潮騒の音を子守唄に眠りに落ちる。

「やった…のか」
サウルが呆然とする。
一つ目の巨人は大きな地響きと共に地に倒れ伏す。
わたしはそうでもないけど、サウルは疲労困憊、エルサも魔法を使い過ぎたのか顔色が悪い。
…このまま強行軍とはいかないか。
先を急ぎたいけど、このまま進んでも多分ムカブに返り討ちとなるのが目に見えている。

焦る心を静めて一旦村に戻り一息つき、改めて準備をするとまたゴブリンの砦に向かう。
「バカナ!ウスノロ…シンダ!?」
追い付いた!
ムカブ達は丁度ロロンちゃんを崖下に投げ落とそうとしていた正にその時だった。
「あぁ…天にまします精霊神様…今お側に参ります」
崖の上のムカブ 
ロロンちゃんは観念しきっているのか、一心不乱に念仏を唱えていて、わたし達には気付いてないようだった。

わたしは弓を引き絞るとムカブの眉間に狙いを定める。
「その子、放してくれない?」
「グギ…コイツ、イケニエ!オマエラニハワタサナイ」
交渉は決裂、ね。
そう思った時、ゴブリン達の真ん中に何かが投げ込まれた。
ガシャン!と高い音を立てて何かが割れ、火の手が上がる!
急な事に浮足立ったゴブリン達はロロンちゃんを放り出して右往左往。

「あいた!?」
べしょ、と音を立ててぬかるんだ地面に投げ出されたロロンちゃんもきょろきょろと回りを見回す。
「ロロン!こっちだ!」
サウルの呼びかけで我を取り戻し、一目散にこっちに走る。
「助けに来てくれたの?ありがとう」
「お礼は後だ、来るぞ…」
ゴブリン達も漸く混乱から立ち直る。
こっちはもう用は済んだからさっさと帰りたいところだけど、流石にゴブリンの砦。
わたし達は周りを囲まれている。
やるしか、ないわね。
わたしが先手を打って放った矢が開戦の合図となった。

とは言っても数こそいるものの、ゴブリンはゴブリン。
「オデハニゲル!」
ムカブの敗走をきっかけにゴブリン達は蜘蛛の子を散らすように逃げ散る。
「えへへ…薬草摘みに来たんだけど、あいつら思ったより村の近くまで来ててさ」
バツが悪そうに言い訳するロロンちゃん。まぁ何はともあれ無事で良かった。
一件落着、さぁ帰ろう…と思ったその時だった。

「ウスノロ、ツレテキタ!」
ムカブが一つ目巨人を伴って再び立ち塞がる!
またあいつか…連戦だけど、いけるかしら?
わたしはちらりと皆の様子を見る。
どう切り抜けるかと考え始めた時…不意に地面が揺れる。
「地震!?」
「いや違うぞ…!」
敵味方双方が呆気に取られる…。
ロロンちゃんが投げ込まれそうになった崖の下から大きな城が浮き上がってきたんだから、そりゃ驚く。
って城?何か初めにエルサが城を探してるとか言ってたような?

おっといけない、今は目の前の敵をどうにかしないと、と思い出して振り返ったけど、そこにはムカブも一つ目巨人も居なかった。
驚きすぎて逃げてしまったか。
「しっかしすげぇな…本当にあるとはねぇ」
何時の間にかポポログが側に来ていた。
「あ!お前…ロロンが危なかったんだぞ?いたんなら手伝えよ」
「えー?ちゃんと手伝ったじゃん」
あの火か。
「それはともかくすげぇよなぁ…」
ポポログは今や天高く舞い上がった城を見上げる。

雨降りだった空も何時の間にか晴れあがっていた。
その時だ。
「迎えに行きます。村まで戻って下さい」
小さい声だけど、確かに聞こえた。今の声は…マァリン?
「何だって!?あの城が迎えに来てくれるってのか?そいつはすげぇや!」
ポポログは脱兎のごとく走り出す。
それじゃわたし達も帰るとしますか。

「お帰りなさい。久しぶりの戦闘だったかと思いますが、思った以上に戦えたようですね。何よりです」
マァリンが出迎える。しかしこの夢は何なのかしらね。
わたしの役どころが今一つ良く分からない。
エルサもわたしを「円卓の騎士」とか言ってたし…何かの英雄物語の主役とかそう言う奴なのかしら?
でもこんな夢ばかり見てると…また中二病が再発しちゃいそうになるわね。気を付けないと…。

マァリンに連れられてボーノンにロロンちゃん救出の報を届ける。
「薬草摘みに行ったんだけど…気が付いたら捕まってた。てへ」
てへぺろ☆ 
…「てへ」と言うなら「ぺろ☆」まで付けるべきじゃないかしら?アカヴィリ地方ではそれが習わしだ。
ともかくボーノンのお小言が済んだところでマァリンはわたし達を連れ出す。

「では城に案内します」
そう言ってエプロンのポケットから小さな鏡を出すをそれをわたし達に向けた。
「あれ!?」
「うぉ?」
わたしも含め一同が急な風景の変化に驚く。
「円卓の騎士の城、ロンドエールへようこそ」
マァリンが改めてわたし達に恭しく頭を垂れる。