「待ちやがれ!」
サウルが勇ましく槍を振りかざしてゴブリンの一団に迫る。
あの夢の続きみたいね。

「ナンダ!?」
お、喋った!すごい。ゴブリンも喋るのか。
一団の中でやたらと派手に着飾ったゴブリンがこちらを睨み付ける。
「やいムカブ!ロロンを離せ」
何?あのゴブリンと知り合いなの?ムカブと呼ばれた派手ゴブリンも片言で返事をする。
「コトワル。コイツ、ソラジロノイケニエ!」
その後も二言三言問答したけど、埒も無く。
ゴブリン達はロロンを抱えて逃げるグループとわたし達を足止めするグループに分かれる。
そして…がしゃん!と音を立てて砦の門が閉ざされる。
「くそ!どけよ!」
サウルが激昂して立ちふさがるゴブリンに躍りかかる!
それが開戦の火蓋を切って落とした。

………
「グゲ・・・」
ゴブリンは数こそ居たけど、戦力としてはわたし達に遠く及ばなかった。
でも…
「この!この!」
サウルは一心不乱に閉ざされた門を蹴る。
もちろんその程度ではびくともしない。
「サウル、落ち着いて」
「そんな暇あるかよ!早くしないと!」
「こう言うのは大体何か仕掛けがあって、開け閉めできるはずだから」
わたしがそう諭して漸く収まる。

…とは言っても仕掛け、ねぇ。
門とその付近を見てもそれらしい何かは見当たらない。
もっと別の場所にあるのかしら?
わたし達は砦の外周をぐるっと回ってみる。
すると…
「よ、何かお探しかい?」
犬耳の若者に出会う。
「ポポログ!?」
どうもサウルは面識があるらしい。
「どったの、こんなところで?」
「ロロンが攫われたんだ」
「うん、知ってる」
「てめぇ!」
焦るサウルを小馬鹿にしたようにあしらうポポログ。

「ところでそっちの人は?」
そろそろ頭の血管が弾けて卒倒するんじゃないかと心配になるサウルを余所に、こっちに興味を向ける。
「初めまして。ポポログ、で良いのかしら?わたしは光里。ちょっと色々あってロロンを助けに来たんだけど」
「あ、これはご丁寧にどうも」
ふーん、へぇー、と興味津々でわたしとエルサを見回す。
「そっちのぺったん娘は…まぁいいや。あんたに良いこと教えてやるよ」
そう言うとわたしを手招きして「ほら、あそこ」と砦の一画を指し示す。
「あそこらへんをよっく見てみな。何かあると思うよ」
そう言うと「それじゃおいらもやることあるから」と瞬く間に走り去ってしまった。

「ところで先生、ぺったん娘って何ですか?」
呆気に取られるエルサを適当に誤魔化す。教えても良いんだけど多分女として自尊心に影響すると思うのでやめた方が良いだろう。
それはともかく教えてもらった辺りを見てみる。
…ロープに括り付けられた大きな石。石は地面に届いていて…どうも重りとして使われてるようね。
わたしはサウルに持っていたナイフを借りるとロープを切る。
するとロープは物凄い勢いで巻き取られて見えなくなってしまった。
恐らくこれが門の仕掛け、か。

かくしてわたし達はゴブリン砦に突入する。
当然砦の中なので、ゴブリンの数は目に見えて増えてきているけど、この世界のゴブリンはさほど強くない。
奥へ奥へとロロンを攫った連中を追って進む。
居た!
見間違えるはずも無い。あの派手な成りをした喋るゴブリン!

「待ちなさい!」
わたしが制止すると振り向きつつ舌打ちをする。
「グギ!コンナトコロマデ!…ウスノロヲダセ!」
派手ゴブリンがそう号令すると…奥の方から地鳴りが聞こえてきた。
「なんだよ…あれ」
サウルが呆然と見上げる。
出てきたのは一つ目の巨人!
うすのろ 
「先生、アレはやばいって、逃げよう!」
即座に逃走を提案するサウル。
「いや、やるわよ」
わたしは弓を構える。
「まじで!?正気じゃねぇよ!」
悲鳴を上げるサウル。
「わたしは先生を信じます」
杖をかざし集中するエルサ。
やっぱり女は度胸が違うわね。
「さぁ、いっくわよ!」
わたしの矢が巨人に向けて放たれる!