ここ最近はグレイフォックスからも闇の一党からも連絡が無い平穏な日々が続いていた。
わたしはレヤウィンに家を構えてからも行商を続けている。
そんなある日、コロールでのこと。

「久しぶりじゃない。最近見かけないから心配してたんだ」
何時ぞやコロールのお城で伯爵の肖像画盗難事件でわたしが庇った宮廷魔術師シャネルと再開した。
「お礼の絵も描き上がったんだ。ほら、持って行ってよ」
画布にはコロールの見事な夜景が描きこまれていた。
しかし結構嵩張るわね。家を買っておいて良かったわ。

それはともかく、今日は魔術師ギルドで変わったことがあった。
一応魔術師ギルドと言うのは学術組織なわけで、ある程度研究成果を提出したりしないといけないことになっている。
で、わたしが最近幾つか手に入れたデイドラ王のアーティファクトについての調査結果なるものを提出してたんだけど、これが認められて大学への推薦試験を受けられることになった。
一体どんな試験になるのかしら?

わたしは期待してコロール支部長ティーキーウスの話を聞く。
「この街にイラーナと言う女が来ている。一体何をしに来たのか探ってきてほしい」
わたしは耳を疑う。
魔法の試験とかじゃないの?
これじゃまるで探偵だ。

ティーキーウスが言うにそのイラーナと言う女、過去に因縁があるらしい。
それで警戒していると言うのだけど…良いのかしら?そんな内容の試験で。
このイラーナと言う人とは実は面識がある。
わたしが良く利用する安宿の常連客らしく、良くそこで顔を合わせていた。
アルトマーらしく高飛車な人であまり良い印象は無いけど。

まぁともかく、それが試験だと言うなら仕方が無い。
わたしは安宿に顔を出す。
…お、やっぱりここにいた。そしてこっちに寄ってくる。
「アンタ見かけによらずギルド員だったのね」
これは好都合。向こうから来てくれるなら話は早い。
「確かに魔術師ギルドにいるけど、それが何か?」
イラーナはわたしを値踏みするように見る。
そして一人で勝手に「うん、悪くないわね」と結論を出す。
その上でわたしに頼みがあると言う。
これは案外楽な試験になりそうね。
勝手に向こうからコロールに来た目的を教えてくれるんだから、聞かない手は無い。

「頼みって何?」
「簡単な事よ。ちょっと本を探してきてほしいの。”霊峰の指”ってヤツ」
その本が雲の頂きと呼ばれる遺跡にあるらしい。
「良いわよ」
わたしは二つ返事で引き受けておく。まぁ実際取りに行く気は無いけど。
そして出発するフリをして魔術師ギルドに戻る。
これで推薦状もいただき、ね。

ティーキーウスにその”霊峰の指”のことを伝えると彼は血相を変える。
「何と!?これは由々しいぞ。済まんがその本を回収してくれんか?本を持って来たら推薦状を書く」
む…試験内容が追加されてしまったわね。
しかし何の魔法書か知らないけど、そんなに凄い本なのかしら?わたしも見てみたいわね。

わたしはその雲の頂きとやらの場所を教えてもらうとコロール北の山中に出発した。
その遺跡自体はそれ程遠くは無かったんだけど、雲の頂きと言われるだけあって結構な標高まで山を登ることになった。
辿り着いた遺跡は非常に簡素なもので、崩れ落ちた柱の跡が残るのみ。
あと目に付くのは…何故か黒焦げになった焼死体。
焦げてる!? 
こんな所に本なんてあるのかしら?
魔法書と言うくらいだからわたしはマジカの波動を読み取ってみる。
…あの黒焦げ死体から何か感じるわね。

あまりやりたくないけど、焼死体の懐を漁ると焦げ跡一つ無い本が収まっていた。
これか。
わたしは本を見てみようとしたんだけど、何故かページがめくれない。
どうなってるのかしら?
あれこれ試してみるもイマイチ成果が得られない。

本の内容を諦めるとわたしはコロールに戻りティーキーウスに魔法書を渡した。
「やはり君は信用できる人物だったようだ。推薦状は大学に送っておくぞ」
よし、これでまずは一通。
推薦状を全都市の支部から送ってもらえれば晴れて大学入りだ。
わたしは意気揚々と行商の旅路に戻った。
行商のついでに各都市で推薦試験を受けて行けば良いだろう。