ブルーマでの商売を済ませ、ちょっと挨拶がてら曇王の神殿に顔を出す。
もうわたしなんかが顔を出しても追い返されるかな、と思ったけど案外すんなりと入れてくれた。
マーティンに会ってオブリビオンゲートがあちこちで開いている事を伝えると渋面になる。
「アミュレットの在り処と敵の正体を探っているのだが、一向に手がかりが掴めないんだ」
ジョフリー以下ブレイズがあれこれと働きかけているようだけど、成果は芳しくないと言う。
つまりあれからそこそこの日数が経っているけど、進展は一切無いと言うことか。
皆忙しそうだし、あまり邪魔するのも悪いので、世間話もそこそこに神殿を後にした。
そして後は毎度のコースに戻りコロールへ。
「おい、お前。仕事はどうした。何の成果も上がってないじゃないか」
コロールで居丈高なダンマーに話しかけられる。
仕事?成果?ちゃんと薬は売ってるし日々の生活にも別段困ってないくらいの稼ぎにはなってるはずだけど。
わたしが不思議顔をしているとファシスと名乗るダンマーは呆れたように溜息を吐き、声のトーンを落とす。
「何を寝ぼけている。盗みの仕事に決まってるだろうが」
盗み?
まだピンとこないわたしに天を振り仰ぎ嘆く。
「よもや貴様盗賊ギルドに加入していることを忘れたわけではあるまいな?」
盗賊ギルド!?ってことはこの人ギルドの関係者か。
「私はファシスだ。盗賊ギルドの上級故買商をやっている」
笑って誤魔化そうとするわたしに海よりも深い溜息を返すファシス。
「いい加減何か成果を出さんか。確かに仕事は好きな時に自由にやれと言うことになっているがな」
それでもギルドと名乗る以上運営と言うものがあるようで、ギルドのメンバーには相応の働きが期待されているんだと言う。
とは言ってもわたしは別に盗みなんてしたくないんだよなぁ。
あまり真剣さの感じられないわたしに業を煮やしたファシスは脅しをかけてくる。
「確かにギルドの戒律で貴様を直接害することはできん。だがな…貴様を見続けることは出来るのだぞ?」
見続ける?一体どう言う意味?
「有名な錬金薬企業は”おはようからおやすみまで暮らしを見つめる”を売り文句にしてるが、我々ならその後の”おやすみからお目覚めまで”も貴様を見つめることが出来ると言っている」
一々分かりにくいことを言うダンマーね。
「つまり、だ。貴様を24時間ストーキングすると言っているのだ」
漸く言いたいことが分かった。仕事しないとわたしのプライバシーを全部覗き見すると言うことか。
確かに戒律では身内へのストーキング禁止と言う項目は無かった。無かったけど…。ちょっとそれを想像してみる…。
まぁご飯食べてるところとか、旅をしているところとか、商売しているところを見られるのはまぁ良い。
でも寝てるところとか、場合によってはお風呂入るところとかは…御免こうむりたいわね。
…でも待てよ?となるとその出刃亀を叩きのめせば、わたしは晴れてギルドから追放と言う事になるのか。
「おかしなことを考えるなよ?ギルドから追放されたら、その後はストーキング等では済まんからな。四六時中盗人に警戒することになるぞ」
…くっ。流石盗賊ギルドの幹部クラスだけはあるわね。わたしの微妙な表情の変化を読んでいる。
つまりギルドの足抜けをすればわたしは部外者なので、盗みの対象にもできると言うことか。
「要するに貴様がたまにでも良いから仕事をすれば良いと言うことだ」
最早ギルドを足抜けすることすら許されないと言うのか…。
「まぁ警告は以上だ。今日は別の、個人的な用事が有ってな…貴様ジェメイン兄弟のことをどこまで知っている?」
「ジェメイン兄弟?あの双子の?」
何であの双子がここで出てくるのか。
ファシスがあの兄弟、いや正確には兄弟の父親のことを教えてくれた。
兄弟の父親、アルバート・ジェメインは何と盗賊ギルドのメンバーで腕利きの盗賊だったと言うのだ。
しかも相当昔になるけど、ここコロールの城から宝剣を盗み出し…本来ならギルドに収めるはずだったそれを横領、と言うか独り占めしてしまったと言うのだ。
その後アルバートの足取りを追ったが、どうにも行方が掴めず息子のレイナルドが置き去りにされていた。
アルバートともう一人の息子ギルバートは行方不明。余りに足取りが無さすぎるのでその二人は死んだものだと思っていたところに先日わたしが関係した一件。
ギルバートの生存が分かり、兄弟はウェザーレアを奪還した。
ファシスはそこでウェザーレアに宝剣があると睨んだが、調査結果は空振り。
「さらに調査を進めると、どうも近くにオーガの巣があるようでな。ウェザーレアは度々そこのオーガに襲われていたようだ。宝剣も奴らに持ち去られている可能性がある」
「で?」
「ふぅ…本当に貴様は察しが悪いな。つまり貴様にそのオーガの巣を探ってこいと言っているんだ」
「何で!?」
「貴様、余程の恩知らずと見えるな。わざわざ貴様の立場の危うさを教えてやったのだから、その恩に報いろと言っているんだ。それに貴様はあの兄弟の知り合い。探りを入れるのも易かろう」
うぅ…やっぱり盗賊ギルドなんか入るんじゃなかった。わたしの馬鹿…。
一応上役となるこの男に逆らうと何されるか分かったもんじゃない。わたしはしぶしぶ引き受けるしか無かった。
ただ一応あの兄弟にもお父さんの事、聞いておこうかな。
もしかしたらどこか別の所に隠してあるだけかもしれないし。
と思ったんだけど、双子はそう言う物は知らないと言う。
「何でうちにそんな凄い剣があるって言うんだい?別に父さんは騎士でも剣士でも無かったんだけど」
逆に聞かれてわたしは言葉に詰まる。まさか二人のお父さんが盗人でした、なんて言えないし。
わたしが上手く答えられないでいることに何か不信を抱いたのか、ギルバートは機嫌を悪くしたようだ。
「何だか知らないけど、ヘンな言いがかりはやめてくれよ」
わたしは平謝りしてウェザーレアを後にする。
収穫は無かったので諦めてオーガの巣を探索することに。
「あー…沢山居るわねぇ」
流石に巣と言うだけあってそこかしこにオーガ。
とても忍び足でこっそりと忍び込むにも限度がある。
出来るだけ見つからないようにするけど、やっぱり…
「ぐがぁぁぁ!」
見付かる時は見付かる。
わたしは何時もの様に地面をだん!と踏み鳴らす。
でも今日はちょっと一味違うのよね。
今回からはちょっと降霊術のアプローチを変えてみた。
今まではマジカで練り上げた器に魂を押し込める方式だったんだけど、今回は直接魂を具現化してみることにしたのよね。
俗に言う生霊の状態で使役してみる。
「ぐごぁぁぁぁ!」
「きしゃー!!」
生霊はオーガに向けてあれこれ呪いをかけては殴る殴る。
うん、強い。腐乱死体より戦力は高いわね。ただ実態が無いせいか動きが鈍いのが欠点か。
まぁ距離を取られても呪詛を飛ばせるから、そこまで重大な欠点でもないわね。
結局オーガの巣の一番奥で何か豪華な剣を一振り見付けてしまった。
本当にあるとは…。
わたしは剣を抱えてコロールに戻る。
でもこの剣、どうしようかしら?本来はコロールの物。でもファシスの機嫌を損ねるのも後が怖い。
取り敢えず宿で一晩考えることに…。
そして翌朝。
結局わたしはコロールのお城へ参内することにした。
ファシスのことは良いのかって?
色々迷ったんだけどね…やっぱり悪い事はあんまりしたくないんだ。
それにファシスも個人的な用事って言ってたし。
わたしは参内すると伯爵夫人に宝剣を差し出す。
「まぁ…これは」
伯爵夫人が目を丸くする。
隣に控えていた執事が剣を受け取り…
「この剣は十年以上も前に城から盗み出された宝剣にございます。良くぞ見付けて下さいました」
わたしに恭しく礼を言う。
「貴女がどこでこの剣を見付けたのか、それは敢えて聞かないでおきましょう。そしてこの剣を見付けてくれた貴女には名誉と、それに相応しい物を差し上げます」
伯爵夫人が執事に目配せをすると、執事は剣を持って下がり、戻ってきたときには一枚の大きな盾を持っていた。
「この盾を貴女に授けます。貴女はそれだけの働きをしてくれました」
大きな盾にはコロールの紋章が燦然と輝く。
…でもこの盾…重すぎる…。
多分実用品にはならないだろうな…。
わたしは剣と引き換えに盾を貰い城を去ろうとしたその時、伯爵夫人に呼び止められた。
「ところで貴女にもう一つお願いしたいことがあるのです」
もうわたしなんかが顔を出しても追い返されるかな、と思ったけど案外すんなりと入れてくれた。
マーティンに会ってオブリビオンゲートがあちこちで開いている事を伝えると渋面になる。
「アミュレットの在り処と敵の正体を探っているのだが、一向に手がかりが掴めないんだ」
ジョフリー以下ブレイズがあれこれと働きかけているようだけど、成果は芳しくないと言う。
つまりあれからそこそこの日数が経っているけど、進展は一切無いと言うことか。
皆忙しそうだし、あまり邪魔するのも悪いので、世間話もそこそこに神殿を後にした。
そして後は毎度のコースに戻りコロールへ。
「おい、お前。仕事はどうした。何の成果も上がってないじゃないか」

コロールで居丈高なダンマーに話しかけられる。
仕事?成果?ちゃんと薬は売ってるし日々の生活にも別段困ってないくらいの稼ぎにはなってるはずだけど。
わたしが不思議顔をしているとファシスと名乗るダンマーは呆れたように溜息を吐き、声のトーンを落とす。
「何を寝ぼけている。盗みの仕事に決まってるだろうが」
盗み?
まだピンとこないわたしに天を振り仰ぎ嘆く。
「よもや貴様盗賊ギルドに加入していることを忘れたわけではあるまいな?」
盗賊ギルド!?ってことはこの人ギルドの関係者か。
「私はファシスだ。盗賊ギルドの上級故買商をやっている」
笑って誤魔化そうとするわたしに海よりも深い溜息を返すファシス。
「いい加減何か成果を出さんか。確かに仕事は好きな時に自由にやれと言うことになっているがな」
それでもギルドと名乗る以上運営と言うものがあるようで、ギルドのメンバーには相応の働きが期待されているんだと言う。
とは言ってもわたしは別に盗みなんてしたくないんだよなぁ。
あまり真剣さの感じられないわたしに業を煮やしたファシスは脅しをかけてくる。
「確かにギルドの戒律で貴様を直接害することはできん。だがな…貴様を見続けることは出来るのだぞ?」
見続ける?一体どう言う意味?
「有名な錬金薬企業は”おはようからおやすみまで暮らしを見つめる”を売り文句にしてるが、我々ならその後の”おやすみからお目覚めまで”も貴様を見つめることが出来ると言っている」
一々分かりにくいことを言うダンマーね。
「つまり、だ。貴様を24時間ストーキングすると言っているのだ」
漸く言いたいことが分かった。仕事しないとわたしのプライバシーを全部覗き見すると言うことか。
確かに戒律では身内へのストーキング禁止と言う項目は無かった。無かったけど…。ちょっとそれを想像してみる…。
まぁご飯食べてるところとか、旅をしているところとか、商売しているところを見られるのはまぁ良い。
でも寝てるところとか、場合によってはお風呂入るところとかは…御免こうむりたいわね。
…でも待てよ?となるとその出刃亀を叩きのめせば、わたしは晴れてギルドから追放と言う事になるのか。
「おかしなことを考えるなよ?ギルドから追放されたら、その後はストーキング等では済まんからな。四六時中盗人に警戒することになるぞ」
…くっ。流石盗賊ギルドの幹部クラスだけはあるわね。わたしの微妙な表情の変化を読んでいる。
つまりギルドの足抜けをすればわたしは部外者なので、盗みの対象にもできると言うことか。
「要するに貴様がたまにでも良いから仕事をすれば良いと言うことだ」
最早ギルドを足抜けすることすら許されないと言うのか…。
「まぁ警告は以上だ。今日は別の、個人的な用事が有ってな…貴様ジェメイン兄弟のことをどこまで知っている?」
「ジェメイン兄弟?あの双子の?」
何であの双子がここで出てくるのか。
ファシスがあの兄弟、いや正確には兄弟の父親のことを教えてくれた。
兄弟の父親、アルバート・ジェメインは何と盗賊ギルドのメンバーで腕利きの盗賊だったと言うのだ。
しかも相当昔になるけど、ここコロールの城から宝剣を盗み出し…本来ならギルドに収めるはずだったそれを横領、と言うか独り占めしてしまったと言うのだ。
その後アルバートの足取りを追ったが、どうにも行方が掴めず息子のレイナルドが置き去りにされていた。
アルバートともう一人の息子ギルバートは行方不明。余りに足取りが無さすぎるのでその二人は死んだものだと思っていたところに先日わたしが関係した一件。
ギルバートの生存が分かり、兄弟はウェザーレアを奪還した。
ファシスはそこでウェザーレアに宝剣があると睨んだが、調査結果は空振り。
「さらに調査を進めると、どうも近くにオーガの巣があるようでな。ウェザーレアは度々そこのオーガに襲われていたようだ。宝剣も奴らに持ち去られている可能性がある」
「で?」
「ふぅ…本当に貴様は察しが悪いな。つまり貴様にそのオーガの巣を探ってこいと言っているんだ」
「何で!?」
「貴様、余程の恩知らずと見えるな。わざわざ貴様の立場の危うさを教えてやったのだから、その恩に報いろと言っているんだ。それに貴様はあの兄弟の知り合い。探りを入れるのも易かろう」
うぅ…やっぱり盗賊ギルドなんか入るんじゃなかった。わたしの馬鹿…。
一応上役となるこの男に逆らうと何されるか分かったもんじゃない。わたしはしぶしぶ引き受けるしか無かった。
ただ一応あの兄弟にもお父さんの事、聞いておこうかな。
もしかしたらどこか別の所に隠してあるだけかもしれないし。
と思ったんだけど、双子はそう言う物は知らないと言う。
「何でうちにそんな凄い剣があるって言うんだい?別に父さんは騎士でも剣士でも無かったんだけど」
逆に聞かれてわたしは言葉に詰まる。まさか二人のお父さんが盗人でした、なんて言えないし。
わたしが上手く答えられないでいることに何か不信を抱いたのか、ギルバートは機嫌を悪くしたようだ。
「何だか知らないけど、ヘンな言いがかりはやめてくれよ」
わたしは平謝りしてウェザーレアを後にする。
収穫は無かったので諦めてオーガの巣を探索することに。
「あー…沢山居るわねぇ」
流石に巣と言うだけあってそこかしこにオーガ。
とても忍び足でこっそりと忍び込むにも限度がある。
出来るだけ見つからないようにするけど、やっぱり…
「ぐがぁぁぁ!」
見付かる時は見付かる。
わたしは何時もの様に地面をだん!と踏み鳴らす。
でも今日はちょっと一味違うのよね。
今回からはちょっと降霊術のアプローチを変えてみた。
今まではマジカで練り上げた器に魂を押し込める方式だったんだけど、今回は直接魂を具現化してみることにしたのよね。
俗に言う生霊の状態で使役してみる。
「ぐごぁぁぁぁ!」
「きしゃー!!」
生霊はオーガに向けてあれこれ呪いをかけては殴る殴る。
うん、強い。腐乱死体より戦力は高いわね。ただ実態が無いせいか動きが鈍いのが欠点か。
まぁ距離を取られても呪詛を飛ばせるから、そこまで重大な欠点でもないわね。
結局オーガの巣の一番奥で何か豪華な剣を一振り見付けてしまった。
本当にあるとは…。
わたしは剣を抱えてコロールに戻る。
でもこの剣、どうしようかしら?本来はコロールの物。でもファシスの機嫌を損ねるのも後が怖い。
取り敢えず宿で一晩考えることに…。
そして翌朝。
結局わたしはコロールのお城へ参内することにした。
ファシスのことは良いのかって?
色々迷ったんだけどね…やっぱり悪い事はあんまりしたくないんだ。
それにファシスも個人的な用事って言ってたし。
わたしは参内すると伯爵夫人に宝剣を差し出す。
「まぁ…これは」
伯爵夫人が目を丸くする。
隣に控えていた執事が剣を受け取り…
「この剣は十年以上も前に城から盗み出された宝剣にございます。良くぞ見付けて下さいました」
わたしに恭しく礼を言う。
「貴女がどこでこの剣を見付けたのか、それは敢えて聞かないでおきましょう。そしてこの剣を見付けてくれた貴女には名誉と、それに相応しい物を差し上げます」
伯爵夫人が執事に目配せをすると、執事は剣を持って下がり、戻ってきたときには一枚の大きな盾を持っていた。
「この盾を貴女に授けます。貴女はそれだけの働きをしてくれました」
大きな盾にはコロールの紋章が燦然と輝く。
…でもこの盾…重すぎる…。
多分実用品にはならないだろうな…。
わたしは剣と引き換えに盾を貰い城を去ろうとしたその時、伯爵夫人に呼び止められた。
「ところで貴女にもう一つお願いしたいことがあるのです」