盗賊ギルド壊滅の好機を逸したわたしは溜息と共にブラヴィルへ赴く。
「お、来たね」
わたしを出迎えたのはスクリーヴァと名乗るカジートの女性。
「早速で悪いけどやってほしい事があるんだ」
到着早々お仕事の話か。
何でもレヤウィンに住んでいる先代の故買商の奥さんが大事にしていた指輪を盗まれたので、取り返してほしいそうな。
先代とは言え故買商の奥さんから盗むってことは…盗賊ギルドに入ってない泥棒か。

「下劣なアルゴニアンに指輪を盗まれたんだ!」
先代故買商の奥さんことアーダルジは怒髪天を衝くと言わんばかりの怒りようだった。
盗まれたこともさることながら、その盗人がアルゴニアンだったことが更に怒りを駆り立てているらしい。
「あの糞トカゲ野郎を見付けだして、指輪を取り戻してほしい。ついでに痛い目にあわせるんだよ!?殺してくれりゃなお良いね!」
「いや流石に流血沙汰はまずいんですけど」
一応盗賊ギルドにもルールってものがある。その一つが盗みに関して人に害してはいけない、という項があるのだ。
「はん!馬鹿馬鹿しい!相手はアルゴニアンだよ?つまり人間以下さ。カジートなんかとは比べ物にもならないね!」
どれだけアルゴニアンが嫌いなんだろう…。

ともかく話は分かったので盗人アルゴニアンの足取りを追うとしますか。
わたしもレヤウィンには色々と顔が利くけど、それは真っ当な商人がほとんど。
犯罪に関することとなると…やはり物乞いか。
「盗人アルゴニアン?あぁアミューゼイのことかな?あいつならこの前捕まったよ。伯爵夫人から指輪を盗もうとしたらしい」
今は投獄されて地下牢にいるんじゃないかと言う。
それにしても…アミューゼイ、ねぇ?どこかで聞いたような聞かなかったような?
ともかく地下牢だ。
そのアミューゼイに話を聞かないことには何が何だか分からない。

わたしは面会すべく城まで出向いたものの…
「アミューゼイに面会?駄目駄目!アレッシア夫人の命令で面会謝絶なんだ」
どうやら伯爵夫人も大のアルゴニアン嫌いで、普通の囚人より扱いを悪くしているらしい。
アルゴニアンって何でこんなに嫌われるのかしらね?
それはともかく、ここで引き下がったら何も分からない。
「そう言わずに…ちょっと会うだけだから」
と言って看守に金貨を握らせる。
するとにやりと笑い…
「手短に頼むよ?」
と言って通してくれた。

「おや盗賊ギルド期待の新人さんのお出ましかい?」
投獄されていたアルゴニアンは…かつて盗賊ギルドの入会試験を一緒に受けたあの時のアルゴニアンだった。
「こんなところで何してんのよ?」
「レヤウィンは俺の故郷でね。盗賊ギルドに入り損ねたから一旦帰って来たのさ」
挨拶も程々に指輪の事を聞いてみる。
「何でそんなこと教えてやらにゃならんのかね?」
まったくこの手の連中と来たらすんなりと事が運んだ試しが無い。
何か取引に使えそうなものはあるかしら?この状態じゃお金を掴ませても意味無いし…。
わたしはピッキングロッドを一本ちらつかせる。
「これでどう?」
「悪くないな」
商談成立。

「あの指輪だがな、故買商に売りに行ったら買い取れないと言うんだ。理由を聞いたら指輪の裏に掘られた刻印を見せてくれたよ」
指輪の裏には”アレッシアへ”と掘り込まれていて、どうもアーダルジが盗まれたと言っていた指輪の本来の持ち主は伯爵夫人の物だったと言うのだ。
それで本当の持ち主、つまり伯爵夫人のところに持ち込んでお金をせびろうとしたら盗人として捕えられ今に至る、と。
「つまり指輪は元の持ち主に戻ったってわけだ。あとは上手いことやりなよ」

面倒なことになって来たわねぇ。
一度盗まれた指輪ってことで多分相当伯爵夫人も警戒してるだろうところから、また盗み出さないといけないのか。
わたしは一旦城を出て街に戻る。
とにかく伯爵夫人の事をもっと知らないといけない。
指に嵌めた指輪を抜き取るのはまず無理。となれば指輪を外す時を狙うしかない。
「それなら付き人をあたると良いんじゃないかな?ヒリダラなら伯爵夫人のスケジュールや行動を把握してると思うよ」
物乞いに相談するとそんなアドバイスを貰えた。勿論有料だけど。
「指輪を盗もうってのかい?ならおまけだ」
そう言ってもう一つ教えてくれる。
レヤウィンの城内には秘密の通路と部屋があるんだそうな。
一体何に使っているのかと言うと…アルゴニアン専用の拷問部屋だと言う。
…どれだけアルゴニアン嫌いなんだろう?
それはともかく「秘密」の通路と部屋だ。侵入にはうってつけの通り道になるだろうと言っていた。

わたしは城に取って返すとヒリダラに話を聞く。
「伯爵夫人の指輪、見付かったそうですね」
「えぇ、えぇ。本当に良かったですわ。伯爵夫人も大層お喜びで肌身離さず身に着けてますよ。とは言っても入浴中やお休みの時は外しますけどね」
まぁそりゃそうよね。となると狙うのは当然深夜、眠った後か。
あとついでに聞いてみる。
「そう言えばこのお城って秘密のお部屋があるとかないとか?」
わたしの言葉に一瞬顔を引き攣らせたが、どうもこの付き人さんはお喋りが大好きらしい。
「お静かに願いますよ?確かにあるんです。夜ごとどこからともなく叫び声が聞こえる時があるんです」
詳しい場所までは分からないけど、どうも倉庫の方から叫び声が聞こえてくると言う。
しっかし夜ごとって…毎日拷問してるのかしら?どれだけサディスティックなご婦人なのやら。

あまり詳しいことは分からなかったけど、方針は決まった。
わたしは一旦宿に引き上げ夜を待つ。
シロディールでは基本的にお城の謁見の間までは昼夜を問わず解放されている。
単にお城に入るだけなら簡単なことだ。
さて、と。秘密の通路と部屋は倉庫の方っぽいらしいわね。
人気の無くなった謁見の間から奥に続く扉を潜る。一見しただけではただの倉庫にしかみえない。
どこかに仕掛けでもあると良いんだけど。
付き人さんの話が勘違いだったりすると、正面から強硬侵入と言う無茶をしないといけなくなる。
壁をぺたぺた触ってみてもおかしなものは見当たらない。
定番としては燭台を捻ったりするものだけど…お?あの樽の中にヘンな棒が刺さってる?
樽を覗き込むと鉄の棒が床に刺さり、左右に動かせるようになっている。これかしら?
わたしは試しに棒を動かしてみると…壁の一部がぱかっと開いた。
本当にあったわね。良かった。

わたしは真っ暗な隠し通路を進む。
しかし参ったわね。隠し通路だけあって普段はだれも居ないので、明かりすら灯っていない。
忍び込んだ身としては明かりの術を使うわけにもいかないし…暗視の霊薬でも作っておけば良かったわね。
今回はまあ仕方ないと諦めて暗がりを手探りで進む。
途中通りかかった部屋には血塗れになった台が一つ。これが噂の拷問台か。となると伯爵夫人の寝所は近いのかしらね。
一層警戒しつつ手探りで更に奥へ。
壁のレバーを操作すると壁が割れて、そこから先は城内だった。

巡回の衛兵の動きに注意しつつ寝所へ忍び込む。
時間も時間だし当然眠っている。
潜入レヤウィン城 
今なら指輪をどこかに仕舞っているはずだ。
机や箪笥を漁ってみるが見付からない。
どこだろう?
わたしはベッドサイドに宝石箱があるのを見付けた。あれかな。
厳重な鍵がかけられているけど、こっちには不壊のピックがある。
かくしてわたしは見事伯爵夫人の指輪を手に入れることができた。
…見事と言っても人に褒められるような話じゃなかったわね。

それはともかく翌日。
「私の指輪!我らが母の大いなる爪が守ってくれたんだ!本当に取り戻してくれたんだね。で、あのアルゴニアンは死んだのかい?長いこと苦しんでいると良いんだけど」
そう言うと彼女は報酬だと言って直接金貨を渡してくれた。
「盗賊ギルドはメンバーの女房にも良くしてくれる。そう言う昔のことを今も大事にしてくれるのはありがたいことだね」
そう言うとにかっと笑ってわたしを送り出した。

これで依頼は完了。その旨をスクリーヴァに報告する。
「やってくれたようだね。この働きはグレイフォックスの耳にも入れておくよ」
こうして少しずつギルド内での地位を高めて行く。
ある程度の地位になればもうストーキングがどうのこうのと脅されることも無くなるはず…。
あんまり盗みとかしたくないけど、そこまでの辛抱ね。