ひぐまブログ-死刑でいいです  Amazon→死刑でいいです --- 孤立が生んだ二つの殺人

著者:池谷孝司
発行:共同通信社(2009年9月)


2000年7月、16歳のときに母親を金属バットで殴り殺した山地。
たしかに彼の家庭環境は周囲の同情を買うほど悲惨なものだったようです。
現に、同級生の母親を中心に情状と心のケアを求める嘆願書を作成し260の署名を集めたそう。


少年院で3年を過ごし社会に戻って2年、2005年11月大阪で2人姉妹殺害事件を起こしてしまう。
山地逮捕後、死刑を求める嘆願書への署名は3万にも達するほどだったとか。
取調べや公判では詳細は語らず「死刑でいいです」とだけ訴え2009年7月に死刑執行。


最初の事件後の心のケアはどうだったのだろうか、
二度目の事件は防げなかったのかというのが本書の出発点でした。


平成15年の資料では、一般刑法犯の再犯率は成人の50%に対し少年では約22%と
一定の更生教育・ケアの効果は出ているのかもしれません。
しかし凶悪犯罪(殺人・強盗・強姦・放火)の再犯率は、成人でも少年でも約50%だそうです。


山地も少年院ではアスペルガー症候群と診断されたが、
二度目の事件後の鑑定ではアスペルガー症候群は否定され人格障害とされたように
それだけ判断は難しいのかもしれないですが、
最初はそう診断されていただけに、適切なケアができなかったものかと。。。


この部分、話は少しそれますが、本書に収録されていた
元家裁調査官へのインタビューがわかりやすい。

 「広汎性発達障害は他人の感情が理解できない生物学上の問題です。
 一方、孤独を好む型の人格障害は「人間嫌い」という性格です。
 (中略)
 治療的な立場に立てば広めに取る(山地の場合はアスペルガー症候群という診断)傾向があります。
 でも鑑定は簡単には覆されないものを書かなければいけないから、慎重になります」



ここ10年くらいで、企業ではコンプラ活動あるいはその一環としてISO取得などを進め
医療機関でもヒヤリ・ハットや事故を防止するための様々な努力をしてきているように思います。
再犯防止を見据え、そのような取り組みを社会全体のものとして何とかできないものでしょうか。


5年ほど前に発達障害者支援法が施行され、支援システム・ネットワークは
これから整備されていくものと思われますが、発達障害をもちながら
ほとんどの方たちは犯罪とは無縁の普通の生活をされているのだと思います。
これをいかにして更生教育や再犯防止といったことと絡めていくかが今後の課題でしょうか。
すでに取り組みは進んでいるのかもしれませんが、あくまで本書の感想ということで。
これからもっと勉強しますのでご勘弁を。

ひぐまブログ-でっちあげ  Amazon→でっちあげ―痴漢冤罪の発生メカニズム

著者:夏木栄司
発行:角川書店(2002年11月)


冤罪事件を扱ったものに必ず記されているのは
「絶対に認めてはいけない」ということ。

しかし取調室に連れ込まれ、密室の中で
取調官が目の前の席につくなり名を名乗りもせずタバコをふかし
開口一番「お前がやったんだろ!」

社会通念が通用しない世界なんですね。
一般社会では出入り禁止ですめばいい方です。
逆に警察に通報されるかもです。


これはホントにヒドイ事件でした。
痴漢事件なのに現行犯ではないし
証拠と言えるものは被害者女性の証言だけですし。
それでも警察は「かよわい」女性の証言を100%信じてしまうのです。


著者は決して評論家でも専門のライターでもないのですが
後半にあった<司法刑罰>と<メディア刑罰>のダブルスタンダードという一節は
非常にわかりやすく書かれていました。

 「表沙汰になったらおおごとだ、けれども素直に認めれば略式起訴でスピード違反程度の罰金だぞ」

ここでもう「やっていない」という選択肢はなくなってしまっていますが、
名も知れず、タバコをふかし、初対面で「お前」呼ばわりする警官を前に
新聞に名前が載るのと罰金5万円を天秤にかければ
実際にはやっていなくても罰金5万円を選んでしまうのは
わからないではない。


明日からも満員電車ではバンザイしかない。


ひぐまブログ-ラグビー大魂  Amazon→ラグビー大魂(DAI HEART)

著者:藤島 大
発行:ベースボール・マガジン社(2008年12月)


昔一緒にラグビーをやっていた読書好きの友人に薦められて読んでみました。
内容は結構マニアックなのですが、単なるスポーツコラムの域を超えていますね。

本書の一編「胃袋で泣いた」で書かれていた一文をそっくりそのままお返ししたいです。
  ページを繰ると、ふいに光線は放たれた。活字と余白のバランスが、こちらを呼んでいる。
  よき一文というのは眺めるだけででわかる。

何回も読み返せるホンってなかなか出会えないと思えますけれども
彼の文章は、スポーツコラムにありがちな感動とか、選手の葛藤とか、
そういうことだけではなく、文章の良さから読み返したくなります。
原稿用紙5枚分くらいの短さがいいのかもしれないですね。
ラグビーを知っていると、さらに楽しめます。


「ジャパン」に関して書かれているコラムもいくつかありましたが、
「ジャパン」に対するファンの優しさというのは、わたしも常日頃感じていました。
あの感覚は何なんでしょうね。
ファンも立場をわきまえているというか、やっぱり5か国対抗とかスーパー14とかの試合を観てしまうと、
「目標はW杯ベスト4」とか軽々しく言えないですよね。
「とにかく1勝」とか、現実的な目標になっちゃうのもわかります。

そしてサッカーの「ジャパン」のように「監督やめろ!」もなければ卵をぶつけることもない。
JK(女子高生ではないです。日本代表ヘッドコーチのジョン・カーワンです)に対しては、
どんな試合結果でも尊敬の念は変わらない・・・
神様ジーコでさえ批判の矢面に立たされていた時期があったのに。
基本、コワモテだからですかね?JK。


ラグビーコラムということで、やっぱり「ラグビーあるある」っていうのがあるわけで、
わたしが一番共感したのは、コラム「痛さと強さ。」

「東芝府中(現・東芝ブレイブルーパス)は痛い」というはなしなのですが、
わたしもラグビーをやっていた当時(もうやらなくなって5年くらい経ちますか・・・)
「痛い=強い」の印象をもっていました。
試合をやっていて、タックルなどでコンタクトをした瞬間に「痛い」と感じてしまったら
もう負けというか、「こんな痛い当たりをしてくるチームには勝てないな」というのはありました。
もう、なんか強いチームって、体がカッチカチなんですよね。


ラグビーの試合を観たり、こういうホンを読むと「ラグビーやりたいな」って思うことはありますね。
深層心理で体が「痛み」を欲しているのかもしれないです。。。