漸く支部長のダゲイルが口を開いた。
このダゲイルはわたしと同じボズマーで、占い師としてかなり強い力を持っていると聞く。
「貴女は知恵、いいえ…言葉を求めてきたのね」
訳知り顔で話を始める。
「言葉と言うのは難しいわね。いつも行ったり来たり。でも大きな声は言葉をかき消してしまうのよ。私の護符…声を封じる石が無いと言葉を留めることも出来ないわ。私が言葉を見付けるのを手伝ってもらえないかしら?」
何が言いたいのかは良く分からないが、その護符とやらを探すのが課題ってことになるのだろうか。
「言葉を探す?良いわ。やってみます」
わたしが引き受けるとダゲイルは部下のアガタを呼ぶ。
「彼女が導きになるでしょう」
それだけ言うとダゲイルは沈黙した。
「もう気付いてると思うけど、支部長は調子が悪いんだよ」
アガタはまだ若いノルドの女性。だけどダゲイルはアガタを強く信頼してるみたいね。
「どうも大事な護符を無くしたみたいでね。アレが無いとどうも安定しないらしくって」
話を聞くにその護符があれば色々な物を見通すことが出来ると言う。
ただダゲイル自身、高齢なこともありその能力は落ち目に差し掛かっている。
それで第一線を退きここの支部長に収まったんだけど、それを良く思ってないギルド員もいると言う。
ともかくわたしが探さないといけないのは予言者の石と呼ばれる代物。
ただ問題は…無くなった理由、と言うか原因。
どうもギルド内に盗みを働いたものがいるんじゃないか、と言うのがアガタの見立てだ。
それが本当なら重大事よね。規律にもあるけど、仲間内から盗みを働くと即刻除名処分だ。
つまりこれは盗難事件の解決が求められるってことか。
わたしは支部内のメンバーに話を聞いて回ると…一人だけ毛色の違う反応をするのがいた。
「くくく…良いぞ良いぞ、噂は広まりつつあるようだな」
ダゲイルの不調が周囲に知られつつある現状を喜んでるのはカルタールと言う青年。
「全部知ってるさ。護符を無くしたんだろ?良いね。あんな護符も無ければ正気も保てないような奴の下に居るのはまっぴらさ」
ダゲイルへの敵意を隠しもしない。
誰が怪しいか、と言われたら問答無用でコイツしかいない。
わたしはそのことをアガタに伝える。
「ありゃ…あの事を聞かれてたのか。だから最近様子がおかしかったんだ」
しまった、と言う顔をするアガタ。どうも以前護符の事を話していたのを盗み聞かれてしまい、それが今回の事に繋がってるみたいね。
だけどそうなるとカルタールが護符をどこに隠したのか、だ。
本人を問い詰めてもそう易々と答えはしないだろうし…。
わたし達はダゲイルに駄目元でこのことを聞いてみた。
「…貴女は暗闇に光を、声には沈黙をもたらす者。血は青く龍が高く舞い上がる。壊れた塔と壊れた体。その下に眠りし者が見出されるのを待っている」
それだけ言うとダゲイルは再び沈黙に沈む。
でも一体何の事かしら?
今の言葉をアガタと考える。
「そう言えばこの近くにブルーブラッドって砦があったね。かなり古いから塔とかも半ば崩れてるんだけど、そこに行けって事かね?」
その言葉を確認すべくわたしはその砦に出向く。
砦には野盗が陣取っていたけど、わたしの毒矢の前に成すすべは無かった。
そして砦の最奥部。墓地になっているそこを墓暴きする。
壊れた体って言うのが死体を指してとすればここにあるはず。
そして確かに何かの護符らしきものはそこにあった…んだけど。
「おいバカ止めろ!そいつを持っては行かせんぞ!」
大慌てで墓地に飛び込んできたのはカルタール。
「一体どうしたいのよ?こんな護符を盗んで隠して」
「そいつ自体はどうでも良いんだ。俺の望みが叶えば…ダゲイルが失脚して俺が支部長になればそいつは返すつもりだったんだ」
…そんなことを企んでたのか。
「だから行かせはしないぞ!」
ケルタールは躊躇いも無くナイフを抜くと斬りかかってきた。
「見付かったようですね。そして裏切り者には罰が下されたのでしょう?」
護符を渡すと安堵の息を一つ。
護符が戻ったことで本来の力を取り戻したダゲイルの雰囲気は…正に神秘的。
神秘術を重視するこのレヤウィン支部を導くのはやはりダゲイルが適任なんだろうと思う。
「ありがとう助かったわ。声が静まり貴女の求める言葉が届きましたよ。推薦状ですね」
そう言うとダゲイルは執務室に戻りさらさらと筆を走らせる。
「あと、貴女には伝えておかないといけないことがあります」
筆を置くと神妙な面持ちでわたしを見る。そして目を閉じると朗々と声を発する。
「多くの宿命が貴女の下に。数多の命は貴女の手の内に」
一体何の事かと尋ねると
「貴女は多くの者の運命に関わる宿命を負っているようですね。人の生き死には案外容易く変化するもので、貴女の手には多くの者の命運が委ねられている…心に刻み、良く考えることね」
何だかいきなり重たい話をされて困惑するわたし。
ともあれこれで推薦状は全部揃った。
後は大学に出向いて手続きをするだけね。