レヤウィンでの大仕事を終えて数日後、わたしはコロール南の山林にいた。
目的はシベナガムラサキ。
ニンジンと合わせて調合することで暗視の霊薬になる材料だ。
この先も盗人働きを続けるなら有った方が良い薬のはず。
このシベナガムラサキはコロールの周辺にやたらと生えているので、かなりの数が集められるだろう。
「おや?光里さんじゃないか。どうしたんだい?こんな所で」
不意に声を掛けられ顔を上げるとジェメイン兄弟の片割れがいた。
えっと、戦槌を担いでいるところを見るに兄のギルバートね。
と言うことは薬草摘みで夢中になってウェザーレアまで来てしまったか。
「うん、ちょっと薬草摘みに来たのよ」
隠す必要も無いので、ありのままを答える。
「そう言えばこの前コロールに買い出しに出た時に聞いたんだ。盗まれてた宝剣が戻って来たって。ひょっとしてそれって…この前探してたヤツかい?」
「そうね。そんなこともあったわね」
「盗まれた剣を探して家に来たってことは…俺達の家族に何か関係あったりするのかな?」
噂とは言えある程度の話は耳にしてるみたいね。
わたしはどうしようかと思ったけど、事の顛末を伝えることにした。
彼らの父親が盗賊だったこと、そしてコロールの宝剣を盗み出して隠した事。
まぁ全部を包み隠さずとはいかないけど、必要な部分は教えた。
「…そうか。父さんが…」
流石にショックだったろうな。
「でも君が父さんの汚名を雪いでくれたんだね。ありがとう」
そう言うとわたしはウェザーレアの山小屋に招かれた。
「これは父さんが残してくれた遺産の一部だけどね。君に渡しておくよ。せめてものお礼だ」
そう言って大き目の魂石を四粒差し出す。
「別に気にしなくても良いのよ?わたしも剣を見付けたことで相応の褒賞も貰ってるし」
一度は断ったけど、是非にと言うので受け取ることにした。
「君には本当にお世話になりっぱなしだね。大したおもてなしも出来ないかもしれないけど、何時でも遊びに来てくれよ。その時は歓迎するから」
わたしは双子兄弟に別れを告げると薬草摘みに戻った。
数時間後。そろそろ日も傾いてきたし帰ろうかなと思ったところで、あるモノが目に入った。
それは…酒盛りの現場だった。
場所はコロールから相当南に離れ、山林が途切れて平野になっている辺りだ。
人里離れるにも程がある。こんな辺鄙な所で何をしているのか…キャンプでもしてるんだろうか?
そう思ってしげしげ見ていると、向こうもわたしに気付いたようだ。
「お?あんたもやってくかい?」
陽気なボズマーのおじさんが声をかけてくる。
「良いの?」
「もちろんだとも!酒は大勢で飲んだ方が美味い!」
それじゃお言葉に甘えて、とわたしもお呼ばれすることにした。
飲むことしばし。随分とごちそうになっちゃったわね。
このままただお呼ばれしただけじゃ申し訳ない。
わたしも普段から持ち歩いているシロディールブランデーを提供する。
「お!何だよ姉ちゃん。用意が良いじゃないの!」
おじさんは更に上機嫌になる。
そしてその時…聞いてはいけない声を聴いてしまった。
(ふはは!随分と盛り上がってるな!良いぞ!)
耳にでは無い…直接意識に伝わるこの声は…でも酔ったわたしは気付かない。
(丁度良いところに来たな。祭りはこうでなくちゃいけねぇ。お前さんもそう思うだろう?)
「禿同!(=激しく同意)」
ボズマーのおじさんの禿げ頭をぺちぺち撫でながら返事をする。
酔ったわたしは声ならぬ声に何の疑いも抱かずに答えてしまっていた。
(そうだよな!ところでお前さんに盛り上げてもらいたい祭りがあるんだが、頼めるかい?)
「まっかせて~」
上機嫌で安請け合い。これが傍目には喜劇、わたしにとっては悲劇の始まりだった。
その声ならぬ声はレヤウィンのお城で毎晩開かれる晩餐会のことを教えてくれた。
何でも格式ばかりにこだわって、ちっとも盛り上がらないのだと言う。
(そこでコイツの出番だ。それをぶっ放せば楽しい祭りになるぞ)
声ならぬ声はわたしの左手の甲に刻印を穿つ。
(終わったらここに戻ってきなよ。ちゃんと盛り上がったらお礼をするぞ)
そして翌日。頃合いは昼過ぎ。
「あ゛ー…昨夜は飲み過ぎたわ」
わたしは酔い覚ましの霊薬を一息に煽る。
どうやって戻って来たのか知らないけど、レヤウィンの安宿。
あれ?わたし昨日はコロールの山に居たはずなんだけど…?
記憶を辿るけど、山で酒盛りしている連中と一緒になってお酒飲んだところまでしか思い出せない。
一体ここまでどうやって来たんだろう?
酔っ払いと言うのは時々信じられないことを平然とやってのける。
まぁ別にそこに痺れたり憧れたりはしないけど。
にしても何でレヤウィン?
そう言えば昨夜何か頼まれたような?
晩餐会を盛り上げるための隠し芸魔法をぶっ放せ、だったかしら?
左手の甲に焼き付けられた刻印を見るに…一体何の魔法かしら?術の構成から見て…どうも人に向けて撃つ必要がありそうね。
結果どうなるのか、までは分からないけど盛り上がるってくらいだから何かに変身したりするのかもしれない。
ともかく晩餐会だ。恥ずかしい話だけどわたしみたいな身なりじゃ会場に入ることもままならない。
ベストグッズ商店で良さそうな服を見繕ってこないといけないわね。
普段なら着ないような余所行きのドレスとちょっとしたアクセサリー。
痛い出費だけど…たまには良いよね、お洒落したって。
と言うわけで夜。
「晩餐会はこちらでしょうか?」
レヤウィン城の大食堂の前に陣取ってる衛兵に声を掛ける。
「どちら様でしょうか?招待客のリストには載っていらっしゃらないようですが」
「確かに招待客ではありませんが、急ぎ伯爵夫人の御耳に入れたいことがありまして」
適当に理由をでっち上げる。
「ふぅむ。通して良いか迷うところですが、身なりに問題も無さそうですし…宜しいでしょう。お通り下さい」
場合によっては袖の下が必要かと思ったけど、意外とすんなり通してくれたわね。
しかし晩餐会ってどう言うものなのかしら?
会場に入ると…まぁ普通の宴席だった。
確かに参加者の話し方が上品なせいか、酒場の様な喧噪も無く静かなものに感じるのは否めない。
これを盛り上げろと言うのか。
わたしはそっと左手を…伯爵夫人に向けた。別に誰でも良いんだけど、何となく。
そして次の瞬間!
「何だ!?」
「きゃぁ!」
「どうなってるんだ!何が起こってるんだ!?」
巻き起こる騒ぎ…無理も無い。だって皆いきなり裸になってるんだもの。
って言うか何かわたしも肌寒い、そう思って視線を落とすと!
ぎゃぁぁあぁぁ!わたしまで裸になってるじゃない!
そして折悪く騒ぎを聞きつけた衛兵が飛び込んでくる。
「スタァァプ!!貴様か!?やはり通すべきではなかったようだな!」
わたしは…これって何の罪になるんだろう?良く分からないけど衛兵に追いかけられる羽目に…!
でもどうする!?こんな恰好じゃ外に出れないし。
わたしは必至で逃げ回りながら城内で服を奪い取る!
「スタァァップ!卑しい盗人め!私の目の前で盗みを働くとは舐められたものだな!」
こっちだって好きでやってるんじゃないのよ!
更なる罪状を重ねつつわたしは城の外、そして街の外まで逃げおおせる。
…許すまじ昨日の誰か!
わたしは鬼のような形相で昨夜酒盛りをしていた辺りに向かう。
到着した頃にはもう日も上りきっていた。
(見事だったぞ!小さき者よ。祭りにも参加したみたいだな!良いぞ、その意気込みだ!お前さんも少し肩の力を抜いた方が良さそうだったしな)
そこはあろうことか、サングインの…乱痴気騒ぎのデイドラ王の祠だった。
(こいつは約束のご褒美だ。あとそっちの箱にはお前さんの持ち物が入ってるから、忘れるなよ)
そう言うとバラの様な杖が目の前の地面からにょきっと生えてくる。
わたしはそれを腹いせに引っこ抜くと持ち物を返してもらい、足早に祠から去った。
まったくまさか酔った拍子にデイドラ王と契約してるなんて…何と言う巡り合わせの悪さなのかしら。
目的はシベナガムラサキ。
ニンジンと合わせて調合することで暗視の霊薬になる材料だ。
この先も盗人働きを続けるなら有った方が良い薬のはず。
このシベナガムラサキはコロールの周辺にやたらと生えているので、かなりの数が集められるだろう。
「おや?光里さんじゃないか。どうしたんだい?こんな所で」
不意に声を掛けられ顔を上げるとジェメイン兄弟の片割れがいた。
えっと、戦槌を担いでいるところを見るに兄のギルバートね。
と言うことは薬草摘みで夢中になってウェザーレアまで来てしまったか。
「うん、ちょっと薬草摘みに来たのよ」
隠す必要も無いので、ありのままを答える。
「そう言えばこの前コロールに買い出しに出た時に聞いたんだ。盗まれてた宝剣が戻って来たって。ひょっとしてそれって…この前探してたヤツかい?」
「そうね。そんなこともあったわね」
「盗まれた剣を探して家に来たってことは…俺達の家族に何か関係あったりするのかな?」
噂とは言えある程度の話は耳にしてるみたいね。
わたしはどうしようかと思ったけど、事の顛末を伝えることにした。
彼らの父親が盗賊だったこと、そしてコロールの宝剣を盗み出して隠した事。
まぁ全部を包み隠さずとはいかないけど、必要な部分は教えた。
「…そうか。父さんが…」
流石にショックだったろうな。
「でも君が父さんの汚名を雪いでくれたんだね。ありがとう」
そう言うとわたしはウェザーレアの山小屋に招かれた。
「これは父さんが残してくれた遺産の一部だけどね。君に渡しておくよ。せめてものお礼だ」
そう言って大き目の魂石を四粒差し出す。
「別に気にしなくても良いのよ?わたしも剣を見付けたことで相応の褒賞も貰ってるし」
一度は断ったけど、是非にと言うので受け取ることにした。
「君には本当にお世話になりっぱなしだね。大したおもてなしも出来ないかもしれないけど、何時でも遊びに来てくれよ。その時は歓迎するから」
わたしは双子兄弟に別れを告げると薬草摘みに戻った。
数時間後。そろそろ日も傾いてきたし帰ろうかなと思ったところで、あるモノが目に入った。
それは…酒盛りの現場だった。
場所はコロールから相当南に離れ、山林が途切れて平野になっている辺りだ。
人里離れるにも程がある。こんな辺鄙な所で何をしているのか…キャンプでもしてるんだろうか?
そう思ってしげしげ見ていると、向こうもわたしに気付いたようだ。
「お?あんたもやってくかい?」
陽気なボズマーのおじさんが声をかけてくる。
「良いの?」
「もちろんだとも!酒は大勢で飲んだ方が美味い!」
それじゃお言葉に甘えて、とわたしもお呼ばれすることにした。
飲むことしばし。随分とごちそうになっちゃったわね。
このままただお呼ばれしただけじゃ申し訳ない。
わたしも普段から持ち歩いているシロディールブランデーを提供する。
「お!何だよ姉ちゃん。用意が良いじゃないの!」
おじさんは更に上機嫌になる。
そしてその時…聞いてはいけない声を聴いてしまった。
(ふはは!随分と盛り上がってるな!良いぞ!)
耳にでは無い…直接意識に伝わるこの声は…でも酔ったわたしは気付かない。
(丁度良いところに来たな。祭りはこうでなくちゃいけねぇ。お前さんもそう思うだろう?)
「禿同!(=激しく同意)」
ボズマーのおじさんの禿げ頭をぺちぺち撫でながら返事をする。
酔ったわたしは声ならぬ声に何の疑いも抱かずに答えてしまっていた。
(そうだよな!ところでお前さんに盛り上げてもらいたい祭りがあるんだが、頼めるかい?)
「まっかせて~」
上機嫌で安請け合い。これが傍目には喜劇、わたしにとっては悲劇の始まりだった。
その声ならぬ声はレヤウィンのお城で毎晩開かれる晩餐会のことを教えてくれた。
何でも格式ばかりにこだわって、ちっとも盛り上がらないのだと言う。
(そこでコイツの出番だ。それをぶっ放せば楽しい祭りになるぞ)
声ならぬ声はわたしの左手の甲に刻印を穿つ。
(終わったらここに戻ってきなよ。ちゃんと盛り上がったらお礼をするぞ)
そして翌日。頃合いは昼過ぎ。
「あ゛ー…昨夜は飲み過ぎたわ」
わたしは酔い覚ましの霊薬を一息に煽る。
どうやって戻って来たのか知らないけど、レヤウィンの安宿。
あれ?わたし昨日はコロールの山に居たはずなんだけど…?
記憶を辿るけど、山で酒盛りしている連中と一緒になってお酒飲んだところまでしか思い出せない。
一体ここまでどうやって来たんだろう?
酔っ払いと言うのは時々信じられないことを平然とやってのける。
まぁ別にそこに痺れたり憧れたりはしないけど。
にしても何でレヤウィン?
そう言えば昨夜何か頼まれたような?
晩餐会を盛り上げるための隠し芸魔法をぶっ放せ、だったかしら?
左手の甲に焼き付けられた刻印を見るに…一体何の魔法かしら?術の構成から見て…どうも人に向けて撃つ必要がありそうね。
結果どうなるのか、までは分からないけど盛り上がるってくらいだから何かに変身したりするのかもしれない。
ともかく晩餐会だ。恥ずかしい話だけどわたしみたいな身なりじゃ会場に入ることもままならない。
ベストグッズ商店で良さそうな服を見繕ってこないといけないわね。
普段なら着ないような余所行きのドレスとちょっとしたアクセサリー。
痛い出費だけど…たまには良いよね、お洒落したって。
と言うわけで夜。
「晩餐会はこちらでしょうか?」
レヤウィン城の大食堂の前に陣取ってる衛兵に声を掛ける。
「どちら様でしょうか?招待客のリストには載っていらっしゃらないようですが」
「確かに招待客ではありませんが、急ぎ伯爵夫人の御耳に入れたいことがありまして」
適当に理由をでっち上げる。
「ふぅむ。通して良いか迷うところですが、身なりに問題も無さそうですし…宜しいでしょう。お通り下さい」
場合によっては袖の下が必要かと思ったけど、意外とすんなり通してくれたわね。
しかし晩餐会ってどう言うものなのかしら?
会場に入ると…まぁ普通の宴席だった。
確かに参加者の話し方が上品なせいか、酒場の様な喧噪も無く静かなものに感じるのは否めない。
これを盛り上げろと言うのか。
わたしはそっと左手を…伯爵夫人に向けた。別に誰でも良いんだけど、何となく。
そして次の瞬間!
「何だ!?」
「きゃぁ!」
「どうなってるんだ!何が起こってるんだ!?」
巻き起こる騒ぎ…無理も無い。だって皆いきなり裸になってるんだもの。
って言うか何かわたしも肌寒い、そう思って視線を落とすと!
ぎゃぁぁあぁぁ!わたしまで裸になってるじゃない!
そして折悪く騒ぎを聞きつけた衛兵が飛び込んでくる。
「スタァァプ!!貴様か!?やはり通すべきではなかったようだな!」
わたしは…これって何の罪になるんだろう?良く分からないけど衛兵に追いかけられる羽目に…!
でもどうする!?こんな恰好じゃ外に出れないし。
わたしは必至で逃げ回りながら城内で服を奪い取る!
「スタァァップ!卑しい盗人め!私の目の前で盗みを働くとは舐められたものだな!」
こっちだって好きでやってるんじゃないのよ!
更なる罪状を重ねつつわたしは城の外、そして街の外まで逃げおおせる。
…許すまじ昨日の誰か!
わたしは鬼のような形相で昨夜酒盛りをしていた辺りに向かう。
到着した頃にはもう日も上りきっていた。
(見事だったぞ!小さき者よ。祭りにも参加したみたいだな!良いぞ、その意気込みだ!お前さんも少し肩の力を抜いた方が良さそうだったしな)
そこはあろうことか、サングインの…乱痴気騒ぎのデイドラ王の祠だった。

(こいつは約束のご褒美だ。あとそっちの箱にはお前さんの持ち物が入ってるから、忘れるなよ)
そう言うとバラの様な杖が目の前の地面からにょきっと生えてくる。
わたしはそれを腹いせに引っこ抜くと持ち物を返してもらい、足早に祠から去った。
まったくまさか酔った拍子にデイドラ王と契約してるなんて…何と言う巡り合わせの悪さなのかしら。