コロールを発ち帝都へ。
何時もの様に商売を済ませ、宿の一室で夜が更けるのを待つ。
手元にはノクターナルから貰った不壊のピック。
そしてわたしには呪術師として培ったこそこそ能力、つまりは人目を忍ぶ技術がある。
何と言うかもう盗賊に落ちぶれろと言わんばかりのお膳立てが揃っている。
あんまりこう言う事はしたくないんだけど、やっぱりストーキングされるのは嫌だ。
時刻は日付が変わって、午前1時。
帝都の商業区でもわたしが出入りしたことの無い宝石店に狙いを定める。
巡回の衛兵も視界には入っていない。やるなら今!
わたしは決して折れることの無いピッキングロッドで鍵をこじ開けるとするりと店内に忍び込む。
店内はもちろん誰も居ない。
でも音を建てれば居住スペースになっているだろう二階から店主が降りてくるのは間違いない。
こっそりと陳列棚に近付くと、その鍵もこじ開ける。
しかし便利なピッキングロッドねぇ。
中身を根こそぎ頂戴するとわたしは店を出て、そのまま宿に戻った。
翌日早めに出立し、目指すはブルーマ。
ここに盗賊ギルドの故買商がいる。
「お、随分持ってきたじゃねぇか」
盗品を換金してわたしはほっと息を吐いた。
まだどきどきしている。
とにかくこれで当分はストーキングは免れるはずだ。
あとはまた何時もの通り過ごせば良い。何事も無かったかのように、全部胸の内に仕舞って。
でもその考えは甘かった。
翌日、わたしはダレロスの庭に呼び出されることになる。
「お前に盗ってきてもらいたいものがある」
アーマンドがわたしに告げたのは…徴税記録と、徴収された税金を盗み出せ、と言うものだった。
税金と言うことは勿論保管場所は公的な場所、しかも衛兵の巣窟でもある監視塔だ。
正気の沙汰じゃない。頼むにしてももっと腕の良い人に頼むべきことだと思う。
「むしろ”クヴァッチの英雄”様だから頼むのさ」
…つまり衛兵に見付かっても凌ぎきれそうな人物と言いたいのだろうか?
戒律では盗みの過程で人に害することは禁じられている。今回の場合、下手を踏めば大量の衛兵を相手に逃走する必要が出てくる。
「もし断るようなら…ふぅむ、お前さんは確か…ストーキングされるのが好みだったか?」
…くっ。またしてもその手で脅してくるか…。ファシスの使った手が有効と踏んでいるのだろう。
あの時ストーキングに屈したが為にわたしは更に道を踏み外すことになってしまった。
これは本格的にどうにかしないと、何時までも延々脅されることになりかねないわね。
わたしは不承不承今回の件を受ける。
盗賊ギルドのことは追々考えるとして、今は徴税記録だ。
保管されているのは神殿区と庭園区の跨る南の監視塔。レックス隊長の管轄する塔だ。
さて、どう忍び込んだものか。
一階部分は特に制限なく入れるので、試しに様子を伺ってみる。
…うん。衛兵が待機しているわね。少なくともここに居られたら塔を登るどころの話ではない。
一旦塔を出て、外から様子を伺う。
当然と言えば当然だけど街の巡回はシフトが組まれていて順次交代で衛兵達は入れ替わっていく…んだけど、良く見ると前の当番が帰ってくる前に次の当番が出ていくタイミングがある。
狙うとなるとここか。
少なくとも一階には無人になる瞬間がある。
今日は一旦引き上げて翌日、わたしはその瞬間が何時なのかを確認する。
取り敢えず早い段階では午前十時前後にチャンスがありそうね。
更に翌日。決行に踏み切る。
時間は十時ちょっと前。監視塔から衛兵がわらわらと出ていく。
前の巡回当番はまだ戻ってこない。
わたしは何食わぬ顔して監視塔に踏み入る。
そして梯子を伝って二階へ。
深夜勤務だった衛兵が仮眠を取っている…この二階に踏み込んだ時点で既に不法侵入が成立する。物音を立てて一人でも目を覚まそうものなら命を懸けた鬼ごっこの開始だ。
わたしは慎重に塔の最上階、レックスの執務室を目指す。
「これね…」
机の中から金貨の入った袋と記録を抜き取る。
後は誰にも気付かれないよう、抜け出すだけだ。
「記録を見たか?高々これっぽっちの金を集めるために徴収人を使って取り立てたんだ。この額じゃ徴収人の給金にもならないと言うのにな」
深夜、ダレロスの庭でアーマンドは溜息交じりに呟く。
「きちんと仕事をこなしてくれたな。こいつは報酬だ」
と言って金貨の詰まった袋を投げてよこす。そしてわたしのギルド内での地位を一段上げると言ってきた。
とは言ってもその称号は「追剥」。ロクなものじゃない。
でも昇進もちゃんとあるにはあるのね。
…昇進、か。
わたしの中で葛藤が起こる。
このままストーキングやら何やらで脅されて使われ続けるよりも…昇進してそう言った干渉を受けない地位を築くべきなのかしら?
でもそれを成すには更に外道へと落ちぶれることになる…悩みどころね。
わたしは朝焼けに染まる波止場区で悩んでいた。
何時もの様に商売を済ませ、宿の一室で夜が更けるのを待つ。
手元にはノクターナルから貰った不壊のピック。
そしてわたしには呪術師として培ったこそこそ能力、つまりは人目を忍ぶ技術がある。
何と言うかもう盗賊に落ちぶれろと言わんばかりのお膳立てが揃っている。
あんまりこう言う事はしたくないんだけど、やっぱりストーキングされるのは嫌だ。
時刻は日付が変わって、午前1時。
帝都の商業区でもわたしが出入りしたことの無い宝石店に狙いを定める。
巡回の衛兵も視界には入っていない。やるなら今!
わたしは決して折れることの無いピッキングロッドで鍵をこじ開けるとするりと店内に忍び込む。
店内はもちろん誰も居ない。
でも音を建てれば居住スペースになっているだろう二階から店主が降りてくるのは間違いない。
こっそりと陳列棚に近付くと、その鍵もこじ開ける。
しかし便利なピッキングロッドねぇ。
中身を根こそぎ頂戴するとわたしは店を出て、そのまま宿に戻った。
翌日早めに出立し、目指すはブルーマ。
ここに盗賊ギルドの故買商がいる。
「お、随分持ってきたじゃねぇか」
盗品を換金してわたしはほっと息を吐いた。
まだどきどきしている。
とにかくこれで当分はストーキングは免れるはずだ。
あとはまた何時もの通り過ごせば良い。何事も無かったかのように、全部胸の内に仕舞って。
でもその考えは甘かった。
翌日、わたしはダレロスの庭に呼び出されることになる。
「お前に盗ってきてもらいたいものがある」
アーマンドがわたしに告げたのは…徴税記録と、徴収された税金を盗み出せ、と言うものだった。
税金と言うことは勿論保管場所は公的な場所、しかも衛兵の巣窟でもある監視塔だ。
正気の沙汰じゃない。頼むにしてももっと腕の良い人に頼むべきことだと思う。
「むしろ”クヴァッチの英雄”様だから頼むのさ」
…つまり衛兵に見付かっても凌ぎきれそうな人物と言いたいのだろうか?
戒律では盗みの過程で人に害することは禁じられている。今回の場合、下手を踏めば大量の衛兵を相手に逃走する必要が出てくる。
「もし断るようなら…ふぅむ、お前さんは確か…ストーキングされるのが好みだったか?」
…くっ。またしてもその手で脅してくるか…。ファシスの使った手が有効と踏んでいるのだろう。
あの時ストーキングに屈したが為にわたしは更に道を踏み外すことになってしまった。
これは本格的にどうにかしないと、何時までも延々脅されることになりかねないわね。
わたしは不承不承今回の件を受ける。
盗賊ギルドのことは追々考えるとして、今は徴税記録だ。
保管されているのは神殿区と庭園区の跨る南の監視塔。レックス隊長の管轄する塔だ。
さて、どう忍び込んだものか。
一階部分は特に制限なく入れるので、試しに様子を伺ってみる。
…うん。衛兵が待機しているわね。少なくともここに居られたら塔を登るどころの話ではない。
一旦塔を出て、外から様子を伺う。
当然と言えば当然だけど街の巡回はシフトが組まれていて順次交代で衛兵達は入れ替わっていく…んだけど、良く見ると前の当番が帰ってくる前に次の当番が出ていくタイミングがある。
狙うとなるとここか。
少なくとも一階には無人になる瞬間がある。
今日は一旦引き上げて翌日、わたしはその瞬間が何時なのかを確認する。
取り敢えず早い段階では午前十時前後にチャンスがありそうね。
更に翌日。決行に踏み切る。
時間は十時ちょっと前。監視塔から衛兵がわらわらと出ていく。
前の巡回当番はまだ戻ってこない。
わたしは何食わぬ顔して監視塔に踏み入る。
そして梯子を伝って二階へ。
深夜勤務だった衛兵が仮眠を取っている…この二階に踏み込んだ時点で既に不法侵入が成立する。物音を立てて一人でも目を覚まそうものなら命を懸けた鬼ごっこの開始だ。
わたしは慎重に塔の最上階、レックスの執務室を目指す。
「これね…」

机の中から金貨の入った袋と記録を抜き取る。
後は誰にも気付かれないよう、抜け出すだけだ。
「記録を見たか?高々これっぽっちの金を集めるために徴収人を使って取り立てたんだ。この額じゃ徴収人の給金にもならないと言うのにな」
深夜、ダレロスの庭でアーマンドは溜息交じりに呟く。
「きちんと仕事をこなしてくれたな。こいつは報酬だ」
と言って金貨の詰まった袋を投げてよこす。そしてわたしのギルド内での地位を一段上げると言ってきた。
とは言ってもその称号は「追剥」。ロクなものじゃない。
でも昇進もちゃんとあるにはあるのね。
…昇進、か。
わたしの中で葛藤が起こる。
このままストーキングやら何やらで脅されて使われ続けるよりも…昇進してそう言った干渉を受けない地位を築くべきなのかしら?
でもそれを成すには更に外道へと落ちぶれることになる…悩みどころね。
わたしは朝焼けに染まる波止場区で悩んでいた。