の死神」)、共に警察一家原梅乃内村弘毅との結婚式で、世話役を務める梅乃竹緒関係者のトラブルの解決に奔走する(「黒い袖」)、悦子が45年前に立ち上げたホームクリーニング会社向原清掃サービス”の専務を務める向原理穂砂井三琴から潜入捜査への協力を頼まれる(「きれいごとじゃない」)、辛夷ヶ丘千倉地区で本家と呼ばれる旧家・水上家当主老女サクラが参列した2年前に辛夷ヶ丘の戻って来たものの、1年前に何者かに頭を割られ、1年以上の昏睡を経て亡くなったサクラ大前六花の葬儀の様子を描く(「葬儀の裏で」)、辛夷ヶ丘が故郷の佐藤マリ誠治が、クライアント辛夷ヶ丘別荘で依頼された仕事をするシーンから始まる(「殺人鬼がもう一人」)とバラエティに富んでいます。

私のお気に入りは、第3話「黒い袖」です。
風涼やかなる9月の絶好の結婚式日和のある日、共に警察官梅乃内村弘毅の結婚式の世話役を頼まれた原竹緒が語り手を務めます。
原家内村家警察官一家のため、参列者はほぼ全員が警察官、式場も共済会館ということで、警備面を含めこれほど安心できる結婚式はないはずでしたが、関係者にはトラブルメーカーが多く、次々と発生するトラブルの解決に竹緒は奔走することになります。
登場人物が全て悪人というこの作品の中で、唯一、この話だけは竹緒が真の悪人ではないところが救いです。
読後感の悪い話は好みでないことに気づかされた1編です。

最初はこの作品がいまいち楽しめないのは、善人がいないからかと思っていましたが、典型的なピカレスクロマンでまさに悪人しか登場しない第5話「葬儀の裏で」は意外と楽しめました。
そして、この2話の共通点は、砂井三琴がほんのわずかしか登場しないことに気づき、この作品の他の各編が楽しめなかったのは、砂井三琴が好きになれないことが原因であることがわかりました。

 

この作品は、いわゆるイヤミスというよりは、ユーモアミステリだと思います。

作者はブラックユーモアとして描いていると思いますが、個人的にはこのユーモアは肌に合いませんでした。

 


表紙のイラストは、イラストレーター杉田比呂美さんです。
坂道の上に立つ砂井三琴砂井より“20センチは背が低く、50センチ以上たっぷりした胴回り”の田中盛が描かれています。
杉田比呂美さんのウェブサイトはこちらです。→http://sugita-hiromi.jp/index.html
 
[2022年5月11日読了]