「で、アンタ結局龍姫は解放できるようになったのかい?」
シロディールに帰ろうと旅支度を整えた朝。
わたしはお母さんに呼び止められる。
「えっと…あはは…まだ…。ごめんなさい…」
お母さんは苦虫を噛み潰したような顔をして盛大に溜息を吐く。
「まったくしょうがない子だよ、やっぱりエクス隊なんかで油売らせるべきじゃなかったねぇ」

そう言うとお母さんはわたしに刀を抜いて床に胡坐をかいて座れと言う。
「で、その刀を膝の上に乗せて禅を組むんだ」
わたしは言われるままに禅を組む。
「そのまま深呼吸して意識を刀に集中するんだよ…そうすれば刀の方から問いかけてくる」
何だ…やり方があるんなら初めから教えてくれれば良かったのに…。
わたしは内心でぶつぶつと呟く。
「ほら!しっかり集中しな!」
「ごめんなさい!」
「謝んなくていいから集中!」

集中しろと言われてもお母さんが怖くて中々集中できない。
はぁ…何でわたしが一族の悲願を背負って真仁丸子を倒しに行かないといけないのかなぁ?
お母さんが行った方が絶対良いと思うんだけど。
わたしなんかより全然強いし。

「ア・ン・タ・ねぇ…全然集中できてないじゃないか」
「ひゃわわ…ごめんなさい!」
「はぁ…そんなんじゃシロディールに行かせらんないねぇ」
お母さんは溜息を吐くとわたしが龍姫を解放できるまでシロディールに帰らせないと言い放った。
「良いかい?その刀はただの魔剣じゃないんだ。解放出来ればそれだけでアンタの力を数倍に跳ね上げてくれる」

お母さんによる刀の説明が始まる。
あぁぁ…お母さんって話長いんだよなぁ…おんなじこと何回も繰り返すし。
「ちゃんと聞いてんのかい?」
「わわ、ごめんなさい!」
あぁ…もう朝から何回謝ったんだろ?もうシロディールに帰りたい。

結局夕方まで続いたお母さんの刀講座で分かったのは…
刀に宿る神霊と自分の魂を交信することで刀の解放が出来るようになる。
開放できるようになるとわたしのマジカや身体能力が向上して強くなれる。
開放すると刀の形状が変わって、その使い手が一番使い易い形になる。
…このたった三つだけだった。
わたしが説明したら五分もかからないような内容に八時間もかけられてるんだから堪らない。

「まぁこの刀を創った竹内家の開祖はアタシらよりも更にもう一段深い解放が出来たって聞くけど…それが出来たのはその開祖だけだから、どんなものなのかはわからないけどね」
へぇ…お母さんでもできないのか…一体わたしのご先祖様ってどんな人だったんだろ?
あれ?そうなると…その開祖様を倒したって言う丸子ちゃんをわたしが倒すの!?
無理じゃない?
だってお母さんより凄い人を…倒したんでしょ?その人。
一体何がどうなってるのよ?もうそんな危ない人の事なんて忘れてのんびり行こうよ、竹内家!
「アンタが何考えてるか分かるよ?マニマルコのことなんて忘れてのんびり暮らそうとか思ってるね?」
わたしの身体がびくっとなる。完全にばれてる。

「はぁ…アンタはほんとに甘い子だね…良いかい?これはただの敵討ちじゃないんだ」
そして始まる竹内家についての講釈。
結局夜までかかって分かったのは…
この家宝の刀よりすごいマジカを秘めたお宝を真仁丸子に持ち逃げされた。
潰されたメンツは取り戻さないといけない。
と言うことだけだった。
そのお宝が何なのか、そのお宝があると何がどうなるのか…肝心なことは全くわからない。
お母さん…話はもうちょっと簡潔に要約しようよ。

「まったくアンタが愚図だからもう夜になっちまったじゃないか」
「はぅ…ごめんなさい…」
えぇ!?わたしのせいなの!?絶対違うよ!お母さんの話が長いからだよ!
言いたいけど言えない。言ったらしばき倒される。
「今日はもう遅いから明日から修行するよ」

わたしは夕飯を済ませると部屋に戻り、もう一度聞いた通りに禅を組んでみる。
心を静めて…刀に宿る神霊に魂を寄せる。
「なんじゃ?わらわの領域に踏み込むのは誰ぞ?」
え?今のが…刀の…龍姫の声?
その瞬間世界が開けた。