あぁ眠い…わたしは半分眠ったような状態でアンヴィルの支部に顔を出す。
「今、この支部は少々面倒な状況にあります。この課題は場合によっては命に関わることもありますが…大丈夫?」
眠気でふらふらしているわたしを心配そうに見るキャラヒル。
「らいじょうぶです。続けて下さい」
「大丈夫そうには見えないけど、まぁ良いわ」

課題について説明が始まる。
最近この黄金街道、つまりクヴァッチとアンヴィルを結んでいる街道に魔法を悪用した強盗が出ていると言う。
その撃退が今回の課題だ。
ふぅん…今回は随分と荒っぽいのね。

「回復魔法が真価を問われる瞬間…それは実際の生き死にに関わる時ですからね。ちょっと乱暴かもしれませんが、課題にはうってつけでしょう」
なるほど、そう言う理由か。内容はともかく課題としてはまとも、と言って良いだろう。
ただの使い走りよりは余程ちゃんとした「課題」だ。

わたしは手筈を教わると現場に近い街道の宿に向かう。
ここにアリーレと言う魔闘士がいるはず…。
宿の扉を潜ると一人の女が話しかけてくる。
「来たわね。キャラヒルから聞いてるわ。まずは部屋を取ってちょうだい。話はそっちでしましょ」
そう言うとわたしから離れていく。

わたしは指定された通りに部屋を借りるべく親父さんに話しかける。
「いらっしゃい。見た感じ旅行とかじゃ無さそうだね」
「えぇ、わたし薬の行商をしてるんですよ。どうです?何か入用な薬はありますか?」
「あぁ、やっぱり商売の人だね。ただ最近良くない話が多くてね…街道に強盗が出るとか。あんたも気を付けなよ」
そんな会話をしながら部屋を借りる。

それじゃ行きますか、と二階に上がろうとしたところでアルトマーの中年女性に声を掛けられた。
強盗の魔女 
「こんな時に行商とは大変ですねぇ」
「強盗ですか?本当に困りますよね。巡回兵にはもっとちゃんとしてもらわないと」
「そうよねぇ。私なんて怖くて宿から出られないくらいですよぉ。貴女も道中は気を付けてねぇ」
何だか妙に間延びした喋り方をする人ね。

それはともかく借りた部屋に入り少し待つとアリーレがやってくる。
「ここなら大丈夫ね。それじゃ説明するわよ」
わたしは今日はここで一泊して翌朝、クヴァッチに向けて街道沿いに歩けば良いらしい。
それをアリーレ達がこっそりと尾行して強盗の出てくるところを取り押さえる、と言う算段、つまりわたしは囮だ。

「強盗が出たらあなたは自分の安全を最優先にしてくれて結構です。強盗は私達が始末します」
そこまで言うとアリーレは部屋から出ていく。
昨夜寝てないからかなり眠い。
わたしはアリーレが出ていくのとほぼ同時に眠りについた。

そして翌朝。
わたしは何事も無かったかのように宿を出て街道を歩く。
かなり離れているけどアリーレ達もちゃんと追ってきている。
宿を発って一時間も歩いただろうか…。
噂の強盗が街道の横手から飛び出してきた。

どんなのが出てくるのかと思ったら…あの宿に居たアルトマーの中年女性だった。
「残念ねぇ。貴女の旅もここまでよぉ。さぁさ、荷物を全部渡してちょうだいねぇ」
話し方は相変わらずで気が抜ける。
が、敵だと言うなら相応の相手をするまでのこと。
わたしは弓を構えて応戦する。
今回生霊は召喚しない。
少し遅れて魔闘士も追い付き、三対一の構図になると結果は明らかだった。

「強盗の方は終わったようですね」
アンヴィルに戻り事の次第を報告する。
キャラヒルは満足そうに頷くと推薦状を書き始めた。