ちょっと待ってくれないかしら?もう一つ個人的に頼みたいことがあるんだけど」
わたしを引き留めたクッド=エイは神妙な面持ち。
「頼みごと?」
「行方不明の友人を探してるんです」
何でもブラヴィル支部の一員であり、クッド=エイと”かなり”親しい間柄だと言うアルトマーの魔術師、ヘナンティアが行方不明だと言う。
「行方不明、ねぇ。取り敢えず人相とか特徴を教えてくれれば行商のついでに見かけたら連絡しますよ?」
わたしがそう返事すると、クッド=エイは慌てて訂正する。
「あ、いえ。行方不明と言ってもどこにいるかは分かってるんです」
「…そう言うのは行方不明と言わないんじゃないかしら?」
「確かにそうですね。でもそこにあるのは身体だけなんです」
クッド=エイは現状について語り始める。
このヘナンティアと言う男、夢の世界について研究をしているらしい。
で、その夢世界を自分の鍛錬に使おうとしたは良いけど、その夢の世界から戻ってこないのだと言う。
「でもそれなら何でわたしに?もっと早くギルドから助っ人を呼んだりすれば良いじゃない?」
「それが困ったことに彼は規律違反の常習者で…今回の騒動が知れたら除名されてしまうんです」
はぁ…まったく困った人もいたものね。
クッド=エイも本来ならそう言った行動を戒める立場なんだろうけど、惚れた弱みってやつか。
まぁ良いわ。
わたしは一応その夢世界からの救出を引き受けることにした。
本当ならそんな面倒事は避けたいんだけど、相手が相手だ。ヘソ曲げて推薦状を取り消されでもしたらそっちの方が厄介だ。
そしてクッド=エイに案内されヘナンティアの家に向かう。
「彼は今、夢の世界に堕ち苦しんでいます。再三危険だと言ったんですが、聞いてくれなくて…結局この有様です」
しかし男の人って何でこう、自分を追いつめて何とかかんとか、みたいな修行が好きなのかしらね?
アカヴィリ地方でもそう言う男の人って結構いるのよね。
何でも限界を超えた向こう側に何かがあると信じてるみたいなんだけど、わたしには良く分からない。
「そう言えば何で支部長自身が迎えにいかないの?」
「私ですか?そうですね…貴女は夢の中で知人に会ったらどう思います?」
成程、そう言う事か。
確かに夢の中で知り合いに会っても本物とは思わないだろう。
それでは説得も難しいか。
わたしは夢世界に入り込む為のアミュレットを受け取ると横になる。
アミュレットのせいか思いの外早く眠気が…。
「あ、そうそう。忘れてました。夢の世界では気を付けて下さいね。貴女もですが、ヘナンティアに何かあったらそのまま貴女も無事では済まないでしょうから」
ちょっと!そう言うのはもっと早くに言って…よ…。
わたしの意識はそこで一旦途切れた。
目が覚めると薄暗い部屋の中に居た。
目の前にはヘナンティアも居る。
「一体何がどうなってしまったんだ?何も思い出せない…君は何か知らないか?」
「貴方がヘナンティアね?ここは貴方の夢の中よ」
「夢?これが夢と言うなら正に悪夢!ここから出たいのに出口も無い!一体どうすれば良いんだ!?」
ヘナンティアは悲鳴を上げる。
にしても何だか薄ら寒いわね。わたしはきょろきょろと視線を巡らせ…ある事に気付いた。
「ぎゃぁぁあぁぁ!ヘンタイ!」
その事実はわたしの平静さを失わせるに充分で。
「へぶ!?」
ヘナンティアはわたしの平手の餌食になるしかないわけで。
わたしは何とか見付けた服で身なりを整えると夢の中で気絶しているヘナンティアを置いて辺りを見て回ることにした。
場所としてはどうやらヘナンティアの自宅が元になってるみたいね。
そして何だか重厚そうな扉が四か所。
試しにその一つを潜ってみると…わたしは一瞬でどこかに転移したようだ。
入ってきたはずの扉も見当たらない。
ここで何かを成し遂げないと帰れないってことかしら?
薄暗い通路に堕ちている紙を拾い、その内容を見る。
何だか記号がずらっと並んでいるけど…何かしら?
まったく意味が分からないので通路を道なりに行くと何と言うか、矢が飛んでくる罠が山の様に仕掛けられた部屋まで来た。
ここを通るの?
床の感圧板を踏むと矢が飛んでくるオーソドックスな造りなんだけど、問題はその感圧板が足の踏み場もないくらい敷き詰められている。
これじゃ通れない。
何か無いかしら?と見渡しても手元のメモ書きしか無い。
そう言えばさっきの記号の羅列…うん、やっぱりそうだ。
この部屋の感圧板の配置と一致してる。
と言うことは…?
記号の中で部屋の入り口から出口までを繋いでいるものを辿り、それに倣って歩いてみると…予想通り矢は飛んでこなかった。
そんな罠の部屋を幾つも通り抜けた先に輝く球が鎮座していた。
何かしら?
それを手に取ると誰かの意思を感じた気がして…あのヘナンティアが伸びている部屋に戻ってきた。
段々分かってきたわね。
あのヘンな罠部屋が修行の場で、この球がヘナンティアの意識の一部だ。
この球を集めればヘナンティアも正気を取り戻すはず。
そうと分かればわたしは扉を次々と潜る。
あちこちに罠が隠してある通路、ひたすら長い水路を水中呼吸の霊薬を頼りに泳ぎきる部屋…これは一体何の修行なのかしら?
そして最後に潜った扉の先は…アリーナ、闘技場だった。
入り口には武器や防具が用意されていて…身支度を整えたわたしは覚悟を決めて闘技場に上がる。
相手はミノタウロス二匹。
ただ夢の中だけあって普通のミノタウロスではないらしい。やたらと頑強で雷を放つ魔法の杖を使い切っても倒しきれない。
わたしはやむなく短剣に持ち替え不慣れな斬り合いに挑む。
…何で弓と矢が用意されてないのかしら?メイスと短剣を置くくらいなら弓を置きなさいよね、ほんとにもう。
ぎりぎりの死闘を制し、最後の球を手にする。
しかし魔術師の修行の場にしては何と言うか…ヘナンティアは体を鍛えたかったのかしら?
「僕は罠にかかっていたのだろうか?」
「これは貴方の夢よ」
「だとすれば君は一体?どうやってここに?…いや君は嘘を吐いていないね。分かるよ」
漸くヘナンティアに理性が戻ったみたい。
「僕は弱点を克服しようと夢世界に鍛錬場を造ったけど…逆にやり込められてしまってたんだな」
現状を理解したヘナンティアは…夢の世界から目を覚ました。
「さっきはありがとう。助かったよ」
改めて現実世界に目を覚ます。
これでこの一件は落着ね。
何事も無かったかのようにギルドに戻るクッド=エイとヘナンティア。
そしてわたしもレヤウィンへの旅路に戻る。
残る推薦状はあと一通を残すのみ。
もう少しで大学に入学ね。
わたしを引き留めたクッド=エイは神妙な面持ち。
「頼みごと?」
「行方不明の友人を探してるんです」
何でもブラヴィル支部の一員であり、クッド=エイと”かなり”親しい間柄だと言うアルトマーの魔術師、ヘナンティアが行方不明だと言う。
「行方不明、ねぇ。取り敢えず人相とか特徴を教えてくれれば行商のついでに見かけたら連絡しますよ?」
わたしがそう返事すると、クッド=エイは慌てて訂正する。
「あ、いえ。行方不明と言ってもどこにいるかは分かってるんです」
「…そう言うのは行方不明と言わないんじゃないかしら?」
「確かにそうですね。でもそこにあるのは身体だけなんです」
クッド=エイは現状について語り始める。
このヘナンティアと言う男、夢の世界について研究をしているらしい。
で、その夢世界を自分の鍛錬に使おうとしたは良いけど、その夢の世界から戻ってこないのだと言う。
「でもそれなら何でわたしに?もっと早くギルドから助っ人を呼んだりすれば良いじゃない?」
「それが困ったことに彼は規律違反の常習者で…今回の騒動が知れたら除名されてしまうんです」
はぁ…まったく困った人もいたものね。
クッド=エイも本来ならそう言った行動を戒める立場なんだろうけど、惚れた弱みってやつか。
まぁ良いわ。
わたしは一応その夢世界からの救出を引き受けることにした。
本当ならそんな面倒事は避けたいんだけど、相手が相手だ。ヘソ曲げて推薦状を取り消されでもしたらそっちの方が厄介だ。
そしてクッド=エイに案内されヘナンティアの家に向かう。
「彼は今、夢の世界に堕ち苦しんでいます。再三危険だと言ったんですが、聞いてくれなくて…結局この有様です」
しかし男の人って何でこう、自分を追いつめて何とかかんとか、みたいな修行が好きなのかしらね?
アカヴィリ地方でもそう言う男の人って結構いるのよね。
何でも限界を超えた向こう側に何かがあると信じてるみたいなんだけど、わたしには良く分からない。
「そう言えば何で支部長自身が迎えにいかないの?」
「私ですか?そうですね…貴女は夢の中で知人に会ったらどう思います?」
成程、そう言う事か。
確かに夢の中で知り合いに会っても本物とは思わないだろう。
それでは説得も難しいか。
わたしは夢世界に入り込む為のアミュレットを受け取ると横になる。
アミュレットのせいか思いの外早く眠気が…。
「あ、そうそう。忘れてました。夢の世界では気を付けて下さいね。貴女もですが、ヘナンティアに何かあったらそのまま貴女も無事では済まないでしょうから」
ちょっと!そう言うのはもっと早くに言って…よ…。
わたしの意識はそこで一旦途切れた。
目が覚めると薄暗い部屋の中に居た。
目の前にはヘナンティアも居る。
「一体何がどうなってしまったんだ?何も思い出せない…君は何か知らないか?」
「貴方がヘナンティアね?ここは貴方の夢の中よ」
「夢?これが夢と言うなら正に悪夢!ここから出たいのに出口も無い!一体どうすれば良いんだ!?」
ヘナンティアは悲鳴を上げる。
にしても何だか薄ら寒いわね。わたしはきょろきょろと視線を巡らせ…ある事に気付いた。
「ぎゃぁぁあぁぁ!ヘンタイ!」
その事実はわたしの平静さを失わせるに充分で。
「へぶ!?」
ヘナンティアはわたしの平手の餌食になるしかないわけで。
わたしは何とか見付けた服で身なりを整えると夢の中で気絶しているヘナンティアを置いて辺りを見て回ることにした。
場所としてはどうやらヘナンティアの自宅が元になってるみたいね。
そして何だか重厚そうな扉が四か所。
試しにその一つを潜ってみると…わたしは一瞬でどこかに転移したようだ。
入ってきたはずの扉も見当たらない。
ここで何かを成し遂げないと帰れないってことかしら?
薄暗い通路に堕ちている紙を拾い、その内容を見る。
何だか記号がずらっと並んでいるけど…何かしら?
まったく意味が分からないので通路を道なりに行くと何と言うか、矢が飛んでくる罠が山の様に仕掛けられた部屋まで来た。
ここを通るの?
床の感圧板を踏むと矢が飛んでくるオーソドックスな造りなんだけど、問題はその感圧板が足の踏み場もないくらい敷き詰められている。
これじゃ通れない。
何か無いかしら?と見渡しても手元のメモ書きしか無い。
そう言えばさっきの記号の羅列…うん、やっぱりそうだ。
この部屋の感圧板の配置と一致してる。
と言うことは…?
記号の中で部屋の入り口から出口までを繋いでいるものを辿り、それに倣って歩いてみると…予想通り矢は飛んでこなかった。
そんな罠の部屋を幾つも通り抜けた先に輝く球が鎮座していた。
何かしら?
それを手に取ると誰かの意思を感じた気がして…あのヘナンティアが伸びている部屋に戻ってきた。
段々分かってきたわね。
あのヘンな罠部屋が修行の場で、この球がヘナンティアの意識の一部だ。
この球を集めればヘナンティアも正気を取り戻すはず。
そうと分かればわたしは扉を次々と潜る。
あちこちに罠が隠してある通路、ひたすら長い水路を水中呼吸の霊薬を頼りに泳ぎきる部屋…これは一体何の修行なのかしら?
そして最後に潜った扉の先は…アリーナ、闘技場だった。
入り口には武器や防具が用意されていて…身支度を整えたわたしは覚悟を決めて闘技場に上がる。
相手はミノタウロス二匹。
ただ夢の中だけあって普通のミノタウロスではないらしい。やたらと頑強で雷を放つ魔法の杖を使い切っても倒しきれない。
わたしはやむなく短剣に持ち替え不慣れな斬り合いに挑む。
…何で弓と矢が用意されてないのかしら?メイスと短剣を置くくらいなら弓を置きなさいよね、ほんとにもう。
ぎりぎりの死闘を制し、最後の球を手にする。

しかし魔術師の修行の場にしては何と言うか…ヘナンティアは体を鍛えたかったのかしら?
「僕は罠にかかっていたのだろうか?」
「これは貴方の夢よ」
「だとすれば君は一体?どうやってここに?…いや君は嘘を吐いていないね。分かるよ」
漸くヘナンティアに理性が戻ったみたい。
「僕は弱点を克服しようと夢世界に鍛錬場を造ったけど…逆にやり込められてしまってたんだな」
現状を理解したヘナンティアは…夢の世界から目を覚ました。
「さっきはありがとう。助かったよ」
改めて現実世界に目を覚ます。
これでこの一件は落着ね。
何事も無かったかのようにギルドに戻るクッド=エイとヘナンティア。
そしてわたしもレヤウィンへの旅路に戻る。
残る推薦状はあと一通を残すのみ。
もう少しで大学に入学ね。