あれから散々迷ったけど、やっぱり脅されながら生きていくのは御免こうむりたい。
わたしは意を決すると深夜の帝都に漂う闇と同化する。
こう言うのは慣れている。
神社の境内でご神木に藁人形を打ち付けたりする時と同じ様にすれば良い。
そして忍び込むのは…またしても宝石店。
何度も迷惑かけるのは忍びないけど、一番盗品の単価が大きいので、盗みに入る回数を出来るだけ減らしたいわたしにとってはやむを得ない選択になる。
そして数日後。
アーマンドからの呼び出しがかかる。
「今回盗み出して欲しいのは他でもない。今は亡きシェイディンハルの伯爵夫人を象った胸像だ」
わたしは無言で頷く。
早朝に帝都を発ち、昼頃にシェイディンハルに入る。
盗賊ギルドの一員にとって重要な情報源は物乞いだ。
「伯爵夫人の胸像を探してるんだけど?」
わたしが小銭を握らせると、「あぁあれか」と教えてくれる。
既に故人となっている伯爵夫人の副葬品として聖堂の地下に安置されているそうだ。
「でも気を付けて。墓守がいるって話も聞くからね」
「そうなんだ。ありがとう」
わたしは早速聖堂の様子を見に行こうと思ったんだけど…。
「仕事の邪魔をするようで済まないんだけど、こっちからも頼みたいことがあるんだ」
物乞いに呼び止められた。
何事かと話を聞くと、どうもこのシェイディンハルと言うのは衛兵がかなり幅を利かせているらしく、何かにつけて因縁をふっかけてくるらしい。
そしてその度に罰金やら科料やらと言ってお金をむしり取っていくと言う。
「ウチらみたいなのはその恰好の餌食でね。もうほとほと困り果ててるんだ」
やれ体が匂うやら見た目がみすぼらしいやらと言って罰金を取ろうとするらしい。確かにそれは言いがかりにも程があるわね。
そんな被害は物乞いに留まらず、一般市民にもかなりの影響を与えていると言う。
「この件についてはレヴァーナって言うダンマーの女がかなりご立腹でね。彼女に話を聞けば何か良い案があるかもしれないよ」
ふぅむ。
あまり衛兵が権力を振りかざしているのは今のわたしにとってもちょっと都合が悪い。
夜中歩いてるだけであれこれ詮索されたり、訳の分からない罰金を要求されても困る。
まだ昼だし、実際に聖堂に何かを仕掛けるのは夜になるだろうから、少しそっちも様子を見た方が良さそうね。
「あいつはこの街の住人が全員破産するか、牢に入らないと気が済まないのよ!」
これが開口一番レヴァーナの台詞。
「あれほどの大金を巻き上げて一体どうしようってんだい。大方自分の懐を暖めてるだけなんだろうけど」
随分と荒れているのには理由があるようで、どうも彼女の友人アルドスが何度と無くその罰金の犠牲になったらしい。
罪状は酔って騒いでいただけ、と言うことだけど…。
「兵舎では自分達だって散々飲んじゃ騒いでいるくせに、だよ!?まったく馬鹿げてる!しかもアルドスは罰金が払いきれなくなったせいで家まで差し押さえられて…今じゃ路上生活だ!あの糞野郎どもめ!」
ダンマーの女性は興奮してきたのか、言葉遣いがどんどんと悪くなる…仮にも女性なんだし、もう少し抑えた方が、と思うけど…。
「でもそんなにやり放題では伯爵も良い顔しないんじゃない?」
「伯爵?あいつは駄目ね。街のことなんてこれっぽっちも考えちゃいないよ。食卓に豚の丸焼きが出れば満足するような奴だからね!」
伯爵すら彼女にかかればこの有様…でもこれはちょっと深刻そうね。迂闊な事をするとわたしもただでは済まないだろうな。
「それは困った話ね…何とかならないのかしら?」
「そうね。衛兵副隊長のギャラスなら…彼はウルリッチのことを良く思ってないようだけど…でも難しいだろうね。腐ってもウルリッチは隊長だし」
つまり衛兵の中にもまだまともなのがいる、と。
わたしはあまりお近付きにはなりたくないんだけど、その副隊長さんとやらを訪ねてみることにした。
「ふむ。君の言っていることは残念ながら事実だ。隊長が何か企んでいるのは間違いないだろう。あの法外な罰金で恐らく隊長は私財を肥やしているのだろうな」
何でも隊長室にはかなりの高級品がずらりと並んでいるんだとか。
「証人としてアルドスを立てたいんだが、四六時中酔っていてまともに話もできんのが悩みどころでな。それにどうも隊長の方もアルドスには散々たかったからか、おかしなことをしないか警戒しているようで、中々近付けないんだ」
そこまで話すと何か思いついたらしい。
「そうだ、君。アルドスに証人になってくれるよう話をしてみてくれないか?この街で顔を知られてない君ならアルドスにも近付けるだろう」
わたしはその話に乗ることにした。
これで衛兵が大人しくなってくれればわたしも”仕事”がし易くなる。
「あのクソッタレ!俺を自分の家から追い出すってか!?オスラン家の俺にちょっかいを出すとどうなるのか見せてやるぜ!!」
酔って気が大きくなっているのか、彼は隊長の名前を出した途端に騒ぎ出した。
「確かに酔ってただろうさ!だがな!それで転んだだけで六回も罰金だと!?ふざけるな!…思い出したら腹が立ってきた。お前さん付いて来な。オスラン家の本気を見せてやるぜ!!!!」
突然激昂した彼はそう言い放つと千鳥足で走り出した…。一体何をする気なのかしら?
「ここは俺の家だ!どけ!」
衛兵が立つ一軒の家の前まで来ると彼はそう言い放った。
「残念だがここはシェイディンハル伯によって押収された物件だ。すぐに立ち去りなさい」
衛兵は始めこそ落ち着いて対応していたのだけど…。
「うるせぇ!どけってんだ。さもなきゃぶん殴るぞ!?」
「これは警告だ。衛兵への恐喝は罰金の対象になるぞ」
「くそが!また罰金か!罰金なら後でウルリッチの尻の穴にブチ込んでやらぁ!」
「警告はしたはずだぞ?お前を逮捕する。さぁついて来い」
「誰が付いて行くか!このクソッタレが!」
アルドスは啖呵を切るとナイフを抜く。当然それに応じて衛兵も剣を抜き…無残な結果となってしまった。
その騒ぎはあっと言う間に街中に広り…。
「あぁ何てことなの…衛兵に殺されるなんて…野盗に奥さんを殺され不幸の底に居た彼にこんな仕打ちをするなんて…もう仇を討つしかないわ!ウルリッチを始末する…こう言う時は言葉よりも行動がものを言うのよ…アンタの力も貸しとくれ」
彼女はそう言うと突発的に思いついた策を発案した。
ウルリッチにレヴァーナがこの件について告発できるだけの証拠を集めたと吹き込み、おびき出したところを殺る、と言うのだけど…そう上手く行くのかしら?
わたしは不安になったのでこのことをギャラスにもひっそりと伝えておくことにした。
「確かにこのまま手をこまねいている訳にも行かないな。だが血を流すのは避けたい。レヴァーナは短気だからな…彼女の案はやめておいたほうが良い。下手を打てば君諸共投獄されるだろう。やはりまずは証拠を押さえるところから始めねばなるまい。私がかねてから計画していた事があるのだが、それを君の力を借りて実行したいと思う。奴の部屋には必ず何らかの記録や、それに類する証拠が残ってるはずだ。それを忍び込んで見付けてきて欲しいんだ。もし衛兵に見付かったら私でも庇い切れない。慎重に頼むぞ」
…何というか随分と無茶なことを言ってのける…しかし衛兵が盗賊行為を要求するとはねぇ…。まぁわたしの素性なんて知らないんだろうけど。
しかし何でこう最近は盗みの話が着いて回るのかしらね。一度外道に落ちたら後は奈落まで堕ちるしかないって言うのかしら?
わたしはギャラスからウルリッチの部屋の鍵を受け取ると白昼堂々と兵舎に入った。
夜は夜でやることもあるし、衛兵の詰所なんて結局何時行っても誰かしら居るものだ。
聞いた話では入ってすぐのところに隊長室があるみたいだけど…。
詰所は今のところ無人らしい。多分仮眠室とかで寝てるのも居るんだろうけど、そう言うのは気にしてはいけない。
かくしてすんなりと隊長室に忍び込み…証拠になりそうなものを漁る。
すると一枚のメモ、と言うか手紙が…どうもこのウルリッチ、女性に貢いでるのか…しかもその為にまた罰金を値上げするつもりらしい。まったく救いようの無い…。
ともあれこれなら証拠には充分ね。
「無事戻ってきたか…証拠になりそうなものは見つかったか?」
「これを…」
わたしはあの手紙をギャラスに手渡した。
ギャラスは手紙の内容に目を通すと…
「良くやってくれた!これなら証拠として充分だ。素晴らしい!実に素晴らしい腕前だ!」
…わたしの盗みの腕を絶賛する衛兵副隊長。衛兵の副隊長が盗みを絶賛するのも如何なものかと思う今日この頃。
何とも複雑な気分なわたしをさして気にもせず彼は続ける。
「急ぎこの件を伯爵に報告しよう。君はそうだな…二時間後に宿の食堂で待っていてくれないか?その頃には決着が付くだろう」
そう言うと彼は伯爵の元に走っていった。
そして宿の食堂で軽くお茶を楽しみながら待つこと二時間。
「伯爵からの伝言を伝えに来たよ」
ギャラスが約束の時間きっかりに現れた。
「君の持ってきた証拠を元に伯爵と話したところ、ウルリッチは役職を剥奪、逮捕された。今では大勢の衛兵達も奴の悪事を示す証拠を続々と提出してきているから、当分牢から出て来れはしないだろうな。奴の降板を受けて私が衛兵長になったよ。これからはもっと街を良くしていかなくてはな」
「そうね。お願いしますよ?隊長」
わたしも冗談めかして応じる。
「伯爵も君の尽力には感謝していた。君のお陰で無駄な血を流すことなく奴の暴挙を止めることができたからな。シェイディンハル住民を代表して君に感謝するよ」
そう言うと報奨金と言ってかなりの額を渡してくれた。
これにもあの罰金が少なからず含まれているのかしら?
そう思うと少し複雑な気分になった。
取り敢えずこれで衛兵の問題は収まったわね。後は…夜を待つばかり、か。
わたしは意を決すると深夜の帝都に漂う闇と同化する。
こう言うのは慣れている。
神社の境内でご神木に藁人形を打ち付けたりする時と同じ様にすれば良い。
そして忍び込むのは…またしても宝石店。
何度も迷惑かけるのは忍びないけど、一番盗品の単価が大きいので、盗みに入る回数を出来るだけ減らしたいわたしにとってはやむを得ない選択になる。
そして数日後。
アーマンドからの呼び出しがかかる。
「今回盗み出して欲しいのは他でもない。今は亡きシェイディンハルの伯爵夫人を象った胸像だ」
わたしは無言で頷く。
早朝に帝都を発ち、昼頃にシェイディンハルに入る。
盗賊ギルドの一員にとって重要な情報源は物乞いだ。
「伯爵夫人の胸像を探してるんだけど?」
わたしが小銭を握らせると、「あぁあれか」と教えてくれる。
既に故人となっている伯爵夫人の副葬品として聖堂の地下に安置されているそうだ。
「でも気を付けて。墓守がいるって話も聞くからね」
「そうなんだ。ありがとう」
わたしは早速聖堂の様子を見に行こうと思ったんだけど…。
「仕事の邪魔をするようで済まないんだけど、こっちからも頼みたいことがあるんだ」
物乞いに呼び止められた。
何事かと話を聞くと、どうもこのシェイディンハルと言うのは衛兵がかなり幅を利かせているらしく、何かにつけて因縁をふっかけてくるらしい。
そしてその度に罰金やら科料やらと言ってお金をむしり取っていくと言う。
「ウチらみたいなのはその恰好の餌食でね。もうほとほと困り果ててるんだ」
やれ体が匂うやら見た目がみすぼらしいやらと言って罰金を取ろうとするらしい。確かにそれは言いがかりにも程があるわね。
そんな被害は物乞いに留まらず、一般市民にもかなりの影響を与えていると言う。
「この件についてはレヴァーナって言うダンマーの女がかなりご立腹でね。彼女に話を聞けば何か良い案があるかもしれないよ」
ふぅむ。
あまり衛兵が権力を振りかざしているのは今のわたしにとってもちょっと都合が悪い。
夜中歩いてるだけであれこれ詮索されたり、訳の分からない罰金を要求されても困る。
まだ昼だし、実際に聖堂に何かを仕掛けるのは夜になるだろうから、少しそっちも様子を見た方が良さそうね。
「あいつはこの街の住人が全員破産するか、牢に入らないと気が済まないのよ!」
これが開口一番レヴァーナの台詞。
「あれほどの大金を巻き上げて一体どうしようってんだい。大方自分の懐を暖めてるだけなんだろうけど」
随分と荒れているのには理由があるようで、どうも彼女の友人アルドスが何度と無くその罰金の犠牲になったらしい。
罪状は酔って騒いでいただけ、と言うことだけど…。
「兵舎では自分達だって散々飲んじゃ騒いでいるくせに、だよ!?まったく馬鹿げてる!しかもアルドスは罰金が払いきれなくなったせいで家まで差し押さえられて…今じゃ路上生活だ!あの糞野郎どもめ!」
ダンマーの女性は興奮してきたのか、言葉遣いがどんどんと悪くなる…仮にも女性なんだし、もう少し抑えた方が、と思うけど…。
「でもそんなにやり放題では伯爵も良い顔しないんじゃない?」
「伯爵?あいつは駄目ね。街のことなんてこれっぽっちも考えちゃいないよ。食卓に豚の丸焼きが出れば満足するような奴だからね!」
伯爵すら彼女にかかればこの有様…でもこれはちょっと深刻そうね。迂闊な事をするとわたしもただでは済まないだろうな。
「それは困った話ね…何とかならないのかしら?」
「そうね。衛兵副隊長のギャラスなら…彼はウルリッチのことを良く思ってないようだけど…でも難しいだろうね。腐ってもウルリッチは隊長だし」
つまり衛兵の中にもまだまともなのがいる、と。
わたしはあまりお近付きにはなりたくないんだけど、その副隊長さんとやらを訪ねてみることにした。
「ふむ。君の言っていることは残念ながら事実だ。隊長が何か企んでいるのは間違いないだろう。あの法外な罰金で恐らく隊長は私財を肥やしているのだろうな」
何でも隊長室にはかなりの高級品がずらりと並んでいるんだとか。
「証人としてアルドスを立てたいんだが、四六時中酔っていてまともに話もできんのが悩みどころでな。それにどうも隊長の方もアルドスには散々たかったからか、おかしなことをしないか警戒しているようで、中々近付けないんだ」
そこまで話すと何か思いついたらしい。
「そうだ、君。アルドスに証人になってくれるよう話をしてみてくれないか?この街で顔を知られてない君ならアルドスにも近付けるだろう」
わたしはその話に乗ることにした。
これで衛兵が大人しくなってくれればわたしも”仕事”がし易くなる。
「あのクソッタレ!俺を自分の家から追い出すってか!?オスラン家の俺にちょっかいを出すとどうなるのか見せてやるぜ!!」
酔って気が大きくなっているのか、彼は隊長の名前を出した途端に騒ぎ出した。
「確かに酔ってただろうさ!だがな!それで転んだだけで六回も罰金だと!?ふざけるな!…思い出したら腹が立ってきた。お前さん付いて来な。オスラン家の本気を見せてやるぜ!!!!」
突然激昂した彼はそう言い放つと千鳥足で走り出した…。一体何をする気なのかしら?
「ここは俺の家だ!どけ!」
衛兵が立つ一軒の家の前まで来ると彼はそう言い放った。
「残念だがここはシェイディンハル伯によって押収された物件だ。すぐに立ち去りなさい」
衛兵は始めこそ落ち着いて対応していたのだけど…。
「うるせぇ!どけってんだ。さもなきゃぶん殴るぞ!?」
「これは警告だ。衛兵への恐喝は罰金の対象になるぞ」
「くそが!また罰金か!罰金なら後でウルリッチの尻の穴にブチ込んでやらぁ!」
「警告はしたはずだぞ?お前を逮捕する。さぁついて来い」
「誰が付いて行くか!このクソッタレが!」
アルドスは啖呵を切るとナイフを抜く。当然それに応じて衛兵も剣を抜き…無残な結果となってしまった。

その騒ぎはあっと言う間に街中に広り…。
「あぁ何てことなの…衛兵に殺されるなんて…野盗に奥さんを殺され不幸の底に居た彼にこんな仕打ちをするなんて…もう仇を討つしかないわ!ウルリッチを始末する…こう言う時は言葉よりも行動がものを言うのよ…アンタの力も貸しとくれ」
彼女はそう言うと突発的に思いついた策を発案した。
ウルリッチにレヴァーナがこの件について告発できるだけの証拠を集めたと吹き込み、おびき出したところを殺る、と言うのだけど…そう上手く行くのかしら?
わたしは不安になったのでこのことをギャラスにもひっそりと伝えておくことにした。
「確かにこのまま手をこまねいている訳にも行かないな。だが血を流すのは避けたい。レヴァーナは短気だからな…彼女の案はやめておいたほうが良い。下手を打てば君諸共投獄されるだろう。やはりまずは証拠を押さえるところから始めねばなるまい。私がかねてから計画していた事があるのだが、それを君の力を借りて実行したいと思う。奴の部屋には必ず何らかの記録や、それに類する証拠が残ってるはずだ。それを忍び込んで見付けてきて欲しいんだ。もし衛兵に見付かったら私でも庇い切れない。慎重に頼むぞ」
…何というか随分と無茶なことを言ってのける…しかし衛兵が盗賊行為を要求するとはねぇ…。まぁわたしの素性なんて知らないんだろうけど。
しかし何でこう最近は盗みの話が着いて回るのかしらね。一度外道に落ちたら後は奈落まで堕ちるしかないって言うのかしら?
わたしはギャラスからウルリッチの部屋の鍵を受け取ると白昼堂々と兵舎に入った。
夜は夜でやることもあるし、衛兵の詰所なんて結局何時行っても誰かしら居るものだ。
聞いた話では入ってすぐのところに隊長室があるみたいだけど…。
詰所は今のところ無人らしい。多分仮眠室とかで寝てるのも居るんだろうけど、そう言うのは気にしてはいけない。
かくしてすんなりと隊長室に忍び込み…証拠になりそうなものを漁る。
すると一枚のメモ、と言うか手紙が…どうもこのウルリッチ、女性に貢いでるのか…しかもその為にまた罰金を値上げするつもりらしい。まったく救いようの無い…。
ともあれこれなら証拠には充分ね。
「無事戻ってきたか…証拠になりそうなものは見つかったか?」
「これを…」
わたしはあの手紙をギャラスに手渡した。
ギャラスは手紙の内容に目を通すと…
「良くやってくれた!これなら証拠として充分だ。素晴らしい!実に素晴らしい腕前だ!」
…わたしの盗みの腕を絶賛する衛兵副隊長。衛兵の副隊長が盗みを絶賛するのも如何なものかと思う今日この頃。
何とも複雑な気分なわたしをさして気にもせず彼は続ける。
「急ぎこの件を伯爵に報告しよう。君はそうだな…二時間後に宿の食堂で待っていてくれないか?その頃には決着が付くだろう」
そう言うと彼は伯爵の元に走っていった。
そして宿の食堂で軽くお茶を楽しみながら待つこと二時間。
「伯爵からの伝言を伝えに来たよ」
ギャラスが約束の時間きっかりに現れた。
「君の持ってきた証拠を元に伯爵と話したところ、ウルリッチは役職を剥奪、逮捕された。今では大勢の衛兵達も奴の悪事を示す証拠を続々と提出してきているから、当分牢から出て来れはしないだろうな。奴の降板を受けて私が衛兵長になったよ。これからはもっと街を良くしていかなくてはな」
「そうね。お願いしますよ?隊長」
わたしも冗談めかして応じる。
「伯爵も君の尽力には感謝していた。君のお陰で無駄な血を流すことなく奴の暴挙を止めることができたからな。シェイディンハル住民を代表して君に感謝するよ」
そう言うと報奨金と言ってかなりの額を渡してくれた。
これにもあの罰金が少なからず含まれているのかしら?
そう思うと少し複雑な気分になった。
取り敢えずこれで衛兵の問題は収まったわね。後は…夜を待つばかり、か。