アワの物語 東征伝③ 美しき使者 | 高い月のギター

高い月のギター

沖縄で活動中のギタリスト、マルチ?アーティスト
みかつきなお(ぐしなおき、旧パンチポンチ)の活動報告。
小説の掲載が最近のおもな文面

現代のプログレ的なアプローチを考えたり、
時々適当なつぶやきを載せるブログ

  アワの物語 東征伝③ 美しき使者
 
  ラウンペにとって初めての人との初対面の感覚。
 それはこれからの忘れえぬ出来事への予感を感じさせた。
なにごともなかったかのように馬上の少年は顔を背け、後に数百人近いヤマタイの兵士や随行者たちの列がつづいた。随行者には女性が三割ほどいた。

 あの氷つくような瞳が去ったあとには現実の寒さと体内からの悪寒が一瞬走った。
 
 一重まぶたの目。西国からの交易者に時々見かける顔立ち、西国にはあんな目が多いんだろうな。
 あの少年の首筋、襟足のうなじ。手綱を持つ手の動き。
 完璧な少年。完璧な形。ここまで綺麗な人間はみたことがない。 そう考えていると胸が高鳴ってきた。
 なんだろうこの気持ち。

 北東側の入り口の階段から上がって広場を中心に円形に囲んだ建物の一番南側に高床式の一番大きな建物が建っている。村の様子をみればリヌマ周辺の人間たちは働き者であることがわかる。一昨日の雪は道や広場、屋根に至るまですべてきれいに雪かきを行い、竪穴式住居の間のデッドスペースに綺麗に積みあげられている。
 少年は馬を下りた。目の前には板葺きの高床式建物が立ち、階段の下の正面にフードの付いた外套を着た白い髭の老人が立ち、横には重臣とおぼしき10人ほどの男達(男女)がそろいの皮のマント姿で立っていた。
 少年と従者である大柄の男と、伏し目がちな少女の3人が前にでた。
 老人が杖をつき、少年の顔を真正面にみつめてこう言った。
  
 「ようこそ遠路はるばる参られたヤマタイ国の使節の方々、ちょうど去年の冬にこられた使者からの申し出を受けてから一年。
 祭礼の準備は着々と進んでおります。本当にようこそわが国リヌマへ、このオオクニヌシが心より歓迎申し上げます。」
 国王が頭をたれると周りの重臣たちもそろって頭を下げた。
 
 「みなさま、そんなに硬くならなくてもよいです。私はヤマタイ国国王ヒミコ様の名代であるが、ただの子供です。一国の国王であるあなたが今は立場が上です。祭りがまってます。みな楽しみです。楽に話をしようではありませんか。」
 
 少年の顔は、さきほどラウンペに向けられたものとは打って変わって、子供らしいにこやかな表情に代わった。

 「そうですな。たしかにリヌマのオオクニヌシはわしじゃ。東はヒタチから西はサガムまで、リヌマと同盟を組んだ国々は50ヶ国。オホン。
 漢、ええといまは魏じゃったかいの。ああ、魏。大陸に使いを出したワの国王たるヤマタイ国と同盟を組めるなど・・・ありがたくすばらしいことであります。」オオクニヌシは咳を我慢して話していた。

 「ははは、また硬くなってますよオオクニヌシさま。」
 大柄な従者が前に出て、少年に耳打ちした。
 「ああ、名乗りがまだであった。まずは挨拶ですね。」

 「吾が名は ヤマタイ国神祇武官長 スマルミカヒコノミコト。」
 大柄の男が前に出た
 「吾が名は ヤマタイ国武官東征軍大将 タヂカラオノミコト」
 そしてタヂカラオは少女の肩を支えた。
 「そして、このお方は 神祇官依坐(よりまし) スマルヨリヒメノミコト。今回の祭祀の神官をつとめてくださるお方である。」

 オオクニヌシの隣に並んだ重臣たちのうち左にいたマント姿の男がくだけた表情で言った。
 「ではこちらも名乗りをあげさせてもらおう、私はオオクニヌシの長子、摂政イムササギタテノアシカオである。 我々は兄弟で国の仕事を分担している。これから忙しくなるはずだ。追ってまた名乗りを上げたほうが良かろう。早速準備にかかろう。みなのものよいか?」
 「兄者の仰せのとおり。」そろいのマントの一団は一斉に声を上げた。

 タヂカラオは長子アシカオの前に立った。
 「さすがですな、リヌマの同盟結成の早さは我々の耳にもとどいている。礼より、仕事が先ということですか。そのほうが話が早い。さっそくだが、我々の宿泊場所はどこになろうか?まずは足をやすめたい。」
 アシカオは南の門を指差した。
 「南の門の向かいの丘に新しい穴屋を50ほど穴屋を用意してあります。しかし重臣の方々は狭いでしょうからこちらの大きな穴屋をお使いになってはどうでしょうか。」
 アシカオが手をかざした方には竪穴式住居、穴屋があった。
 ミカは首を振った。
 「いやいや、私たちだけ特別というわけにはいきません。われら一行は長い旅を身分分け隔てなく寝起きを共にしてきた仲間です。狭い穴屋の方があたたかい。そうであろうタヂカラオ?」
 「はいミカヒコさまおっしゃるとおりです。」
 
 「そうですか、では会食の際にこの大きな穴屋は使うこととしましょう。ぜひ自慢の東国の料理を一緒にいただきたいものです。 では、おい!サカモキベはいるか?」
 北東の門からサカモキベは走ってきた。
 「皆様をご案内してさしあげなさい」「はっ!」
 ミカは笑顔でオオクニヌシとアシカオに会釈をした。
 「では、みなさま。長旅でお会いできてとてもうれしいです。準備の際にお会いしましょう。」
 ミカはアシカオに手を出そうとしたが、前にタヂカラオが出てきて、アシカオと握手した。タヂカラオはミカに目配せをした。
 ミカは手を軽く振って馬に乗り、南の門に進んで行き、一行は鎧の金属のこすれる音を響かせながら門をくだっていった。
 遠方から見ると、馬に乗ったミカとヨリヒメ、ヨリヒメの馬をひくタヂカラオがぬきんでて高く見える。 馬の頭は普通の人の頭より少し低い。タジカラオは馬にのった二人より頭二つ低いくらいの高さ、他の人と比べて頭三つほど高い。やはりこの時代の人間では巨人といってもよい体格、現代でも大男といえよう。
ミカはタジカラオに言った
 「なぜ、吾が摂政へ握手するのを止めた?子供である私が行うほうが向こうの心が和むではないか?」
 さきほどとは代わって、薄く目を見開いたつめたい表情だった。
 「それは摂政であっても俗人の手だからです。 神官の手は神と神官にしか触れてはなりませぬ。」「汝、二つ心をもっておるな。一つの心はわかった。もう一つは・・・。」 
 ミカはタヂカラオをにらんだ。
 「そ、それは・・・・たしかに。」
 「気にしすぎだ。・・・人にケガレるほど吾は柔ではない。」
 ミカは20歩ほど先を歩くサカモキベを見た。
 タヂカラオはうなづいた。
 「また後だ。」 

 300人のヤマタイの一行が通りすぎるのを見届けたリヌマの重臣たちは一息ついた。
 アシカオは年老いた父の肩をくみ、父の疲れに気をつかった。
 一代でサガムの西にあったリヌマを移民と勢力の拡大を繰り返しながら、政治力を使い、最小限のいくさで東国を手中にした英雄、リヌマの国王。英雄としての称号「オオクニヌシ」。本当の名などもう多くのものは忘れているだろう。昔の名は長子アシカオがもらったその名である。オオクニヌシのマントはアシカの皮である。このシンボルは初代オオクニヌシの崩御とともに名実ともに次のオオクニヌシの物となる。 
 「御父上、穴屋でお休みになられてください。」
 「ああ、わしは寝るぞ。やつらの土産はなにかのう。これが楽しみじゃわい。」
 「また教えますから、さあおやすみください。」 
 神殿である高床式建物の横の大きめの穴屋につれていき、薬草茶を飲んだオオクニヌシは横になった。「相変わらずまずい茶じゃ。」
 穴屋から出てきたアシカオは弟と妹たち、異母弟も含む面々と円陣をくみ顔をあわせた。
 「皆のもの、とりあえず難儀であった。これで『儀式』は一つ終わったわけだ。
 そろいの皮蓑を着るという案はよかったな。やつらは長旅で着物にほつれや汚れがあるだろうからきっちりした正装ででむかえるというのはこちらが優位に見える。」「ああ、たしかに鎧にサビがあったり汚れは目だっていた。」「連中に女が多いのが意外でしたね。巫女ではなく庶民に見える女が多かった。」「手の甲に傷のある女がいたわ。」妹の一言にアシカオは顔をしかめた。
 「もう一度いってみろ」「手の甲に傷のある女がどうかなされましたか?いくさでやられたことがあるんでしょ?」「いや、ちがう。 やつらは女も太刀を持って戦うんだ。」
 アシカオは太刀をとりだした。 「妹よ、お前は素手で襲われたつもりでうごけ、弟よ、お前は太刀をもって切りかかるまねをしてみろ。」アシカオが振り上げるポーズをしたあと、妹は手でかおを覆うポーズをして、アシカオがきりつける形をした。「これでよいかしら兄者。」「こんどは弟よ太刀を持て。」弟が太刀をかまえたところアシカオが手を振り払うように太刀をうごかす動きをした。弟はなにかに気がついた。「わかったよ兄、傷の付き方だ。」
 「妹よ、やはり普通の女が突然襲われたら顔をおおって手のひらと腕の裏側に傷が付くはずだ。逆にもし女が太刀でむかってきたら、男は女から太刀を落とすことを考える。弱いと考えているからだ。その太刀のうごきは太刀の根元から手の甲から手首にかけてななめにあたるだろう。」
 兄の説明に弟たちは納得した。
 「かつて西国であったという大乱を平定し、いまは女王の納める平和の国ヤマタイと人は言うが、やつらは「平和な治世」といいながら、我々より戦いの場数を踏んでいるかもしれないですね。兄者。」
 「そのとおりだ。兵隊の数は鎧の数ではわからないということだ。女も戦士の可能性があるとして勘定しておくんだな。あの大男の傷も歴戦の勲章のようなものだろう。」
 サカモキベが帰ってきた。
 「なにか変わったことはあったか?」
 「へい、少ししか聞き取れませんでしたが、どうもやつらは握手のことをどうも気にしていたようで。」
 「なるほどな。ケガレか。それとも身分か。」
 「兄者、神祇武官。聞きなれない役目ですな。それが子供で代表というのは。」
 「祈祷は戦いの前我々は行うが、神祇武官とはつまり戦いの途中に祈祷する神官ではないですか。」
 アシカオは考えがまとまった。
 「子供なのに武官で神官、ヒミコの名代、 つまりヒミコの子。これしかあるまい。ヒミコには子はいないと聞いていたが、その血族のものということもある。いずれにしても強力な鬼道をつかうヒミコに我々は近づいてしまったわけだ。 いろいろ策のあるものは申し出よ。 この祭礼を無事になにごともなくやりすごす、これが第一の命題、リヌマの威信をかけたものと心得よ。
これはあくまで同盟と同盟の交流である。
かれらの属国には絶対になるな!これは見えないいくさと思え。
以上。各自持ち場に戻れ。」
「兄者の仰せのままに。」一団はマントをひるがえし四方へ散った。


 一方、ラウンペ達はヤマタイ国の一団が通り過ぎて広場がまた閑散となったので、牢屋の中で寒風になやまされていた。
 ラウンペ本人は心にあの少年のことが残っていて、それで頭が一杯だった。
 それでアシリにこのことを話そうとおもった。
 「アシリ兄さん」「何?」
 「ある人に一目あっただけで、にくい、殺したい、くやしい、負けた、かなしい、心をひかれる 胸がたかなる。 これが同時に起こることはどういうことだろう?」
 「あのヤマタイの馬上の少年か?」
 「あ、ああ。」
 トイシリペは考えていった。
 「普通は親の敵にであったときに、憎い殺したいとおもうわな。 たとえばあったことのない敵でも直感でかんじるとか、巫者ならありえる話だな。 でも心引かれるねえ・・・?。」
 チュプヘはにやけながらいった。
 「心引かれる、胸が高鳴る。こいつは恋、一目惚れ、お前男に一目惚れしてやんのハハハ。ヒヒヒ。」 大声で笑われた。
 アシリは遠くをみながら重い口を開いた。
 「あのヤマタイの少年は巫者だ。 巫者同士の力関係でおまえは負けたのではないか? それが一瞬につたわり、悔しく思う。」
 「それが逆に畏敬の念となってこころに残る。 
 若いうちはよくあることだ。 それは恋にも似ている。
 私には尊敬する友人がいた。よく釣りや銛うち、ウサギ狩りでいつも勝負した。
 いつも彼が1番で私が2番だった。 しかし、彼は始めての交易の旅にでて、帰ってこなかった。 賊が交易品を狙って襲ってきたところを彼は勇敢に戦ったが、殺された。
 とても悔しかった。討たれ死ぬなら私と決闘して死んでほしかった。それだけ大切な人だった。
 この気持ち大事にしろよ。あの少年がたとえ高貴な方であっても人同士だからな。まして一目惚れのようなもの。いいではないか。」 
 「アシリ兄さんありがとう。」
 トイシリペ「本当はあの少年は女では?身分の高さもあるが、綺麗過ぎる。」
 アシリ「いや、少年だ。心と動きはな。男として生きている人間だ。
 遠くから獣のオスメスを区別できる俺の見立てだ。
 しかし人には心と体がある。衣服もある。聞くところ、心が男で体が女の場合もあれば、逆もある。刑罰で『女にさせられた男』もいると聞く。そんな道理にあわぬものの場合、あの年では体に衣をまとっていてはどっちだかはっきりしない。」ここでアシリはラウンペの頭をなでた。
 「でも、こいつが気に入ったんだ。いいやつにはかわりない。かっこいいとおもった、だろ。」
 「う、うん。憎いとおもったけど、かっこいいやつとおもう。変だけどそう。」
 ラウンペはみんなの意見をいろいろ考えながら自分の気持ちに迷っていた。
 「しかし、あの少年、あのお方にお会いするにもここをちゃんとだしてもらわないとな。」
チュプヘは頭をかかえこんだ。
 「ああ、わしら死刑だあ、だめだあ。」
アシリはたしなめた
 「裁判だよ、裁判。やってないんだから交渉の余地はあるんだ。裁判、やはり取調べと、あれをやるんだろうな。」
 「なにをやるんですか。」
 「クカダチだよ」アシリは淡々と語った。
 「グツグツ煮たったお湯に手を入れて中の石を取り出せれば無罪、できなければ有罪」
 一番年長のトイシリペは「聞いたことはあるが、うちの村じゃやったこたねえな。 うちは話し合いで解決するのが慣わしだ。 もっとも村の中でそんな揉め事があった記憶がない。」
 チュプヘは「わしら漁師は凍った水ならがまんできるが熱いのは無理だべ。」
 アシリはあたまを掻きながら「ええい、責任はわしがとる。お前たちは心配するな。」 「親方、そんな。」
「うちは平和すぎたんだ。隣村カシマまで距離がある。カシマ周辺の話では、やはり村同士の揉め事を争いなしでおさめるためにはこれをつかうことが多いそうだ。いくさよりはだれかが火傷になる。これで事がおさまるなら、これが良いだろ。」

 「兄、僕がやる。僕がツキタツオホコを無くしたばかりに。 『力』をつかってさがしてみる。『力』で、事のあらましをすべて見通してみる。やってみる。」
 「そうか、まずできることはやってから考えろ。お前の『力』がたよりだ。」

 夕方がちかづいた。西側の門と壁板が開けられた。この門の下には外へ続く道がない。 この門は富士山を見るための門だ。立てられていた壁板を次々とはずし、広い範囲で富士を見えるように村を囲む板がはずされて行く。この村の立地、冬至の14日前に沈む太陽と富士山がかさなり、また冬至の14日後に太陽が重なる。この28日間を太陽の死ととらえ、冬至の14日後に太陽の復活祭を行う。これがこの場所にリヌマの村が作られた理由である。20年前に最適な場所へリヌマは遷都されたのであった。
 もうすぐ日の入りがはじまる。銅鐸が鳴り、人が集まってきた。


アワの物語 東征伝③ 美しき使者おわり

 アワの物語 東征伝④ 太陽と水と信念と