狂気の王が支配する王国、シヴァリングアイルズ。
でもその景色はまるで御伽の国のよう。
「きれい…」
わたしもただ感嘆するばかり。
タムリエルと色合いの違う青空、色とりどりの植物が視界を埋める。

丘を下り道なりに進むと集落が見えてくる。
果たしてどんな者が住んでいるのか…。
どれほど美しい世界であってもここはオブリビオン次元には変わりない。
つまり住んでいるのはデイドラのはずだ。
そうなれば一悶着は避けられないだろう。
シェオゴラスは定命の王者に会いたがっていると言う以上、タムリエルの住人に会いたがっているようだけど。わたしがその「王者」とは思えないわね。

ともかくシェオゴラスの居るところがわたしの目的地になるんだけど、それがどこなのかが分からない。
それを知るにはやはりこの世界の住人と接触するしかないだろう。
あとはこの世界の住人がハスキルの様に話の通じる相手であることを祈るだけだ。
警戒しながら見えてきた集落に足を踏み入れる。

そして肝心の住人に出会う。
…人間…?見た目はタムリエルに住む人間と変わらない。
とは言え中身も人間とは限らない。
取り敢えずすぐに弓を取れるよう警戒しつつ話しかけてみる。
…驚いたことにこの集落にいたのは皆人間だった。
会話の内容は思い出すだけでもいらいらするので割愛するけど、どうもここで皆足止めを食らってるらしい。
何でもこの集落の先に大きな門があるのだけど、そこを番人が守っていて通れないんだとか。

取り敢えずその門を見に行ってみようかな。
一体どんな化け物が待ち構えてるのやら。
わたしが門に辿り着いたその時、正にその門番を倒そうと言う一団が戦いを挑んでいた。
鋼鉄の鎧に身を包んだ十人近くの戦士達が見上げるような大男に良いように蹴散らされていた。
傍で見ていると門番の大男は剣で斬られてもその場で傷が塞がっているようだった。
試しにわたしも横手から弓で射かけてみたけど、刺さった矢が内側から肉が盛り上がるように押し出され、矢傷も瞬く間に治っていた。
「くそ…なんてこった!」
戦士の一団も壊滅し、最後の一人は流石に撤退を強いられる。

わたしも戦いの結果を見届けると集落に戻った。
さて、困ったわね。
まともな方法じゃ倒せそうも無い。
どうしたものかしら?
わたしは宿の食堂で一息つくことにした。
まだ昼なので果物のジュース…ちゃんと飲めるものらしい…を飲みながら考える。

「お前、見ない顔だな。お前も門を通りたいのか?」
ジュースをちびちびと啜るわたしにノルドの男が話しかけてくる。
「まぁ、ね」
「俺は奴を殺したい。何としてもだ!奴の骨が呼んでる!」
わたしの目的を確認するとジェイレッドと名乗る男は熱く語り始める。
「まずは肉と骨の庭園に行くぞ!奴は魔法で生まれたと言うがそんなのは信じない!だが骨は信じる!何かを殺すにはそいつの骨を使うのが一番だ」

魔法は信じないと言ってるけど、やってることはまんま呪術だ。
ジェイレッドの言い分を聞くにどうも共感魔術であの門番を倒せると言う。
共感魔術と言うのは呪術の基本中の基本だ。
関連性のあるモノはお互いに影響し合う…これが共感魔術の基本理念だ。
例えばナイフで誰かを切ったとして、そのナイフを火で炙れば切られた人の傷口も熱を持ち更に苦しめることが出来る。
それはナイフと切られた傷に切った、切られたの関連性があるからだ。
アカヴィリ地方でも有名な「丑の刻参り」もこの理論で成立している。
藁人形に髪や爪を埋め込んで釘を打ち込むアレだけど、人形に埋め込まれた髪や爪の持ち主がちゃんと苦しむのは、抜けた髪や切った爪とその本人に元々繋がりがあるからなのだ。

でもそうか…その庭園に行けばあの大男の骨が手に入るのか…ならやれるか?
わたしはジェイレッドの提案に乗り、庭園を強襲する。
本当は忍び込みたかったんだけど、このジェイレッドが猪突猛進に大声を上げながら突撃するので侵入は出来なかった…。

庭園には数多くの骨が転がっていて、庭の真ん中にあの大男と同じタイプの生物の死体が打ち捨てられていた。
門番本人の骨では無いので効果は若干劣るかもしれないけど、同種の骨なら影響も少しは期待できるだろうか。
そう思い死体に近付こうとした時!周囲の骨が浮き上がり魔法の力で結合する。
一筋縄とはいかないか…組み上がった骨はまるでデイドロスの様な姿を模す。
見た目には迫力あるけど所詮は骸骨兵。体格や重量による一撃の重さはあるだろうけど、さほど警戒する相手でもないだろう。

…それがわたしの油断だった。
わたしがデイドロス風骸骨兵を矢で射抜いたとき、それは起こった。
骸骨兵が崩れ落ちると同時に吹雪が巻き起こったのだ!
「なにこれ!?」
まさかこんな最後のいたちっぺみたいな罠が仕込まれてるとは夢にも思わなかったから、吹雪をもろに受けてしまう。
まぁ吹雪自体はそれ程強烈な物では無かったから致命的な事態は避けられたけど…。
まったく…中々面白いことを考える奴も居たものね。
誰が考えたのか知らないけど、感心する。今度わたしも小細工した生霊の召喚でも考えてみようかしら。
…やっぱりやめた。二番煎じとか猿真似なんてオリジナリティの欠片も無いことをするのは魔法使いとして三下のやることだわ。

結局大男の骨を手に入れて大喜びのジェイレッド。
「骨だ!骨!愛しの骨ちゃんだ!!わっははははは!!」
…目的、忘れてないでしょうね?
わたしは一抹の不安を覚える。
「ちょっと、その骨であいつをやっつけるんでしょ?」
「ん?…おぉそうだ、そうだったな。こいつで矢を作る」
翌日には骨の矢が出来ると言うので、その日は宿で一泊。

翌朝。
「よし行くぞ。矢の準備は出来てる。門番を殺しに行くぞ!俺達も死ぬかもしれんが、もっと酷い事はいくらでもあるさ」
死ぬより酷い事なんてそうあるもんじゃないと思うけど、反論はせずに矢を受け取り門へと向かう。

あの門番は門にさえ近寄らなければ襲い掛かってはこない。
門番 
わたしは遠間から骨の矢を射かける。これで何かしらの効果があれば良いんだけど…。
矢は風を切って大男に突き刺さる!
そして様子を見る…。
矢は刺さったまま何も起こらない。傷口からは血が滴る。

よし、効果ありね。あの異常な速さの再生が起こってない!
わたしは二本目の矢を番えると渾身の力で弓を引き絞り…放つ!
ジェイレッドも「ひゃっはー!!」とか奇声を上げて門番に走り寄りつつ矢を射る。
…何で弓持ってるのにわざわざ近付くのよ…。

わたしとジェイレッドによる骨の矢攻撃は門番の生命力を確実に削り落とす。
そして…門番はその大きな体を地に横たえる。
「門番を倒されましたか。可哀そうに」
どこから現れたのか…ハスキルが無表情のままわたしの背後に立っていた。

「王国の入り口は二つ。それぞれマニア領とディメンシャ領に繋がっております」
ハスキルの解説によるとマニアは色鮮やかだけど危険思想の持ち主が多く、ディメンシャは薄暗く陰気な人が多いらしい。
どうもマニアは何かに熱狂する人の土地、ディメンシャは鬱系の暗く重い性格の人が多い土地と言うことらしい。

わたしは門番から抉り取った二つの鍵を見比べる。
マニアもディメンシャもまともな人はあまり期待できそうも無い。
なら話は早い。
どっちもどっちならせめて景色の良い方がよろしかろう。
それにどっちかと言うとわたしは研究者気質だし魔法研究とかに熱中することも多いから、マニアの方が落ち着くかもしれない。
わたしはマニアの門を開き、王国へと踏み込んだ。