帝都での商売を終えて次の目的地はスキングラード。
何時もの通り薬草を摘みながらのんびりと旅路を行く。
「何だか今日はあんまり良い薬草が生えてないわね」
わたしは薬の材料があまり取れないので、何時もより深い所まで森に入っていた。
だがそれがいけなかった。

「ちょっと待ちなよ。そこの小さき者」
不意に頭に直接響く声。
またか…。
「ちょっと頼まれてくれないか?報酬も払うぞ」
クラヴィカス 
わたしに語りかけてきたのはクラヴィカス・ヴァイル。取引を司るデイドラ王だ。
何でも一振りの剣を探してきてほしいと言う。
その剣の名はウンブラ。
かつてクラヴィカスとやり合った英雄の魂が封じられた剣だと言う。
ある程度剣の消息は分かっていて、最後の痕跡がこの近くの村にあると言う。

また面倒なのに目を付けられたものね。
わたしはもう諦めの境地に達し、言われるままにその村を目指す。
「おーい、聞こえるか?」
そんなわたしに更に語りかけてくるのがいる。クラヴィカスでは無さそうだけど…?
「おいらはバーバス。クラヴィカスの旦那の忠犬さ」
そう名乗るとわたしに剣探しを中止するよう訴えかけてきた。

「何で剣を探しちゃいけないの?」
「そのウンブラってのが厄介でね。アレが絡むとロクな事が無いんだ」
バーバスが言うにはそのウンブラはクラヴィカスにとって宿敵の様なもので、剣が絡むと毎回酷い目に遭っているらしい。
「うちの旦那はアレが絡むと見境無くてね。今回も厄介なことになるに決まってる。だから余計なことはしないでばっくれることをお勧めするよ」
ばっくれる、と言っても相手が相手だ。タムリエルにそこまで強く影響出来ないのは知ってるけど、後で何があるか分かったモノじゃない。

わたしはバーバスの助言を聞き流すと剣探しに戻った。
痕跡があると言われた村でウンブラのことを聞いて回る。
「ウンブラだって?久しぶりに聞くなぁ。ところであんた…興味あるのは剣かい?それともウンブラその人の方かい?」
「わたしが探してるのは剣の方よ」
「そっか。あれは確かに凄い剣だ。真っ黒な刃でやたら良く斬れる。何でも人の魂を食らうなんて言われてる剣なんだよね」

わたしの問いに答えてくれているおじさんはそのウンブラに魂を食われたらしい人も知ってると言う。
「レンウィンって女でね。彼女がその剣を見付けてきたんだけど…」
更に詳しく話を聞かせてくれる。
何でもこのおじさん、剣術指南をしていたらしく、そのレンウィンって女は弟子の一人だったとか。
で、その剣を見付けた辺りから彼女はおかしくなってしまったと言う。
妙に好戦的になってしかも剣と同じくウンブラを自称するようになって…姿をくらませたと言う。
「じゃぁどこにいるのかは分からない、と?」
「ま、ね。でもこの近くの遺跡に潜んでるなんて話もたまに聞くんだけど…あんまり当てにしすぎないようにな」

今のところ手がかりはこれしかない。
駄目もとでその遺跡を探ってみるしかないか。
アイレイドの遺跡を奥へ奥へと進む。
珍しくゾンビも幽霊もいない。いてもせいぜいがネズミってところだ。
だけど、一番奥の部屋に…誰かいる。
暗視の霊薬を飲んで視界を確保すると何者か遠目で確認する。
黒ずくめの鎧で身を包んだ…女剣士…。
それに何だか人間の発する気配じゃないわね…。

わたしは毒矢を用意するとその女剣士に向かって射かける。
「!?」
矢は見事命中!でもその瞬間に…彼女は振り向きわたしを見付けたようだった。
信じられないけどこっちに向かって剣を振りかぶり駆け寄ってくる!
この暗い中、あの距離でこちらを認識できるなんてとても人間業じゃない。
暗視が出来る吸血鬼とかその手の連中か?
しかも身体能力も恐ろしく高いようで、あっという間にわたしのいる所まで距離を詰めてくる。
まるでマウンテンライオン並みの足だ。

わたしも下がりながら弓で応戦していたけど、その魔剣の一撃を受けてしまう…!
「うく!?」
何だか嫌な感じが纏わりつく。
魂を食らうなんて聞いていたけど、そう言うのとはちょっと違う…もっとこう呪縛されるような感じ。
これは…魂縛の呪いだわ。
つまりこのまま斬り殺されると剣に魂を持ってかれるってことか。
これはうかうかしれられないわね。一気に決めないと危ない。
わたしは久しぶりに地面をたん!と踏み鳴らす。
最近は盗みやら暗殺やらで召喚する機会も無かったけど、僕たる生霊を呼び出すと二人がかりで挟撃して女剣士を圧倒する。

「ふぅ…」
わたしは緊張を解いて一息。
そして魔剣を拾い上げる。一体どんな剣なのかしら?
しげしげと見回して込められた術を読み解いていくけど…魂縛の術しか込められていない。
「…?何これ?」
クラヴィカスが見境を無くすような価値のある剣とはとても思えない。
その時だった。
「剣を旦那に渡しちゃだめだ。破滅しちまうって!頼むから旦那に渡さないでくれ」
バーバスは必死に訴えかける。
一体この剣の何を恐れているのか?
魂縛以外の何かがあるんだろうけど、それはわたしには分からなかった。

「剣を持ってきたか!素晴らしい!陳腐な剣に陳腐な魂…それを神の仮面と交換するんだ。良い取引だろ?」
わたしはウンブラを手放すと不細工な仮面を代わりに受け取った。
どうもクラヴィカスは美的センスがイマイチらしい。
でもこんな仮面でも被れば相手に好感を与えられると言うのだから大したものだ。
「おいらは旦那の忠犬に戻るとするよ。お前さんは今まで見てきた奴の中じゃマシな方だったかな」
バーバスもクラヴィカスのところに戻り今回の話は幕を閉じた。