(夜の色とは何色だ?)
「サングイン」
合言葉のやり取りが済むと扉が開く。
サングイン。デイドラの王の一人にも居るけど、色としても使われる言葉。
その意味すると事は…血のような赤。
如何にも暗殺者が好みそうな色合いだ。ちなみにわたしは赤は嫌い。やっぱり青が良いわよね。

扉を潜ると身体のラインがくっきり見える黒装束を纏ったアルゴニアンの女性が迎えてくれる。
「ようこそ!私はオチーヴァです。この聖域を治めています。新たなる妹を迎えられて嬉しいわ」
かなり温厚で所作も上品。傍目には暗殺に携わっているようには見えない。
…だからこそ恐ろしいのよね、この手の人って。
そしてわたしにもオチーヴァが着ている物と同じ服をくれる。
暗殺者の仕事着、と言ったところか。
「それに着替えて奥へどうぞ。貴女に仕事を都合してくれる担当者に挨拶してきなさいな」
わたしは奥の部屋で着替えるとその担当者…ヴィンセンテとやらに会いに行く。

その途中で暗殺ギルドの面々とすれ違う。
「お?よく来たな!家族の一員として歓迎するぜ!」
「あんたをこの聖域で家族として迎えられることを歓迎するよ」
口々にわたしを歓迎してくれる。
何だかイメージと随分雰囲気が違うわね。もっと陰気な連中が集まってるのかと思ったけど、どうも陽気でフレンドリーな人が多いらしい。

そして肝心のヴィンセンテ。
「心より歓迎するぞ」
驚くべきことにわたしの担当者は…吸血鬼だった。
わたしの動揺を感じ取ったのか
「この姿を恐れることは無い。一党の戒律は吸血鬼の欲求より優先される。君を噛んだりはしないよ」
そう言うとほがらかに笑う。
…それを信じて良いのかしら?わたしは警戒を解かない。

「さて、では早速で悪いけど仕事の話をしようか」
はぁ…いきなりか。
「君が海賊についてどう思っているか知らないけど、今回の任務は海賊の頭を暗殺することだよ。部下に守られた奴を仕留めるのは少し難儀するかもしれないね」
そう前置きするとわたしに割り振られた暗殺仕事の内容を説明し始める。
帝都の波止場区に停泊しているマリーエレナ号と言う海賊船の船長が今回の標的だ。
その船は知っている。盗賊ギルドで良く波止場区に顔を出していたけど、そこで良く見かけている船で、近付くと船員がぶち切れて襲い掛かってくることで有名だ。
暗殺初仕事 

「君はまだ暗殺に不慣れだろうから、皆にアドバイスを聞いてみるのも良いかもしれないね」
そう締めくくるとわたしは暗殺初仕事に送り出される。
メンバーからアドバイス、かぁ。
確かに今まで犯した殺人は行き当たりばったりなものが多かった。
計画的に安全に立ち回る術をわたしは知らない。
…そう思うとシヴァリングアイルズでのわたしは余程幸運に恵まれていたのね。
聖域とやらを出る際にさっき会った面々と話してみる。
「え?海賊船?そうねぇ、積み荷に紛れて船に乗せて貰ったらどう?」
「帝都の海賊船?あぁあれね。確か後ろに船にしては珍しくバルコニーがある奴だよな。そこからなら結構簡単に忍び込めるんじゃないか?」
「標的に直接手を下せるのは良いぞ!脅しをかけてビビらせて反応見るのが面白れぇったらねぇよな」
成程ねぇ。

わたしは帝都に向かう。
もう見慣れた波止場区。何時もの所に何時もの様に海賊船が停泊している。辺りには箱が幾つも積み上げられている。
アドバイスでは積み荷に紛れろとか言ってたけど、それが海賊船の荷なのか良く分からない。
大きな箱もあるから隠れられるとは思うけど、それが積み込まれるかは分からないし、最悪別の船に積まれようものなら笑い話にもならない。
甲板にはもう顔見知りになった船員がたむろしてるし。

やっぱりあそこか…後ろのバルコニー。
わたしは夜を待ち、そのバルコニーに飛び移る。
後は船長を見付けだして…毒矢を打ち込むだけだ。
バルコニーから鍵をこじ開けて船室に入ると…誰かいる…。
ヴィンセンテに見せてもらっていた人相書きとそっくりな人が寝ている…いきなり当たりか。
わたしは静かに息を吸うと弓を構え、予め毒を塗り込んだ矢を番える。
「ぐっ…」
船長がくぐもった断末魔を上げる。

わたしはそのまま船を去り、シェイディンハルの聖域に帰る。
「初仕事は無事終わったようだね。お見事」
ヴィンセンテは初仕事が無事終わったお祝いだと言って報酬の金貨に加えて黒い指輪をくれた。
はぁ…わたし、どんどん外道に落ちていくのね。