運命の糸と言うのは一度絡み付いたらそう簡単に解けるものではないらしい。
「あんたに伝言だよ」
訪ねてきたのはあのアルゴニアンのコソ泥、アミューゼイ。
「グレイフォックスから直々に任務なんて、あんた本当に凄いんだな」
「本当に盗賊ギルドに入ったのね」
「あぁ、今はグレイフォックスの伝令役をやってるんだ」
盗みの腕はいまいちみたいだから伝令役にされたんだろうけど、それでもいきなりグレイフォックス直属とは凄いわね。

わたしは伝言を受けてコロールに向かう。
最近は何だか家を買ったり、騎士になったりと真っ当(?)な暮らしをしてたけど、やっぱりこう言った業からは逃れられないか。
「あの宝玉で調査を進めた結果、この計画には絶対に欠かせない物が判明した」
それが何かと尋ねると、解放の矢と呼ばれる鍵の形をした矢だと言う。
そしてそれを最近になってブラヴィルの宮廷魔術師が手に入れたとの情報も入っているとのこと。
ブラヴィルの宮廷魔術師…ファシスのことね。
何度かブラヴィルの魔術師ギルドで会ったことがある…ってことはこの仕事は慎重に進めないとまずいわね。
わたしは魔術師ギルドにも所属しているから、ファシスと騒動を起こすと破門されることもあり得る。
グレイフォックスはファシスに関しては血の制約を求めない、とは言ってるけど絶対にファシスと相対するのは避けないといけないわね。

場所を移してブラヴィル。
わたしは物乞いに小銭を握らせるとお城のことを聞いてみた。
特にファシスと言う宮廷魔術師について。
「そうさね…ファシスはどうも大事なものは城内の自室には置いてないらしいよ。なんだか郊外にある研究室を兼ねた塔にそう言うのは保管してるって話だ」
「塔?」
「確かにちょっと南に行くと結構大きな砦のような塔があるけど、それかしらね」
「その塔さね。でもその塔の扉はファシスだけが開けられるよう細工してあるって話さね。あと本当かどうか分からないけど、城の中からも塔に通じる道があるなんて話もあるね」
「なるほどねぇ…ありがとう。後は何とかしてみるわ」

お城に直接忍び込むのはあまり好みじゃないけど、それしかなさそうね。
しかし何でこうもお城に忍びこむ機会が多いのかしら。
レヤウィンとかスキングラードとか…これで三か所目になる、かな。
別にわたしは”城破り”とかそう言う称号は求めてないんだけどなぁ。

さて、と。それじゃ何時忍び込もうかしらね?
普通なら夜なんだろうけど…レヤウィンみたいに隠し通路みたいなのが無いとなると、夜は巡回が厳しくて侵入は難しいかもしれない。
さりとて昼から忍び込むと言うのはどうなんだろう。
少なくともファシスの部屋を漁ることになるんだろうけど…ファシス自身はあまり城にはいないから昼夜はあまり気にしなくて良いのかな。

どうしようかな…。
しばらく迷ったけど、結局昼間の内に忍びこむことにした。
そしてその決断は正解だったらしい。城内の警備はかなり手薄のようで、あっさりとファシスの部屋を探し出すことが出来た。
まずは第一段階ってところね。

次は鍵型の矢を探さないと…と思って引き出しやらチェストやらを開けてはみるものの、一向にそれらしいものは見付からない。
物乞いの言ってた通り、ってことか。
ならば話に聞いた塔に通じる道を探すのが次の目標か。
わたしは壁を軽く叩きながら部屋を一周する…と、反響音の違う場所がある。ここね。

その周辺に仕掛けが隠されてそうなものを探す。
………
……

あった!
装飾の施された柱の様な取っ手があり、それを引っ張ると隠し通路がその姿を現す。

でも通路はそのまま水路に繋がっているだけ…。
と言うことは水路の中に更に道がある?
ファシスと言う奴は途方も無く酔狂みたいね。
自分の塔に行くのに潜水しないといけないなんて…。
どれだけ警戒心が強いのかしら?恐らく本人は水中呼吸の術で難なく泳いで行くんだろうけど、普通の人ならこれは諦めざるを得ない。

まぁわたしも呪術師だ。その手の術の一つや二つ持っている。
降霊術で魚の動物霊を憑依させると、一気に水の中に飛び込んだ。
けど…まさかあんなものまで用意しているとはね。

水路の深い所にやたらと大きなスローターフィッシュが番人代わりに泳いでいた。
まったく何て奴を飼ってるのかしら。
水中だったので弓が使えず、呪術で応戦する。
こう言う時に呪術と言うのは不便よね…術の性質上、即効性が低いから魔法の毒が行き渡るのにどうしても時間が掛かる。

巨大スローターフィッシュが仰向けになって水面にぷかりと浮き上がると、お腹の中のものを吐き出した。
出てきたのは…皮鎧を纏った人骨。
…人を丸飲みしてたのか…まったくもって恐ろしい魚ね。

番人もいなくなったので、漸くゆっくりと道を探すことが出来る。
…うーん、結構深いわねぇ。
水底まで潜ってあちこち探すことしばし…何かの扉があった。
これかしら?と思って扉を潜るも、そこはルマーレ湖だった。ここは違うのか。
わたしはまた水路に戻るともう少し浅い所も見て回る。
…すると何だか横穴が一つ。

今度こそ当たりであってほしいわね。
横穴の中を泳ぐとその先は緩やかな上り坂。
そのまま水面まで泳ぎ着くと…通路の続きに繋がっていた。
そこから先はファシスの仲間…だろうか?
やたらと魔術師が住み着いている。
できればこっそりと行きたいんだけど、どうしても狭い通路が続いているので忍び足では抜けられない。

結局かなりの数の魔術師と相対しながら少しずつ進む。
…お?今しがた倒した魔術師が面白いモノを持っていた。
透明化の薬。
これは運が良いわね。これがあればファシスと悶着せずに矢を頂けるはず。
そのままわたしは塔に辿り着き、その薬を試す。
…うん、効いてる。

誰もわたしに気付かない。
護衛のデイドラもファシス本人も。
ただこの透明化の薬はちょっとしたことで効果が切れてしまう。
恐らく矢を手にした瞬間にわたしの存在がばれてしまうだろう。

でも矢さえ手にしてしまえば…。
「うぉ!?何だお前は!?」
狼狽するファシス。騒ぎ始めた主人に気付いて駆け寄ってくるデイドラ。
そして塔を駆け下りるわたし。
結局塔の扉を内側から破り無事、とは言えないけど何とか脱出は成功。
…でもこれ…矢って聞いていたけど鏃の部分しかない。
確かに鏃は鍵の様な形をしてるけど…。ま、良いか。

コロールでグレイフォックスと再開する。
「ふむ…完全な矢の状態で欲しかったが、こればかりは仕方ないか。何とか修復してみよう」
そう言うと鏃を受け取り去って行った。