わたしは黒塗りの刀を携えて聖域に戻る。
「お見事でした。事故は演出され、ベインリンも死にました」
ヴィンセンテは満足そうに頷くと報酬の金貨に加えて…黒塗りのナイフを差し出す。
これが”ご褒美”か。
しかしメファーラと言い一党と言い、さっきから黒塗りの刃物ばかりが溜まる一方ね。
こっちのナイフは…とにかく切れ味を引き上げる魔法が掛かってるわね。
まぁ刀にせよナイフにせよわたしが使うことは無いんだけど。
わたしは報告も済んだので聖域を出ると…今度は盗賊ギルドのメッセンジャーが訪ねてきた。
「…あんた、ここで何してるんだ?」
恐らくこの廃屋が”聖域”であることを知ってるんだろうな。
「別に」
「…まぁ良い。あんたに伝言だ。何とグレイフォックスが直々に任務を用意してるぞ」
わたしにブルーマを訪れるよう伝えるとメッセンジャーは足早に去って行った。
…ふぅ。今度は盗みか。
わたしはブルーマの指定された家を訪ねる。
「お前の才能を見込んで頼みがある」
グレイフォックスはわたしを見るや話を始める。
とある修道院にある宝玉を盗ってきてほしいと言うのだ。
わたしをおだてて行かせるくらいなら自分で行った方が余程確実だろうに。
伝説のグレイフォックスを名乗るのなら。
「無関係の者は傷付けるなよ?だが…宝玉を守る奴については話は別だ。人であろうが、そうでなかろうが血の代償は求めない」
は?
わたしは耳を疑う。
盗賊ギルドの戒律を破ってまで手に入れないといけないものなの?それは。
「では頼むぞ。宝玉が無くなったと言う話を耳にしたら、俺はまたここでお前を待つ」
それだけ言うとグレイフォックスは席を立った。
わたしは翌日話に聞いた修道院を訪ねる。
なんだか蝶が随分と飛んでるわね。
この蝶はお蚕さんかしら?
修道院も聖蚕会と呼ばれる組織のものらしいから、きっとそうなんだろう。
わたしは修道僧に探りを入れてみる。
とは言ってもそんなに口八丁が上手いわけでもないので、俗っぽい僧を見付けてそこそこの額を握らせる。
するとにやりと笑みを浮かべてわたしの問いに答えてくれる。
「宝玉は光無き僧兵に守られてるんだ」
そう教えてくれると霊廟にわたしを案内する。
「この先だ」
この霊廟には職務の末に視力を失った僧兵が詰めていると言う。
…つまりここの僧兵については血の代償は求めない、ってことか。
わたしは出来るだけ血なまぐさい事にならないよう、慎重に歩を進める。
盲目なので明かりの術を使っていても全く問題は無い。
霊廟の中には居住空間が作られ、目を覆い隠した僧兵達が暮らしていた。
僧兵と言うだけあって刀で武装している。
盲目な分、耳が鋭い連中をやり過ごすのは骨が折れたけど、何とか居住区を抜けることが出来た。
ここから先は墓所だ。見かけるのは幽霊や骸骨兵と言った連中。
まぁそれでも荒事は避けたいわね。
何故かあちこちに罠が仕掛けられた墓所を抜けると…いきなり攻性魔法が飛んできた!
「…っ!」
何とか悲鳴を押し殺して不意打ちを避ける。
そして急ぎ弓を構えて魔法の打ち込まれた方を見る。
だが魔法を撃ってきたのは人ではなかった。
どう言う仕組か分からないけど、動くものに反応して攻撃、と言うか迎撃する魔法石が置かれていた。
そしてその魔法石の置かれた台に寄り添うように立つ一人の僧兵。
その側に如何にもな装飾が施された綺麗な玉…あれが宝玉ね。
…さてどうしようかしら?
動くと魔法が自動的に飛んでくるし、宝玉は例の盲目僧兵が番をしている。
そうねぇ…
わたしは体勢を出来るだけ低くすると、忍び足で僧兵に近付く。
そして魔法石の射線上に僧兵が来るように移動する。
「ぐぉ!?」
…思った通り。自動で魔法を撃ち出す魔法石がわたしを狙ったはずだけど、僧兵の背中を撃ち抜く。
わたしは僧兵を壁代わりにして宝玉に近付く。
僧兵は急に魔法で撃たれて狼狽していてわたしには気付かない。
いける!
わたしは宝玉を掠め取ると足早に立ち去った。
出口に向かうその途中で一枚のメモが目に留まった。
何だろう?
読んでみるとどうも灰色頭巾と言うデイドラアーティファクトを調査した途中経過のようだった。
しっかしこの灰色頭巾…何だか心当たりがあるような…。
恐らくこれはグレイフォックスの仮面のことじゃないだろうか?
わたしはメモと宝玉を手に修道院を後にした。