「目ぼしい物はこれくらいでしょうか。他にもありますよ、あちらの箱の中にありますのでどうぞお持ちください」
キリバンは一振りの豪奢な剣をわたしに直接手渡す。
他にも色々あるようだけど、それ程取るに足らないような物の様で、取るも取らぬもご自由にとのことだ。
「あとこの剣についてですが、この日記を読めばどんなものかお分かり頂けるかと」
あのオーク戦士の付けた日記を差し出す。
その場でぱらぱらと流し読むと、どうも昼と夜で違う魔法効果が得られる魔剣のようね。
そして更にこの剣である程度の敵に止めを刺すと、昼夜が入れ替わる、つまり魔法効果が書き換えられる際に、その魔法が強化されるらしい。
…へぇ、面白いわね。
わたし自身は剣なんて使わないけど、研究対象としては興味深い。
わたしは剣を担ぐとキリバンに教えてもらった出口に向かう。
「…!」
けど、出口にすんなりと辿り着くことは出来なかった。
灰色の全身鎧で身を包んだ連中に襲われたのだ。
弓を片手に応戦するけど、こいつらかなり強い!
少しずつ押され、元来た道をじりじりと戻りながらの戦いになる。
その戦いの音に気付いたのか、キリバンが駆けつけ助太刀してくれる。
「凄い戦いでしたね。お怪我は?」
「ありがとう、助かったわ。怪我も大したことないみたい。ところで今のは何者?」
「伝説をご存じ無い?アレは実のところ、生命体ではないのです。オーダーの騎士と呼ばれる魂の無い存在ですな」
何でもここの共鳴石に呼び寄せられるように現れるんだとか。
正確には共鳴石そのものではなく、共鳴石の素体となっている「オベリスク」と言うものに引き寄せられる連中らしい。
「急ぎ王の下へ。そして騎士達が戻ってきたことをお伝えください」
そう言うとわたしに早く行くよう急かす。
どうもかなり一大事っぽいことらしい。
わたしは改めてゼディリアンを出るとニューシェオスの宮殿まで戻る。
「随分と早いな?意外とは思わんが、そうした話は後回しだ。今はお前の小さな脳みそに負荷をかける必要は無い」
わたしがシェオゴラスにゼディリアンの再起動とそこで出くわしたオーダーの騎士の事を伝えるが、シェオゴラスは既に予想していたようでつまらなそうにわたしの話を聞いていた。
「で、ゼディリアンはどうだ?お前がここに居る以上成功したと考えるべきだろうが…それとも酷く混乱してるだけか?あるいは正しく判断できなくなったとか?」
「ですから、ゼディリアンはちゃんと動いてます」
…単に話を聞き流してただけか。
改めてゼディリアンのことを伝えるとシェオゴラスは狂喜乱舞する。
「素晴らしい!お祝いだ!皆にチーズを振る舞おう!…まて、やっぱなしだ。チーズは振る舞わん。チーズが嫌いならそれが最高の宴になるはずだ」
そしてぶつぶつとあれこれ考え始めてしまった。
だが突然何かを思いついたらしい。
「お前に面白い魔法を教えてやる。これでハスキルを召喚できるぞ!物知りな奴だから旅の助けになるだろう。ほれ、やってみろ!」
目の前にハスキルが居ると言うのに召喚も何もないだろう…。
だがシェオゴラスはそれやれ!早くやれ!とまくしたてる。
わたしはやれやれと思いつつ、教えてもらった通りに術式を組み…何時もの癖で床をたん!と踏み鳴らす。
するとほんの短距離ではあるけど、ハスキルは瞬間移動してわたしの目の前に現れる。
その現象にハスキルは嘆息する。
「主は私を召喚する術を貴女に授けましたか。忙しくなりそうですな」
うんざりとそう言ってのけるハスキル。自分は忙しいからあまり呼び出すなと釘を刺されてしまった。
「いいぞ!ジャガラグを倒してグレイマーチを止めるにはどんな助けも必要だ」
また聞いたことのない名前。ジャガラグ。それは何者かと尋ねると今回は教えてくれた。
「秩序を司るデイドラの王だ。ビスケット…じゃなくオーダーだ。しかも悪い意味でのオーダーだ。冷たく生彩がなく死んでる。退屈なヤツだ。そいつを止めるのにお前の力を借りたい」
取り敢えず狂気を司るシェオゴラスとは対極に位置する宿敵のようなもの、かしら?後半は何を言ってるのか意味はまったく分からなかったけど。
それにしてもデイドラの王に対抗するために人間の力を借りようと言うのか?
同じデイドラの王であるシェオゴラス自身が対決した方が余程勝ちの目がありそうな気がするけど。
「わたしの力、ですか?」
確認の為に問うたけど、それがどうも気に入らなかったらしい。
「また重箱の隅を突く様なことを!黙っとれ!さもないと儂が黙るぞ。まずはグレイマーチだ」
何でもグレイマーチと言うのはそのジャガラグの訪れる前兆の様なもので、かなりの被害をだす災害のようなものらしい。
「何時の時代も終わりが近付けば事件に動乱、大災害が起こるもの。つまり今がその時期だ。グレイマーチが到来し、ジャガラグが闊歩する。あるいは走るが、スキップしたり肩で風を切って歩いたりすることは無く、ただ破壊の限りを尽くすだけだ」
「結局わたしはどうすれば?」
その手段を聞いただけなのにまたしてもシェオゴラスは激昂する。
「貴様に何かを求めたりはせん!拙者はただ伝えるのみ!ここは俺の王国、僕の創造物なのだぞ?我が土地!某の統治!」
余程頭に来ているのか、一人称が安定しない。
「お前は足元がまるで見えていない。場所の観念が無いのだ。自分がどこにいるのかもわからんのだろう?」
一体何の話だろうか?ここは狂気の王国、シェオゴラスの領域、シヴァリングアイルズじゃないの?
「まぁそれが分かる者は少ないが。それはともかく、せっかくだからお前をこのたまたまやって来た場所に馴染ませてやろう」
そう言うとシェオゴラスはこのシヴァリングアイルズを見て歩けと言う。
そしてこのニューシェオスに居るマニア領主とディメンシャ領主に面会して、それぞれの領、と言うかマニアとディメンシャの性質を知れと言う。
…わたしはここらが潮時かな、と思った。
多分この機を逃すと二度と逃げる好機は無いだろう。
シヴァリングアイルズを見て歩くふりをしてタムリエルに帰ろう。
そして二度とこの地に来てはいけない。
タムリエルまで逃げてしまえば例えシェオゴラスとておいそれと手は出せないはずだ。
幾ら現状ドラゴンファイアが消えているとは言え、デイドラの王その人がタムリエルまで出てこれるような次元の歪みはまだ無いはずだ。
わたしは密かにそう決意した。