私は輪島龍壱。


アクトレス部隊「フェアリーハート隊」を率いる隊長として、成子坂製作所に身を寄せている。


かつては神樹ヶ峰女学園で教壇にも立ったものだが、こちらに赴任してもうだいぶ経つように感じる。


アクトレス。

いまだその正体が明確ではない機械生命体ヴァイスに対抗出来る人類の唯一の切り札。


このヴァイスなる外敵はイロウスとはだいぶ毛色は違うものの、大きな視点で見ると似たようなもので。


神樹から加護を得た星守にしか倒せないイロウス。


エミッション適性を背景に稼働させるドレスギアでしか破壊出来ないヴァイス。


どちらも女性にしか戦う権利を与えられていない事に悔しさを覚えた事も一度や二度では済まない。


私も幾つか武術の真似事も出来るが、それでは通用しない。



やはり女性は「強い」存在なのだと突き付けられる。

生命体としての格が違うのだと思い知らされる。


光里

「Aegisから指令が下ったわよ」


事務所の扉をくぐってきた女性から唐突に話題を振られる。


竹内光里。

私の副官として、作戦中の情報管理だけでなく、私からの情報発信も補佐してくれている広報担当でもある。



どうやら特殊宙域作戦が発令されたようだ。


Op.ナスタチウム。

ナスタチウム…今回は金蓮花か。


ブリーフィングで愛花が喜色満面に語り始める様が目に浮かぶ。


はじめはそうした雑談は遮るべきと思っていたが、危険度の高い特殊宙域に赴く隊員達へのリラックス効果もあるようなので、今となっては黙認している。



それにしてもどうやらAegis機関の作戦立案者は余程のロマンチストらしい。


こうして時折発令される特殊宙域作戦は、常に花の名を冠している。


花、か。

星守を、神樹ヶ峰を思い出していたのは何かの前触れだったのかもしれない。


星守は神樹の使徒。

それぞれが花の守護を受けて戦いに臨んでいた。


みきはガーベラ。

サドネは風鈴草。

くるみはアネモネ。

ミシェルは桃。


…と言ったように、色とりどりの星衣で舞う姿は艶やかで、そして壮観だった。



それは横に置くとして、Op.ナスタチウムだ。


光里
「宙域の画像、出すわよ」


パルミラ宙域に多数のヴァイスがドライブアウト、陣を形成している。

まだ東京シャードへの侵攻準備段階のようだ。


ヴァイスは人類に対する迫害を諦めない。

目的が不明なので、根本的な対処が出来ず応戦する一方になるのが口惜しい。

だが時折こうして侵攻を受けたとしても、エミッションとドレスギアが無かったかつての人類では、もう無い。

この特殊宙域作戦は限られたアクトレス事業所、アクトレス部隊にしか発令されない。
それだけ危険度の高い任務だ。

宙域図を見るにヴァイスは今回も3層構成で布陣しているようだ。


戦力と言うよりは哨戒に当たっているのであろう浅層。


恐らくこれが主戦力であろう中層。
東京シャードにアクトレス事業所は数あれど、ここを制圧出来る組織は多くない。


そして大本営とも言える深層。
ここを叩けば特殊宙域作戦は完了する。

通常の対ヴァイス戦闘はスポーツ感覚で行われており、テレビ中継等も入り半ばエンターテイメント化しているが、この深層は掛け値無しの命のやり取りになるので、我がフェアリーハート隊でも上位の隊員が少数精鋭で当たるのだが、それが作戦を受注出来る事業所を制限する要因にもなっている。


さて宙域図を見るに、今回も馬鹿のひとつ覚えなのか、それとも連中の…恐らくAIであろう頭脳が最適と判断しているのか。
毎度お馴染みの布陣だ。


輪島
「光里さん、フェアリーハート隊及び“スナイパーズ!”に召集をお願いします」



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