「これは一体何なの!?」
昨日お母さんから刀を貰って、しばらくはアカヴィリで過ごすことになったんだけど…今わたしは大ピンチです。

折角久しぶりの帰省だから、と街に繰り出して遊び倒した帰り道…。
わたしは黒い鎧で武装した男に追い掛け回されていた。
街遊びだから武器も毒も持って来ていない。頼みは呪術なんだけど…どう言うわけか上手く術が発現してくれない。
何だかマジカが外に出て行かないような、そんなヘンな雰囲気。

結局抵抗する術も無く逃げ回ってるんだけど…。
「もう逃げられはしないぞ」
黒騎士!? 
どこをどう通ってきたのか、黒い鎧に先回りされてしまう。

何かおかしい。
さっきからヘンな事ばかりだ。
まるで夢の世界に迷い込んだような理不尽な現象が起こり続ける。
恐らく先回りされたのもそんな理不尽現象の一環なんだろうと思う。
どうする!?
戦ってどうこうなりそうな相手じゃないんだけど、逃げ切るのも難しそう。
「観念しろ」
黒鎧がわたしににじり寄ってくる。
その時だった。

「ふざけんじゃねぇ!」
怒声と共に現れた青年は…黒鎧に飛び蹴りをぶちかます!
蹴りを受けた黒鎧はたまらず吹き飛ばされる…んだけど、とんでもないキック力ね。
蹴りをかました青年は割と細身で、蹴り自体にそこまでの威力がありそうには見えない。
黒鎧は新手の出現に不機嫌そうに身を起こし、腕を一振りする。
すると黒鎧の後ろに見たことも無いような化け物がずらりと並び、黒鎧はその化け物を盾にこの場を後にした。

あの飛び蹴り兄ちゃんがそんなに脅威なのかしら?まるで化け物を盾に逃げた様に見える。
「くそ、逃がすかよ!」
飛び蹴り兄ちゃんも黒鎧を追いかけようとするけど、化け物が道を阻む。
その時唐突に虚空から声が響く。
「兄さん!深追いはいけません。今回の任務は適合者の救出です」
「馬鹿野郎!あいつが噂の黒騎士だ!ここで仕留めれば全部終わるんだ!」
そして飛び蹴り兄ちゃんがこっちを振り向く。
「よぉ、ちゃんと生き延びてたか。やっぱりお前は適合者だよ。…見てろよ、これが俺達に与えられた力だ!」

そう言うなり化け物の群れに飛び込み回し蹴りを放つ。
「砕け…散れぇぇぇ!!」
その一撃で…信じられないことに化け物の群れは無残に吹き散らされ、消滅した。
何だか事情はまったく分からないけど…たす…かったの?
わたしは緊張が途切れると同時に、意識も途切れるのを感じた。

気付いた時には病院の一室のようなところにいた。
「目が覚めましたね」
穏やかな声が聞こえる。
その声の主は佐伯 海斗と名乗り、わたしの身に起こったことを説明してくれた。
どうやらわたしは「アビス」と呼ばれる異空間、どうも特殊なオブリビオン次元のような場所に紛れ込んでしまっていたらしい。

この「アビス」と言う場所はかなりややこしい所らしく、現世にはいないような化け物が闊歩しているんだとか。
しかも面倒なことにその化け物には現代の兵装では…例えミサイルを撃ち込もうとも傷を負わせることすら難しいと言う。

そこでアビスの化け物に対抗すべく研究が進められ、「現化物理学」と言うジャンルの学問が構築されることになった。
その現化物理学の結晶は誰にでも扱える物では無いらしく、「適合者」が必要になる。
そして何の因果かわたしがその「適合者」だと言うのだ。
そんな説明を受けながらわたしは病室から出て、別室に案内される。
そこにはあの飛び蹴り兄ちゃんがいた。