気が付くとわたしはまた森の中を徘徊していた。
「あ、あったよ」
ロロンちゃんが腐ってぼろぼろになった看板を見付ける。
元々読めない言語で書かれた看板だけど、もはや文字の痕跡すら読み取れない程痛んでいる。

この近くに何かあるらしいんだけど…。
がさがさと茂みを掻き分けてみると…細い獣道みたいなのが伸びている。
「ここを…行くのか?」
ルーミが不安そうに問いかけてくる。
「何だ?服が汚れるのが嫌ってか?」
「くっ…そんなことはない!行くぞ!」
サウルにからかわれてむっとしたようで、ルーミは肩をいからせ先頭を切って茂みに踏み入った。

獣道を抜けた先はあの集落の裏手だった。
こっち側には門番もいないようで、わたし達はそっと忍び込む。
恐らくこの分では族長も無事ではないだろう。
そうなればまず間違いなく乱闘騒ぎになるんだろうなぁ…。しっかりと逃げ道だけは確保しておかないといざって時に危ないわね。
そう思いながら集落の中をひそひそと歩く。
集落の奥まった辺りに何かオークが屯している場所がある。
そしてその奥には一際大きな小屋が一軒。
あそこに何かあるんだろうな…見たところ小屋に前で陣取っているのは三人、か。

わたしは何時もの様に弓で先制しようとしてぎょっとする…あぁしまった、何故か知らないけどこの前から槍を持ってるんだった…。
一体何があったの?夢の中のわたし。
幾ら夢とは言えいきなり槍を渡される身にもなってほしい。
「あぁ、もう!」
わたしは舌打ちすると矢の代わりに魔法で先制する。
現実のわたしなら使いそうも無い光線を撃ち出す魔法だ。
それを皮切りに戦いの火蓋が切って落とされる。

だがこの世には先手必勝と言う言葉がある様に先手を取った側の方が圧倒的に有利だ。
奇襲、不意打ちが決まった時は特に。
大きな小屋を守っていたと思われるオーク達は地に伏してぴくりとも動かない。
それじゃお邪魔しますか。

小屋の中は牢の様になっていて、一室に一際大柄なオークが縛り付けられていた。
一体何事?
「何だお前達は」
その縛られた大オークがわたし達を誰何する。
ふむ、敵か味方かはともかく話は出来そうね。
「アーレンティールからの使いよ」
それだけ答えると大オークはほっとしたような雰囲気を醸し出す。

「そうか、来てくれたか。だが遅かった…我が同胞は魔王の手に落ちた。わしだけが何故かあの術にかからんかったが、若いのは全てやられた」
それで一人取り残された族長が異端として囚われの身になった、ってことか。
だがそうなるともうわたし達に出来ることは無い。
正確にはあるのだけど、それは魔王を打倒すると言う途方も無いことだ。
わたし達は族長の戒めを解き、更に話を聞く。
どうも犠牲になったのはオークの集落だけではないらしい。

「空飛ぶ獅子を倒してくれ」
族長の言葉にエルサの顔からさっと血の気が引く。
空飛ぶ獅子と言うのは俗に言う”キマイラ”と言う有名な合成生物のことらしい。
キマイラと言えば大体は三種類の攻撃的な動物を組み合わせて大型化したものであることが多いが、ここのは空を飛べる動物が組み込まれてるみたいね。
そのキマイラは森の更に奥深くに森の精霊達が封じ込めていると言う。
…別に封じ込めてるんなら倒さなくても良いんじゃないかしら?とは中々言い出しにくい雰囲気。
しかもそのキマイラさんも魔王の魅了術に堕ち、無差別に暴れ回ってるらしい。
はぁ…何で夢の中でまでこんな厄介事ばかり回ってくるのかしら?
成り行きとは言えややこしい化け物退治を受ける羽目になってしまった。

「やってくれるか。ならこいつを連れていけ」
そう言うと族長が別の部屋から大柄な男を引っ張り出す。どうも牢の別室に囚われていたみたいだけど、その人はオークではなかった。
「ぬぉ!?何だ?安眠妨害か!?」
…この状況下で”安眠”していたのか。どれだけ呑気なのかしら?

しかし話を聞くにこの大男、驚くなかれ!ドワーフ族だと言う。
ドワーフ…ドゥーマーと言えばご理解頂けるだろう。
タムリエルに機械文明をもたらしたものの、自ら生み出した機械達の暴走で滅亡してしまったと言われる古代種だ。
今でもドゥーマーの残した機械が稼働している遺跡もあると言うが、わたしはまだ見たとこは無い。
ちなみにアカヴィリでもかなり機械文明が導入されているが、それもドゥーマーの残した遺物を改良したものと言われている。
まさかドゥーマーに会えるなんてねぇ…流石夢だわ。

それでこのバーゴと名乗る(正確な本名はかなり長ったらしくて覚えきれなかったのよね…ごめん)ドゥーマー、本来はエルフの都アーレンティールを目指していたんだけど、迷ってしまいオークの集落に偶然立ち寄ったところで捕まってしまったらしい。
ふむ…なら一旦アーレンティールに戻るか。
そのキマイラと戦うにしてもちょっと準備がいるだろうし、この集落の事も伝えないといけないし。
わたし達はバーゴを伴ってエルフの都に引き上げることにした。