前回の海賊船長暗殺から数日後。
わたしは闇の一党に呼び出された。
と言うことは次の暗殺仕事がある、と言うことか。

「よく戻ってくれたね。次の仕事だよ」
ヴィンセンテが穏やかな声で今回の依頼について説明してくれる。
今回の標的はブルーマ在住のボズマー、ベインリン。
…同族かぁ。
普段は屋敷に籠っていてあまり外出はしないらしい。
そして従者を兼ねた護衛を一人従えているとのこと。
しかも今回の暗殺は事故に見せかけないといけないと言う。

闇の一党の調査によると、ベインリンは夜の八時から寝るまでの間、大きな剥製の下でくつろいでいるそうだ。
「この剥製を上手く落として事故を装うと良いよ。もし直接的な方法で殺してしまったらご褒美は無しになるから気を付けて」
ベインリンを殺すのは最低限の条件だけど、ちゃんと依頼者の要求通りに事故を装えたら更に追加報酬があるのか。

しかしそこまであれこれ調べたんなら帰りがてらにその剥製を落っことしてくれれば事は済んでいたんじゃなかろうか?
わざわざわたしにお鉢を回してくれなくても良かったのに。

わたしはどんよりとした気持ちでブルーマを目指す。
闇の一党は盗賊ギルドより更に情報網が充実しているらしい。
大抵の事は出発前に事前情報として与えられているので、物乞いを捕まえて小銭を握らせたりする必要は無い。
今回も標的の屋敷や侵入経路はある程度絞り込まれているし、殺害方法も今回の様に提示されることもある。
なのであれこれ考えることは無い。
夜を待ち裏の勝手口から屋敷に忍び込む。

入った先は地下の倉庫みたいね。
一応念の為に忍び足で上を目指す。
剥製を落とすには二階の小部屋で留め金を外すしかない。
倉庫から出ると人の気配がする。
時間としてはもうベインリンが剥製の下でくつろいでいるはずだ。
通りすがりにちらっとリビングを見てみると確かに剥製の下で椅子に腰かけてのんびりしている。
ターゲット 

…しかしこんな特に何と言うことも無さそうな老人を殺してどうしようと言うのかしらね?
まぁこんな屋敷に住んでいるんだからそれなりの資産家なのだろうけど、遺産目当てなのかもしれない。
とは言えそんな理由でわざわざ暗殺まで頼むなんて思えない。やはりわたしの預かり知らない何かあるんだろうな。
わたしはそんなことを考えながら二階に音も無く上がる。

剥製の位置からして…ここね。
話に聞いていた小部屋を探し当てるとわたしは留め金を緩める。
どがん!!
大きなものが落ちた音。
「ぐっ…」
そしてくぐもった悲鳴。
「な!?なんだ!?」
従者の狼狽えた声。
色んな音が混ざって聞こえた。
わたしは従者が老人に呼びかけながら肩をゆすっている脇をこっそりと通り過ぎ来た通りの道を戻り屋敷を後にした。