全然生きてる

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離婚の際に父が私に言った言葉だ。

私は、私は、その言葉だけは許せなかった。違う、それは、間違ってる、こんな、こんな有様にしておいて、こんなことになるまで放っておいて、私、私だって、沢山我慢して、家族に対する憧れなんてとうの昔に擦り切れて、みんなの当たり前を気持ち悪いと思ってしまうくらいには感覚が歪んでしまって、なのに、なのに、誰も悪くない?お母さんの歪みは強くなって、お父さんの歪みも強くなって、どうしようもなくなったのに?お疲れ様も頑張ったねもよくやったもなくて、私、私だって『娘』以上の役目を押し付けられて、こなしたのに、こなせなかった罰は与えられて、ご褒美なんてなくて、どうして、どうして、私が、私が出来損ないだから?私は、私は、何のために?全部飲み込んでやってきたの?なにが、どうして、気持ち悪い、お前みたいな人間が人を殺すんだも、私ならもっと上手く書けるも、お前には自殺する勇気なんかないも、何も生み出してないんだからお前には1円も価値はないも、全部全部、受け入れてきたのに、どうして、どうして、どうして誰も、誰も愛してくれないんですか、どうして、許してくれないんですか、どうして、助けても許しても受け入れても傲慢な事だから飲み込んできたのに、上手くやってきたのに、どうして、それが言える人が、私より、私より、ヘラヘラしてるのに、どうして、どうして、どうして

両親が離婚する。


悲しくはなく、寂しくもない。ただ、ああ、不思議で、それは姓が変わる母に限ったことではなく、皆が「あるべき場所に還る」ことのように思える。


今までが、本当に、決定的に何もかもを間違えていて、私含めた家族…いや、とうの昔に私達は家族と呼べるものではなくなっていたから、私と、父親と、母親は、ここまで続けてきてしまった。誰も彼も疲弊していた。こんなこと、本当ならとっととやめるべきだった。続けたところで誰も幸せになれなかった。だから、私は口が裂けても誰も悪くなかったなんて言えない。その代わり、誰も彼も悪かったとは言おう。本当に、心の底からそう思う。


この人達は最後まで互いのことを理解する気がないまま終わるんだなと思ってリビングで泣いたとき、母の手の届くところにティッシュがあったが母は私にそれを差し出さず自分の鼻をかんだ。同様の理由で父の書斎で泣いた時、父は手の届く場所にあるティッシュ箱に見向きもせず、私が離婚の話を聞いた時、笑ったことをあげ「お前がしたことはこういうことだ」と言い泣いてる私の写真を撮った。


怒りや悲しみや呆れはない。泣いてる人間の涙を拭うという発想がそもそも彼等にはなく、そういう、なんと言うのが適切なのか分からないが、所謂「人の心」がないからこんな有様になってしまったのだろう。まあ、私も人のことは言えないのだけれど。


はは、やはり笑い転げたのは正解だった。なにせ笑い話にするしかないのだ。こんな愚かな話など、…やはり笑うしかないのだ。家族の真似事にもならなかった。最低で最悪だ。きっと私が家庭を持つことは無いだろう。私が父のようにパートナーを見限って大事なことを話さなくならないとは限らない。母のように被害者意識が強くなってヒステリックを起こさないとは言えない。それになにより私の子が私のような「人モドキ」にならないとは言いきれない。


ああ、自分で言って納得した。私は「ヒトモドキ」なのだ。化物なんかよりよっぽどしっくりくる。


さて、泣いて喚いて離婚をとめるなんて幻想を父は私に期待していたらしいがそんなのはや土台無理な話なのだ。そういうのは「夫婦ごっこ」をした人間が経験できることであって、はなからそんなことしなかった、いや、できる状態じゃなかったのに無茶である。


終わることへの喜ばしさより、ここまで続けてしまった事への嫌悪感の方が強いのだから最低だ。あとは、ある種羨ましいのかもしれない。彼等は互いに他人になれるが、私は彼等とは他人になれない、法的な手続きをしようが、彼らの血が私には流れている。産み育ててくれた人間に対して酷い言葉だとは重々承知の上で言うが、父と、母と他人になれる2人が羨ましいのかもしれない。彼等のもつ「おぞましさ」から逃げられることが羨ましいのかもしれない。ずるいと思っているのかもしれない。そう強く感じてしまうくらいには、親と子の距離が近くなりすぎていたのだ。


私は侮蔑の感情を私含めた家族全員に抱いている。

そして、これまた私はそれさえも仕方のないことだったと思っている。ははは、どうしようもない。笑うしかないのだ。





23時過ぎ、机の上に1万円札を叩きつけて私は男の部屋の玄関のドアを開けた。


ゲームをする男の隣で私は黙々と酒を飲んでいた。男は友達と電話をしている。だから私は声を出さない。ぼんやりと画面と、時々自分のスマホと、そして壁に目をやりながら心底帰りたいと思っていた。


相手のホームグラウンドで相手が何をしようとこちらが何か言える訳でもなし、そもこちらが誘って付き合わせてしまってるし。もう早いとこ持ってきた酒を飲み切って適当なタイミングで帰ろう。そして二度とこの人を飲みに誘うのは辞めよう。一人で飲んだ方がまだ楽しい。


自分が持ってきた瓶と缶は空にして、私はキッチンのシンクで水を入れ、軽く中を洗う。酔いはだいぶ回っていたがトイレにと席を立った時に目に入った洗面所の鏡に映る私の顔はシラフ同然で苦笑する。席に戻りグラスに手をかける。空のグラスに今入ってる酒を半分移してこの半分を飲みきったら帰ろう。そう考え空のグラスを手に取った時。それは空ではなくカーペットに酒が溢れた。


「またやったな」

こちらを一瞥して男が言った。ゲーム中初めて私にかけた言葉だった。近場にあるティッシュを手に取り床とカーペットを拭く。帰ろう、無理だ、何が無理なのか分からないけど何かが耐えられないと言っている。でも、そんなの理にかなってない。何か、何か


一通り拭き終わったあとうずくまる。精神的な理由ではなくそうしてしまうくらい私は酒が回っていた。私はカバンから財布を取り出す。財布の中には幸か不幸か一万円札が入っていた。クリーニング代としては高いが手切れ金としては妥当な額だろう。テーブルの空いてるスペースに一万円札を置いた。男は一瞬目を丸くした後に私に札を返したがその手を払って置いた。私が過剰なくらい申し訳なく思っている。という印象を持ってくれればいい。


先程まで座ってたソファにはバスタオルが掛けられていた。思い返せば私は1度もこの男の家に泊まらずに帰ったことはなかった。酔ってる状態で家に帰るのが億劫だったというだけの話であったが。


皮肉なものだ、一番酔っている時に一番自分を大事にする選択がとれるなんて。皮肉といえば万札を叩きつけたのは人の心より物が大切だと言っていた男への皮肉としても効いてるんじゃないだろうか。まあ、本人は気づかないだろうが。


カバンに手を伸ばす、玄関へ向かう足取りは覚束無いが、帰れなくはない。突然現れて突然いなくなるのはなによりも私らしいなと思う。言葉はない。これもまた実に「らしいな」と思った。


家に帰る道すがら私は以前飲んだ時に「信用している」と言われたことを思い出した。やはりそう言われた時点で誘うのを辞めるべきだったなと自嘲する。そう言ってくる人間にろくな奴はいなかった。


家に着いて、急に吐き気に襲われる。便器に向かって胃の中身を吐き出したが固形のものはチーズくらいしか口にしてなかったお陰で出てきたのは酒と胃液が混ざったものだった。

口をゆすいで、そのついでにコンタクトを外す。ふらつく足取りでダンボールから500mlの水のペットボトルを取り出して飲んで、服を脱ぎ捨てベッドに身体を沈める。暫くしても吐き気は収まらずこの後数度トイレとベッドの往復をすることになった。


多分友人にこの話をしたら「最低な男だな」と言うだろう。私は、そうは思わない。いや、庇うつもりでも惚れた弱みという訳でもない。おそらくは。


相手に高いことを要求している自覚はある。「私は貴方のやることなすこと何でも受け入れるし許すけれど、何をしてもいいとは思わないで欲しい」なんて「何でも受け入れるから大切にしてね」なんて土台無理な話なのだ。


自分の介抱を自分でできてしまうことを知って、私は本当に寂しくなってしまった。だって知ってしまったならもう頼らない。いいや、初めから頼れてなんていなかったんだと思う。多分それは相手にも多少の問題はあると思うけれど、一番の原因は私自身の厄介な性質によるものだと思う。だから相手に強く出れないし、そも出る気もない。


求めすぎた私がいけないし、なによりそれを一欠片しか見せれなかった私が一番いけない。分かってるんだけどな、分かってるんだけど、分かってないんだよな、きっと。


バイト先で何度か顔を合わせるし、挨拶もするけれど私は目を合わせない。視線を感じても勘違いだろうと決めつける。嫌いになったという訳ではない。好感を抱かなくなったというだけの話だ。それって、見たくないから見ないんじゃない、見る価値のないものと決めたから見ないということと似てる気がする。


ああ、でも、きっとこれってとっても傲慢なものの見方よね、でも私からしてみれば見たくないから見ないことの方が傲慢に思えるのよね、だって嫌いなものなら見なくていいって思ってるってことでしょ?そんなことが許されるなんて、許せないもの。でもきっとこの価値観は一般的じゃないんでしょうね、知ってるわ、どうしてかって?さあ?


なんの話しをしてたっけ?忘れてしまったってことはきっとそれは今の私にとって価値が無くなったものなのでしょう、それとも吐き出し尽くして満足したってことかしら?でも私酔って吐いてる時に一度だって吐ききって満足した試しはないけれど、嘘、言いたかっただけ。多分あるんだろうけど覚えてないわ。


貴方って本当に何も覚えていないのね。

殺されればよかった。

今日ふとそんなことを思った


自分でも気づかないくらい緩やかにでも確実に私は私を歪めてきた。だって私のままじゃ許してくれない。認めてくれない。受け入れてくれない。私が見聞きして感じたことを理解しようとしてくれない、分かってくれない。苦しい悲しい寂しい。冷たい。消えちゃいたい。


こんな風になりたくなかった。とは思わない。そう思える心のような部分は削れてしまった。誰かのせいにしたい、何かのせいにしたい、そんなことは許されない、誰が?誰が?????私が?周りが?どうして、どうして、狡い、ずるい、もう嫌だ、嫌だ。死んじゃいたい。


憧れの人に似てるんです、信用してるから、気持ち悪い、気持ち悪い。気持ち悪い、不愉快、見ないで、こんなにもおぞましいのに、そんな目で見ないで、間違ってて壊れてて歪んでて、なのに、なのに、覆い隠す才能だけがあった。最低だ。


死んじゃおうよ、できないこと言うな。


本当に、本当に、本当に、言いたい。死んでざまあみろって、私に、お前には死ぬ勇気なんかないって言った母親を笑い飛ばしてやりたい。


そうだ、父さんも母さんも嫌いだ、家族なんて呪いだ、ああ、気持ち悪い。何もかも本当は受け入れたくなんてなかった。笑いたくなんてない。なんでもない顔なんてしたくない。


何も聞きたくない、何も見たくない、何も知りたくない。どうせ否定されるだけ、どうせ間違ってる、私がおかしいって言われるだけ、知ってる知ってる知ってる知ってる。否定されるくらいなら何もいらない、何もいらない。


死んじゃいたい。出来ないくせに言うな。


嫌い、ああ、嫌い、だって私これっぽっちも心配なんて気持ち分からない。人になんてなれない。人の生き方なんて分からない。気持ち悪い、気持ち悪い。終わりにして欲しい。終わりがみたい。輝く煌めく終わりじゃなくていい。こんな真綿で首を絞めるような日常なんて耐えられない。生きていたくない。嫌だ、もういらない。満たされているからと笑いたくない、気持ち悪い。野垂れ死んじゃいたい。


分かり合えないのはもう分かった。分かったから、分かったから、許してよ、許してくれ、ひとを呪うことを許してくれ、それが愚かな事だなんて知ってる、知ってる、知ってるけど、もう、もう耐えられない、もう抱えきれない、もう何も何も空っぽでキレイな何かなんて、何で、何で、もう嫌だ、嫌だ。こんなにグチャグチャになってるのに何でなんでもない顔するのさ、だって誰も私のこと抉ってくれない、殴ってくれない。信頼してるって、馬鹿みたい。触れたくないだけじゃないか、触れられたくないだけじゃないか。


他人が理解出来そうな部分を切り貼りして紡いだ言葉を聞いて、信頼できるって気持ち悪い、気持ち悪い。ほら、私を見て困ったような顔する。ほらね、やっぱり私はおかしかったんじゃないか。


「帰ってきなよ」

友人達は口を揃えてそう言った。でも、私は帰る訳にはいかない。まるで逃げ帰るみたいで恥ずかしいとかではなく、恐らく実家に帰ったら私は、きっと自分で決断しなくなるし、外に出なくなる気がするのだ。


「不平不満を言ったところでどうしようもないでしょう?」

十代の時に学んだことだ。文句を言ったって何も変わらない。不満を感じることを言ったって何も変わらない。何も変わらない、変えられない。周りが変わらないなら自分を変えた。文句を伝えるのを辞めて、不満を感じるのを辞めた、そんなことをしていたら何故か傷がついていた。何に?


諦めるな、今に絶望するな、

高校時代の恩師が離任する際に言っていた言葉だ。

友人はこれはお前に当てた言葉だと言ってたが、未だに分からない。私は何を諦めて絶望してしまったのだろうか。きっと、私は分からないまま死ぬ。いいや、分かろうとしないまま死ぬのだろう。だって、きっと痛い、怒りや悲しみをぶつけたくなって、でもぶつけたとしても、今更そんなことを感じるお前がおかしいと言われるだけだ。


私は、もう疲れた。ああ、本当はずっと疲れていた。よく頑張ったねと褒めて欲しい。何を頑張ったのかは知らない、もしかしたら頑張ってないのかもしれない。だから誰も言ってくれないんだ。でも、よくやったって、今までよく頑張ったねって抱きしめて頭を撫でてほしい、ゆるしてほしい。


ゆるしてほしい。


だって、私は壊れなかった。頑張っても上手くやれなかったら、誰にも褒められないの?成功しなきゃ認められないの?どうして、どうして沢山我慢したのに沢山沢山嘘をついて、沢山沢山隠してきたのに。どうして、どうして誰も見つけてくれないの。どうして誰も暴いてくれないの、どうして、どうして中身を見てくれないの、どうしてお前は間違ってるって言ってくれないの、どうして、どうして。我儘な彼等の方が幸せそうなの。


何も欲しがれなくなっちゃったのに、何も執着できなくなっちゃったのに、だって、そうあって欲しかったんでしょ?だって、誰も恨まず憎まないでいてほしかったんでしょ?聖人君子であることを求めたでしょ?なのに、なのに、私は空っぽじゃないか。ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、どうして、どうして、まるでそんなこと望んた事ないって、お前が勝手にしたことだろって顔をするの、聞き分けが良くて、物分りが良くて、親であることより人であることを尊重したのに、そう振舞ったのに、なんで、なんで、誰も褒めてくれないの、どうして、誰も叱ってくれないの、何で笑うの、どうしてこんなに悲しいのに、悲しいことを信じてくれないの。