「むぅ、また良いところで…」
一つ目巨人に矢を射かけたところで目が覚めてしまった。
さて、と。それじゃ行くとしますか。
宿を出てブラヴィルの正門に足を向ける。
「よかった、まだ街にいたか」
見知らぬ男が声をかけてくる。
「もう一仕事頼みたいことがあるそうだ。スクリーヴァを訪ねてくれ」
まったく、昨日の今日で一体何があると言うのか。
「セラニスが音信不通になった」
開口一番そう切り出す。
セラニスと言うのはグレイフォックスが探し求めている”タムリエルの歴史”と言う本の探索を任されていたのだけど、最近音沙汰が無いそうな。
「何があったか分からないけど、セラニスを探して無事本を持ち帰れるよう力を貸してやってほしい」
音信不通、ねぇ。
盗賊が音信不通なんて言っても理由なんてたかが知れてる。
盗みで下手を打って衛兵に斬られるか、捕まって投獄されてるか、ってところだろう。
わたしはその本があると言うスキングラードに向かうことになった。
「ねぇセラニスって今どうしてる?」
物乞いに小銭を握らせて今どうなってるのか探りを入れる。
「あぁ、セラニスな。あいつなら…」
どうもある晩、宿でお酒を飲みながら自分の武勇伝を語っていたらしい。
盗賊の武勇伝なんてどんなものか想像に難くない。
そしてそれは偶然宿に居合わせた衛兵隊長の耳にも入ってしまう。
結果お縄になり投獄…今に至る、と。
まぁ大体予想通りね。
わたしは城に出向き面会を求める。
「駄目だ。囚人への面会は認められていない」
看守はかたくなに拒む。
「どうしても、と言うなら犯罪を犯してお前も牢に入るか…もしくは囚人の世話役になることだな」
かつてブルーマでジョランダーに会ったように軽犯罪を犯す…と言うのはあまりしたくない。
やっぱり何だかんだ言っても経歴に汚点が付くのは正直良い気分じゃないのは、あの時で充分理解した。
でも、囚人の世話役、ねぇ?
誰もやりたがらない仕事なもので、何時でも募集中らしい。
ワザと捕まるよりはそっちの方が良いか。
わたしは求人を取り仕切っている執事に面会を求める。
「なぁに、仕事と言っても定期的に食事を運ぶ、ただそれだけですよ」
そう前置きすると仕事の仕方と賃金や待遇の話を聞かせてくれる。
話しに聞くだけなら割と普通の仕事っぽく聞こえるけど、やっぱり犯罪者と毎日顔を合わせるのは気分が乗らないのだろうな。
わたしは取り敢えずその仕事を引き受ける。
執事さんには悪いけど、この一回で雲隠れする気満々だ。
さっそく食事の準備をして牢に入る。
一人ずつ確認しながら食事を配るけど、肝心のセラニスが見当たらない。
まさか既に脱獄した、とか?
「セラニスがいないようだけど、どうなってるの?」
手近な牢に囚われてる囚人に聞いてみる。
するとびくっと体を震わせ…。
「助けてくれ!このままじゃやばいんだよ!頼む!頼むよ!」
唐突に狼狽する囚人。
何だか只事じゃなさそうね…。
囚人を落ち着かせて話を聞くと、どうもここの囚人は”蒼白の淑女”と言う女に定期的にどこかに連れて行かれるらしい。
そして…三回連れて行かれた人はもう戻ってくることは無いのだと言う。
何と言うか怪談話みたいね。
でも問題なのは、セラニスがこの前その三回目のお呼ばれをしてしまったと言う。
「で、連れてかれる、ってどこに行ってるの?」
「わからねぇ…でもさっき連れてかれたアルゴニアンが相当暴れてたからな…結構怪我してあちこちに血が飛んでたぞ。それを追えば分かるかもな」
そう言われて通路を見ると確かに血の跡が点々と残っている。
血痕は…牢の一番奥の壁に向かって続き、そこで途絶えている。
壁をちょっと叩いてみると、向こうにも空洞、恐らく通路か何かがありそう。
ふむ。
壁とその付近をあれこれいじり倒してみる。
燭台の根元をスライドさせると、かこん!と軽い音を立てて壁が割れる。
この先ね。
床には血痕が続いている。
辿った先はワインセラーの大樽。樽にはかなりの血がこびり付いている。
この中、か。
樽にも細工が施されていて、扉が偽装されていた。
ここまでするのだから相当な何かが隠されているはず…一体スキングラードってどう言うところなのかしら?
お城の中にこれだけのモノを隠してるんだから、ただの街ではないのだろう。
わたしは慎重に歩を進めたはずなんだけど…。
「ここで何をしている?」
爛々と赤く輝く瞳でわたしを睨み付けるダンマーの女。
でもその瞳の赤さは…種族特有のものではなく、ある種の呪いによるものだった。
吸血鬼。
一般的には化け物として認知されているその存在は、モラグ・バルとペライトによる呪術的な病によって生み出されている。
古い時代にはそれを癒す術式もあったと聞くけど、その技が失われて久しい。
つまり不治の病だ。
問題なのは、それが接触感染してしまうこと。
そして不治の病と言ってもその症状によって人たる身の限界を超えた能力を得ていること。
まったく健常者より元気な病人とか大概にしてほしいものね。
「もう一度聞く。ここで何をしてる?」
わたしは部屋の中を素早く見回す。
室内には白骨化した遺体もあれば、まだ腐敗も始まってない遺体もある。
かなりの人数ね。
どう言う理由か知らないけど、このお城では吸血鬼を住まわせていて、食事として囚人を与えているのか。
「答える気は、無いのね?」
吸血鬼は牙をむき出しにするとわたしに向かって素早く踏み込んでくる!
わたしは咄嗟に一歩下がると床を高らかに踏み鳴らす。
現れ出でるは実体を持たない意思。生霊と呼ばれる存在。
「こしゃくな!」
生霊はその存在自体が魂であり、その接触は直接魂に届く。
肉体を傷つけることなく振り下ろす拳が魂を削り、砕いていく。
「…おの、れ…」
吸血鬼も流石に魂ごと打ち砕かれれば死に絶える。
わたしはそこらに打ち捨てられた遺体の中でも比較的腐敗の進んでいないものを確認していく。
…やっぱりいた。
あらかじめ聞いていた人相に良く似た男が一人。
セラニスだ。
となると、どうしたものかしらね。セラニスが死んでいるとなると例の本のことも闇の中と言うことになる。
「おーい、済まないがそこのあんた!ここから出しちゃくれないか?」
背後から声を掛けられる。
おっとそう言えばアルゴニアンが連れて行かれたと言っていたわね。
振り向くとそこには…
「また…なの?」
捕えられていたのはアミューゼイだった。
何でもレヤウィンから脱獄した後スキングラードに流れたは良いが、コソ泥をしたところ捕まったらしい。
何と言うか、つくづく盗みに向いてないのね。
でもここに居ると言うことは…。
「ねぇ、セラニスのこと何か知ってる?何か聞いてない?」
「そう言えばあんたも盗賊ギルドだったな…そうだな、ここから出るのを助けてくれたら教えるよ」
…本当に何か知ってるのかしら?ちょっと疑わしいけど、他に宛も無いし。
わたしはアミューゼイを伴って城から脱出する。
しかしお城って言うのはもっと警戒が厳重なのかと思ったら案外誰もいないのね。
それとも昼間だからなのかしら?
「ありがとうよ。あんたには何度も助けてもらったな」
そう感慨深そうに呟くとセラニスが見付けた本の事を教えてくれた。
「俺もやっぱり盗賊ギルドに入るとするか…」
別れ際にアミューゼイはそんなことを言っていたけど、正直あんまり向いて無さそうだからやめた方が良いんじゃないかしら?
わたしはセラニスが本を隠したとされる場所を漁る。
とある屋敷の裏手にある茂みだ。
「あった」
確かに本はあった。中身も一応確認する。
確か”タムリエルの歴史”と言うタイトルだったわよね?
中身を読むと、どうもエイドラ…神々について書かれたものらしい。
グレイフォックスが欲しがっていると聞いてるけど、こんなのどうする気なのかしら?
神秘学者や魔術学者が欲しがりそうな本じゃないだろうか。
まぁ良いや。わたしはその本を手にブラヴィルへと戻る。
「…そうか、セラニスは駄目だったかい。本だけでも届いたのがせめてもの救いだね」
スクリーヴァは仲間の死を悼み深く溜息を吐いた。
一つ目巨人に矢を射かけたところで目が覚めてしまった。
さて、と。それじゃ行くとしますか。
宿を出てブラヴィルの正門に足を向ける。
「よかった、まだ街にいたか」
見知らぬ男が声をかけてくる。
「もう一仕事頼みたいことがあるそうだ。スクリーヴァを訪ねてくれ」
まったく、昨日の今日で一体何があると言うのか。
「セラニスが音信不通になった」
開口一番そう切り出す。
セラニスと言うのはグレイフォックスが探し求めている”タムリエルの歴史”と言う本の探索を任されていたのだけど、最近音沙汰が無いそうな。
「何があったか分からないけど、セラニスを探して無事本を持ち帰れるよう力を貸してやってほしい」
音信不通、ねぇ。
盗賊が音信不通なんて言っても理由なんてたかが知れてる。
盗みで下手を打って衛兵に斬られるか、捕まって投獄されてるか、ってところだろう。
わたしはその本があると言うスキングラードに向かうことになった。
「ねぇセラニスって今どうしてる?」
物乞いに小銭を握らせて今どうなってるのか探りを入れる。
「あぁ、セラニスな。あいつなら…」
どうもある晩、宿でお酒を飲みながら自分の武勇伝を語っていたらしい。
盗賊の武勇伝なんてどんなものか想像に難くない。
そしてそれは偶然宿に居合わせた衛兵隊長の耳にも入ってしまう。
結果お縄になり投獄…今に至る、と。
まぁ大体予想通りね。
わたしは城に出向き面会を求める。
「駄目だ。囚人への面会は認められていない」
看守はかたくなに拒む。
「どうしても、と言うなら犯罪を犯してお前も牢に入るか…もしくは囚人の世話役になることだな」
かつてブルーマでジョランダーに会ったように軽犯罪を犯す…と言うのはあまりしたくない。
やっぱり何だかんだ言っても経歴に汚点が付くのは正直良い気分じゃないのは、あの時で充分理解した。
でも、囚人の世話役、ねぇ?
誰もやりたがらない仕事なもので、何時でも募集中らしい。
ワザと捕まるよりはそっちの方が良いか。
わたしは求人を取り仕切っている執事に面会を求める。
「なぁに、仕事と言っても定期的に食事を運ぶ、ただそれだけですよ」
そう前置きすると仕事の仕方と賃金や待遇の話を聞かせてくれる。
話しに聞くだけなら割と普通の仕事っぽく聞こえるけど、やっぱり犯罪者と毎日顔を合わせるのは気分が乗らないのだろうな。
わたしは取り敢えずその仕事を引き受ける。
執事さんには悪いけど、この一回で雲隠れする気満々だ。
さっそく食事の準備をして牢に入る。
一人ずつ確認しながら食事を配るけど、肝心のセラニスが見当たらない。
まさか既に脱獄した、とか?
「セラニスがいないようだけど、どうなってるの?」
手近な牢に囚われてる囚人に聞いてみる。
するとびくっと体を震わせ…。
「助けてくれ!このままじゃやばいんだよ!頼む!頼むよ!」
唐突に狼狽する囚人。
何だか只事じゃなさそうね…。
囚人を落ち着かせて話を聞くと、どうもここの囚人は”蒼白の淑女”と言う女に定期的にどこかに連れて行かれるらしい。
そして…三回連れて行かれた人はもう戻ってくることは無いのだと言う。
何と言うか怪談話みたいね。
でも問題なのは、セラニスがこの前その三回目のお呼ばれをしてしまったと言う。
「で、連れてかれる、ってどこに行ってるの?」
「わからねぇ…でもさっき連れてかれたアルゴニアンが相当暴れてたからな…結構怪我してあちこちに血が飛んでたぞ。それを追えば分かるかもな」
そう言われて通路を見ると確かに血の跡が点々と残っている。
血痕は…牢の一番奥の壁に向かって続き、そこで途絶えている。
壁をちょっと叩いてみると、向こうにも空洞、恐らく通路か何かがありそう。
ふむ。
壁とその付近をあれこれいじり倒してみる。
燭台の根元をスライドさせると、かこん!と軽い音を立てて壁が割れる。
この先ね。
床には血痕が続いている。
辿った先はワインセラーの大樽。樽にはかなりの血がこびり付いている。
この中、か。
樽にも細工が施されていて、扉が偽装されていた。
ここまでするのだから相当な何かが隠されているはず…一体スキングラードってどう言うところなのかしら?
お城の中にこれだけのモノを隠してるんだから、ただの街ではないのだろう。
わたしは慎重に歩を進めたはずなんだけど…。
「ここで何をしている?」
爛々と赤く輝く瞳でわたしを睨み付けるダンマーの女。
でもその瞳の赤さは…種族特有のものではなく、ある種の呪いによるものだった。
吸血鬼。
一般的には化け物として認知されているその存在は、モラグ・バルとペライトによる呪術的な病によって生み出されている。
古い時代にはそれを癒す術式もあったと聞くけど、その技が失われて久しい。
つまり不治の病だ。
問題なのは、それが接触感染してしまうこと。
そして不治の病と言ってもその症状によって人たる身の限界を超えた能力を得ていること。
まったく健常者より元気な病人とか大概にしてほしいものね。
「もう一度聞く。ここで何をしてる?」
わたしは部屋の中を素早く見回す。
室内には白骨化した遺体もあれば、まだ腐敗も始まってない遺体もある。
かなりの人数ね。
どう言う理由か知らないけど、このお城では吸血鬼を住まわせていて、食事として囚人を与えているのか。
「答える気は、無いのね?」
吸血鬼は牙をむき出しにするとわたしに向かって素早く踏み込んでくる!
わたしは咄嗟に一歩下がると床を高らかに踏み鳴らす。
現れ出でるは実体を持たない意思。生霊と呼ばれる存在。
「こしゃくな!」
生霊はその存在自体が魂であり、その接触は直接魂に届く。
肉体を傷つけることなく振り下ろす拳が魂を削り、砕いていく。
「…おの、れ…」
吸血鬼も流石に魂ごと打ち砕かれれば死に絶える。
わたしはそこらに打ち捨てられた遺体の中でも比較的腐敗の進んでいないものを確認していく。
…やっぱりいた。
あらかじめ聞いていた人相に良く似た男が一人。
セラニスだ。
となると、どうしたものかしらね。セラニスが死んでいるとなると例の本のことも闇の中と言うことになる。
「おーい、済まないがそこのあんた!ここから出しちゃくれないか?」
背後から声を掛けられる。
おっとそう言えばアルゴニアンが連れて行かれたと言っていたわね。
振り向くとそこには…
「また…なの?」
捕えられていたのはアミューゼイだった。
何でもレヤウィンから脱獄した後スキングラードに流れたは良いが、コソ泥をしたところ捕まったらしい。
何と言うか、つくづく盗みに向いてないのね。
でもここに居ると言うことは…。
「ねぇ、セラニスのこと何か知ってる?何か聞いてない?」
「そう言えばあんたも盗賊ギルドだったな…そうだな、ここから出るのを助けてくれたら教えるよ」
…本当に何か知ってるのかしら?ちょっと疑わしいけど、他に宛も無いし。
わたしはアミューゼイを伴って城から脱出する。
しかしお城って言うのはもっと警戒が厳重なのかと思ったら案外誰もいないのね。
それとも昼間だからなのかしら?
「ありがとうよ。あんたには何度も助けてもらったな」
そう感慨深そうに呟くとセラニスが見付けた本の事を教えてくれた。
「俺もやっぱり盗賊ギルドに入るとするか…」
別れ際にアミューゼイはそんなことを言っていたけど、正直あんまり向いて無さそうだからやめた方が良いんじゃないかしら?
わたしはセラニスが本を隠したとされる場所を漁る。
とある屋敷の裏手にある茂みだ。
「あった」

確かに本はあった。中身も一応確認する。
確か”タムリエルの歴史”と言うタイトルだったわよね?
中身を読むと、どうもエイドラ…神々について書かれたものらしい。
グレイフォックスが欲しがっていると聞いてるけど、こんなのどうする気なのかしら?
神秘学者や魔術学者が欲しがりそうな本じゃないだろうか。
まぁ良いや。わたしはその本を手にブラヴィルへと戻る。
「…そうか、セラニスは駄目だったかい。本だけでも届いたのがせめてもの救いだね」
スクリーヴァは仲間の死を悼み深く溜息を吐いた。