「ゼディリアンへようこそ。私が管理人のキリバンです」
え?管理人?ゼディリアンの?
まず初めに思ったこと。
管理人がいるならその人に再起動させなさいよね…。
そして次に思ったこと。
ここはゼディリアンのどの辺りなのか、出口を教えてもらおう。

「すごいでしょう!ゼディリアンはこの王国に侵入する愚かな冒険者達の勇気を試す、究極の試練なのです!」
キリバンは上機嫌に解説を始める。
何でも門番が生み出されゼディリアンの価値が下がり、使われなくなった後にグラマイトが住み着いてクリスタルを勝手に取ってしまったんだとか。

「それはわかったから。出口はどこなの?」
「えぇ、長々と話してしまいましたな。本来なら音叉を持っていれば出入り口付近に転移できるのですが、ここに飛ばされたと言うことは、既に何者かがこのゼディリアンに侵入していると言うことです」
「つまり、何?」
「ここからゼディリアンを操作して冒険者どもを排除しなくてはなりません」
解説書の後半にはゼディリアンの機能一覧が載っていたけど…つまり罠を活用して侵入者を撃退しないといけないのか。

「ふぅ…」
わたしは溜息をこぼす。
何だか気の乗らない話ね。
キリバンの案内に従って制御室へ入る。
すると丁度三人組の男達が目の前の部屋に入ってくる。
一人はオークの戦士。こいつがリーダーっぽいわね。
もう一人は魔法使い風のローブを着こんだ男。
最後は革鎧で身を包んだ…おそらく盗賊ね。
宝探しの冒険者パーティとしてはごく普通の編成か。
こんな風にしげしげと見ているけど、向こうはこっちに気付いた風でも無く。
こっちからは丸見えだけど、向こうからはわたし達の事を見ることは出来ないようになってるらしい。

このゼディリアンは罠で侵入者を拷問する為の施設だけど、実はもう一つの目的がある。
それは…罠にかかって無様を晒す侵入者を見て楽しむ。
…全く趣味の悪い。
「お?何だこいつは?」
「こいつが砦の番人か?聞いた話じゃ凶悪な化け物揃いってことだったが」
男たちの目の前には小さな木の怪物。シヴァリングアイルズではノールと呼ばれる怪物で、樹齢に応じてその強さが増すらしい。
「ははは!こりゃ良いや」
男達がノールを小突いたりしていびり始める。

「今です」
キリバンがわたしに指示する。
ゼディリアンは全部で三部屋あり、今いるのは第一の部屋。
罠はどの部屋も二種類用意されていて、マニア式の罠とディメンシャ式の罠がある。
傾向としてはマニア式は相手の心を砕くタイプで、幻覚を駆使して相手の気を狂わせる。
もう一方のディメンシャ式はもっと直接的で、物理的に相手を叩きのめし、命を奪うのが目的だ。
この部屋に関してはマニア式ならあのちびノールが巨大化して追い掛け回す、ディメンシャ式だとちびノールが無数に分裂して侵入者を袋叩きにするそうだ。

わたしはふと殺してしまったハイラスやシンダンウェのことを思い出し…せめて生きてもらおうとマニア式のスイッチを入れる。
すると部屋には幻覚作用のある毒が吹き込まれ…
「お?何だ!?」
「こいつ!急にでかくなったぞ!?」
「うわ!?うぁぁあわぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁああっああ!」
どうも連中はあのノールが大きくなったように見えているらしい。
こっちから見たら小さなノール一匹から逃げ惑う三人の男、と言う光景になるんだけど…。
…ちょっと面白いかも。
わたしの心に芽生えた良からぬ感情。

しばらく経つとノールそのものが消えて男達だけが取り残される。
結局この幻覚で盗賊の人が怪物に殺されるかもしれないと言う死の恐怖に負けて気が狂ってしまった。
「くそ、なんてこった」
「どうする引き返すか?」
「いや、こいつは帰りに拾っていけば良い。先に進もう」
残った二人は相談の末、先に進むことにしたようだ。

「では我々も行きましょう」
キリバンが次の部屋へと誘う。
次の部屋は…檻の中に山ほどの財宝がある部屋だった。
「まいったな…あいつがいればこんな鍵、どうってことなかったんだが…」
「手を伸ばせば届かないか?…くそ、無理か」
目には見えるけど手の届かない財宝…確かにもどかしいことだろう。

「では…どうぞ」
キリバンがにやにやとわたしを促す。
第二の部屋の仕掛けはマニア式だと…無数の鍵がぶちまけられるらしい。当然あの檻を開ける鍵なんて一つも無い。
ディメンシャ式は…何これ?檻ごと侵入者を爆破して吹き飛ばす?

わたしはここでもマニア式を選んだ。
突然虚空から降ってきた数え切れない程の鍵、鍵、鍵。
「おぉ!?」
男の一人、魔法使い風の奴がそれに食いついた。
「おぉぉ!鍵だ!」
鍵を幾つか掴むと檻まで戻り開けられないかとがちゃがちゃ錠前をいじり出す。
駄目だと分かるとまた鍵の山に舞い戻り…を繰り返している。
「おい、よせ!罠だ。どうせ合う鍵なんてありゃしないに決まってる!」
オーク戦士がそう言うも魔法使いは聞く耳を持たない。
「へへ…へへへ…これで俺も大金持ちだ!へへ…」
「ちっ…」
財宝の魅力に憑りつかれた魔法使いを諦めるとオーク戦士は一人先へと進む。
また一人脱落。
「ふふっ…」
わたしは小さく笑った。

そして最後の部屋。
辺り一面に死体が転がっている。
その数たるや…まぁ数え切れない。普通ならこれだけで怖気ついてしまうだろう。
わたしだってこんなとこ入りたくない。
「何だ?こりゃ…何があったんだ」
流石に勇猛さが売りのオーク戦士の足を止めるには至らなかったようだが。

キリバンが無言で頷く。
…第三の部屋。
マニア式なら侵入者に幽体離脱の幻覚を見せて、自分が死んでしまったと思い込ませる。
ディメンシャ式だと部屋中の死体が起き上がりゾンビとして侵入者に襲い掛かり…死体の数を増やすことになる。
どうしよう?
さっきから何となく楽しくなってきているのが分かる。
この施設は危険だ。
使ってる側も少しずつサディスティックな狂気に蝕まれていくようだ。

わたしはにやにやしながらここでもマニア式のスイッチを入れる。きっとこっちの方がオーク戦士には堪えるだろう。
「ん?何だ?」
オーク戦士は足元に自分が倒れていることに気付く。
「……」
しばらく状況が飲み込めないようで、足元の自分と霊体となった今の自分の姿を見比べる。
「え?何でだ?…一体何で?馬鹿な!俺が…死んだ?まだ戦ってすらいないぞ!?どうして!?馬鹿な!あり得ない!戦う機会も、身を守ることも無く死んだ?嘘だ!嘘だあぁぁあああぁぁ!」

部屋にはオーク戦士の絶叫が響き渡る。
わたしは満足そうに頷くとキリバンを振り返る。
「お見事です。手早く侵入者を片付けましたね。それでは転移門へ。お帰りの際には戦利品もお渡ししますよ」
わたしはキリバンを伴って転移門へと足を向ける。
が、内心戸惑っていた。
まさかわたしがこんなにも悪趣味だったなんて。

タムリエルに出来たシヴァリングアイルズへの門の前での事を思い出す。
狂って喚き散らす男を衛兵が斬り殺していた。
今わたしがタムリエルに戻ったら…どうなるんだろう?
わたしも斬り殺されてしまうんだろうか?
わたしは一瞬だけ黙想して自らを省みる。
…あまりシヴァリングアイルズには長居しない方が良さそうね。