わたしはニューシェオスの宮殿を出るとブリスを経てマニア領に踏み出す。
短い間だけど、このシヴァリングアイルズで色々な人を見た。
確かに何が何だかわけの分からない人が多い。
ごくごくまれにハイラスの様な正気を保った人もいる様だけど、ほとんどは何かに憑りつかれたような言動の人ばかりだった。
…これはわたしの推論に過ぎないけど、それはその人の本性が表にむき出しにされた状態なんじゃないかと思う。
皆が皆、わたしの様に殺人衝動を持ってるわけではない。
ただ叫びながら走るだけの人もいれば、何かに異常な執着を示し他の全てを投げ打ってる人もいた。
この次元の何がそうさせるのかは分からないけど、恐らくそんな状況なんだろうと思う。
でもそうなると怖いのはわたし自身。
今まで呪術師として誰かを呪い殺したこともあるけど、それは人の死に触れたくてやっていたことではない。
野盗山賊に襲われた時に反撃してそのまま相手を死に至らしめることもあるけど、それだってわたしが望んでやってることではない。
でも…本当はそれを望んでいたのかもしれない。
だから呪術師なんてちょっと薄暗いイメージのある魔法使いをやってるのかもしれない。
だからどこかの街にお店を構えたりせずに、道中襲われるために行商をやってるのかもしれない。
これまでなら即座に否定できたことだけど…今のわたしにはその自信が無い。
シヴァリングアイルズを去ろう。
そして…これだけ印象深い体験を忘れることはできないだろうけど、何時もの薬売りの生活に戻ろう。
何食わぬ顔をして。
わたしはボズマー。エルフ族だ。
その生涯は長い。天寿を全うできるなら恐らくまだ八百年くらいは時間があると思う。
それだけあればここでの体験も何時かは笑い話に出来るかもしれない。
もしくは色々見聞きして考え方が変わるかもしれない。
そんなことを考えながらフリンジ…わたしがシヴァリングアイルズで初めて訪れた集落、あの門番が通せんぼしていたあの集落を目指す。
その先には目と鼻の先にタムリエルへの帰り道がある。
だけど時間とは無常なもので、旅路の途中で日が傾く。
わたしはその時通りかかったスプリットと呼ばれる集落で一夜の宿を求めた。
…それがまさかこんなことになるとは、夢にも思わずに。
「誰かが全部影を消してくれれば数える死体が増えるのに…」
集落で初めに出会ったジャスティラと名乗る女の出会い頭の一言は物騒なものだった。
彼女はこの集落に死体が足りないと言う。
ただ彼女は殺すことには興味が無く、”死体に限らず何かを数える”ことに執着しているようだった。
「何かあるんだったらホルクヴィルと話しなさいな」
そう言うと一軒の家を指し示す。
わたしと別れた後もぶつぶつとカウントを続ける。何を数えているのかは分からなかったけど。
それはともかく、どこか泊めてくれそうな家を求めてホルクヴィルの家を訪ねようと歩き出した時だった。
今別れたはずのジャスティラとまた出会った。
でもさっきと服装が違う。初めに出会った時は煤けたような恰好だったけど、今はちゃんとした身なりになってる。
「34、私の影は嫌いよ。56、あいつはろくに数えることもできないし。78あっちのジャスティラは好きじゃないの。9,10…少しも、ね」
やっぱりこっちも何かを数えながら話す。
これは一体どう言うことなのかしら?
どうもさっきのジャスティラと今目の前にいるジャスティラは口ぶりから考えて別人…らしい。
同姓同名、背格好から顔立ちまで一緒なのに別人。
わけが分からない。
わたしは考えるのを止めると、当初の目的通りホルクヴィルの家を訪ねる。
「ご免下さい。旅の途中で日が暮れてしまって、宿を探してるんですが」
「宿?そんなものは無いが…ちょっとしたことを頼まれてくれれば家に泊めても良いぞ」
そう言うとこの集落の現状を話し始める。
どうも通りすがりの魔法使いが「人間は二面性を持ち、誰もがマニア派とディメンシャ派の要素を持ち合わせている」と言い張り、この集落全体に魔法をかけたそうだ。
その魔法と言うのが…人の性格を二分化しそれぞれを独立させるもの、とでも言えばいいのだろうか。
そのせいで今このスプリットでは住民が皆、二人に分裂している。
「頼みと言うのはこのことだ。あの忌々しいディメンシャ派の俺達を消してほしい」
マニアとディメンシャは相容れない気質のようで、今や自分同士で憎み合っている異常な事態になっている。
「良いわよ」
え?
さらっとわたしが即答した。
今、やる、って言った?
「よし、じゃぁ頼むぞ。間違ってもマニア派には手を出すなよ?それだけは気を付けてくれ」
そしてわたしは一晩の宿を得た。
その夜。
何故かわたしはふらふらとスプリットの南側…ディメンシャ派達が住む区画へと足を運ぶ。
ふらふらしているのはわたしの理性と殺人衝動が葛藤しているせいかもしれない。
でも着実にわたしの足は深夜のディメンシャ派区画へと進んでいく。
もう皆寝静まった頃だろう。
鍵をこじ開け家々に忍び込んでは眠りこけるディメンシャ派の人に毒矢を打ち込む。
…またやってしまった。
理性で分かっていてなお、その忌避すべき行為を押し留めることが出来ない。
わたしはその結末に絶望すると、ホルクヴィルの家に戻ることなく深夜のシヴァリングアイルズへと走り出す。
もう一瞬でもここには居られない。
わたしは一目散にタムリエルへ帰り着くためにただ走る。
短い間だけど、このシヴァリングアイルズで色々な人を見た。
確かに何が何だかわけの分からない人が多い。
ごくごくまれにハイラスの様な正気を保った人もいる様だけど、ほとんどは何かに憑りつかれたような言動の人ばかりだった。
…これはわたしの推論に過ぎないけど、それはその人の本性が表にむき出しにされた状態なんじゃないかと思う。
皆が皆、わたしの様に殺人衝動を持ってるわけではない。
ただ叫びながら走るだけの人もいれば、何かに異常な執着を示し他の全てを投げ打ってる人もいた。
この次元の何がそうさせるのかは分からないけど、恐らくそんな状況なんだろうと思う。
でもそうなると怖いのはわたし自身。
今まで呪術師として誰かを呪い殺したこともあるけど、それは人の死に触れたくてやっていたことではない。
野盗山賊に襲われた時に反撃してそのまま相手を死に至らしめることもあるけど、それだってわたしが望んでやってることではない。
でも…本当はそれを望んでいたのかもしれない。
だから呪術師なんてちょっと薄暗いイメージのある魔法使いをやってるのかもしれない。
だからどこかの街にお店を構えたりせずに、道中襲われるために行商をやってるのかもしれない。
これまでなら即座に否定できたことだけど…今のわたしにはその自信が無い。
シヴァリングアイルズを去ろう。
そして…これだけ印象深い体験を忘れることはできないだろうけど、何時もの薬売りの生活に戻ろう。
何食わぬ顔をして。
わたしはボズマー。エルフ族だ。
その生涯は長い。天寿を全うできるなら恐らくまだ八百年くらいは時間があると思う。
それだけあればここでの体験も何時かは笑い話に出来るかもしれない。
もしくは色々見聞きして考え方が変わるかもしれない。
そんなことを考えながらフリンジ…わたしがシヴァリングアイルズで初めて訪れた集落、あの門番が通せんぼしていたあの集落を目指す。
その先には目と鼻の先にタムリエルへの帰り道がある。
だけど時間とは無常なもので、旅路の途中で日が傾く。
わたしはその時通りかかったスプリットと呼ばれる集落で一夜の宿を求めた。
…それがまさかこんなことになるとは、夢にも思わずに。
「誰かが全部影を消してくれれば数える死体が増えるのに…」
集落で初めに出会ったジャスティラと名乗る女の出会い頭の一言は物騒なものだった。
彼女はこの集落に死体が足りないと言う。
ただ彼女は殺すことには興味が無く、”死体に限らず何かを数える”ことに執着しているようだった。
「何かあるんだったらホルクヴィルと話しなさいな」
そう言うと一軒の家を指し示す。
わたしと別れた後もぶつぶつとカウントを続ける。何を数えているのかは分からなかったけど。
それはともかく、どこか泊めてくれそうな家を求めてホルクヴィルの家を訪ねようと歩き出した時だった。
今別れたはずのジャスティラとまた出会った。
でもさっきと服装が違う。初めに出会った時は煤けたような恰好だったけど、今はちゃんとした身なりになってる。
「34、私の影は嫌いよ。56、あいつはろくに数えることもできないし。78あっちのジャスティラは好きじゃないの。9,10…少しも、ね」
やっぱりこっちも何かを数えながら話す。
これは一体どう言うことなのかしら?
どうもさっきのジャスティラと今目の前にいるジャスティラは口ぶりから考えて別人…らしい。
同姓同名、背格好から顔立ちまで一緒なのに別人。
わけが分からない。
わたしは考えるのを止めると、当初の目的通りホルクヴィルの家を訪ねる。
「ご免下さい。旅の途中で日が暮れてしまって、宿を探してるんですが」
「宿?そんなものは無いが…ちょっとしたことを頼まれてくれれば家に泊めても良いぞ」
そう言うとこの集落の現状を話し始める。
どうも通りすがりの魔法使いが「人間は二面性を持ち、誰もがマニア派とディメンシャ派の要素を持ち合わせている」と言い張り、この集落全体に魔法をかけたそうだ。
その魔法と言うのが…人の性格を二分化しそれぞれを独立させるもの、とでも言えばいいのだろうか。
そのせいで今このスプリットでは住民が皆、二人に分裂している。

「頼みと言うのはこのことだ。あの忌々しいディメンシャ派の俺達を消してほしい」
マニアとディメンシャは相容れない気質のようで、今や自分同士で憎み合っている異常な事態になっている。
「良いわよ」
え?
さらっとわたしが即答した。
今、やる、って言った?
「よし、じゃぁ頼むぞ。間違ってもマニア派には手を出すなよ?それだけは気を付けてくれ」
そしてわたしは一晩の宿を得た。
その夜。
何故かわたしはふらふらとスプリットの南側…ディメンシャ派達が住む区画へと足を運ぶ。
ふらふらしているのはわたしの理性と殺人衝動が葛藤しているせいかもしれない。
でも着実にわたしの足は深夜のディメンシャ派区画へと進んでいく。
もう皆寝静まった頃だろう。
鍵をこじ開け家々に忍び込んでは眠りこけるディメンシャ派の人に毒矢を打ち込む。
…またやってしまった。
理性で分かっていてなお、その忌避すべき行為を押し留めることが出来ない。
わたしはその結末に絶望すると、ホルクヴィルの家に戻ることなく深夜のシヴァリングアイルズへと走り出す。
もう一瞬でもここには居られない。
わたしは一目散にタムリエルへ帰り着くためにただ走る。