「ふぅ、やっと着いた」
やっぱりレヤウィンからシェイディンハルの道のりが一番長いわね。
わたしは長旅の疲れを癒すべくニューランド山荘の扉を潜る。
他の街では先に商売を済ませてから宿を取るんだけど、シェイディンハルだけは例外だ。
レヤウィンからの道中、宿場も少ないのでかなり強硬な道程を辿ってくるので先に休憩してから商談をするようにしている。
で、このニューランド山荘。所謂安宿なんだけど、女将さんがダンマーなせいか客層もほとんどがダンマーになる。
まぁ肌の色こそ違えどもわたしもダンマー達も同じエルフ族だから、あまり揉め事になることは無いけど、たまにガラの悪いのに絡まれることもある。
それはともかく、今日は何時もと違う展開に発展した。
「もし。クヴァッチの英雄と名高い光里さんでしょうか?」
…またか。あの一件以来本当にわたしの知名度が鰻登りだから困る。
これが商売に繫がれば良いんだけど、そっちの方ではさっぱり効果が無い。
イイエヒトチガイデスヨと答えたいところだけど、この手の話しかけ方をしてくる人は大体困り事を抱えている。
我ながら甘いなぁ、と思うこともあるけど、こう言う人を無碍にするのはどうしても躊躇ってしまう。
今回話しかけてきたのはダンマーの中年女性。
ライス・ライサンダスの奥さんだと言う。
ライス・ライサンダス?どこかで聞いたような?
「主人の事をご存じありませんか。画家なんですが」
あぁ、そうだ。何でも本物がそこにあるようにしか思えない程の精緻な絵を描くと言われている画家だ。
それはともかく、その画家が行方不明なんだと言う。
絵に集中したいとアトリエに籠ることは度々あったけど、余りに長いので心配になって見に行ったら居なくなっていたとのこと。
衛兵に相談して捜索してもらうも手掛かりは一向に掴めず、困り果てているんだそうな。
…ところでわたしは常々疑問があるんだけど、”クヴァッチの英雄”って二つ名はどう言う風に伝わってるのかしら?
わたしがクヴァッチでやったことと言えば、オブリビオンゲートを閉じてクヴァッチを占拠してたデイドラを追い返す手伝いをしただけなんだけど。
言ってみれば戦闘に関することしかやってないのに、何でこうした探偵の様な頼みごとまで舞い込んでくるのやら。
人の噂なんて有る事無い事くっついていくのが世の常なんだろうけど、いざその渦中の人になってみると本当に不思議。
休憩がてら注文したフルーツジュースを飲み干すと、わたしは夫人の案内に応じてアトリエを見に行くことにした。
こうして画家のアトリエに入るのは初めてだけど、まぁイメージ通りな部屋ね。
あちこちに画布が置かれ完成した絵もあれば描きかけの絵もあり、そして画材が乱雑に置かれていて。
部屋だけ見ればおかしいところは見当たらない。
わたしは絵の事はさっぱりだけど、置かれているそれらの絵を見ると確かにこれは凄いと思ってしまう。
これが本当に絵なのかと疑ってしまうほど。
やっぱり世の中凄い人っているものなのね。
わたしは一人アトリエをうろうろと見て回る。
どうしたものか。どこから手を付ければいいのやら。
ダルの時はある程度足取りが分かってたから何とかなったけど、今回はまったくそう言った情報が無い。
わたしは考えながら何となく絵を見ていた…はずだった。
あれ?何か風景が変わってる…今までアトリエにいたはずなのに、どこかの山林みたいな場所になっていた。
「何なの?」
きょろきょろと辺りを見回すけどアトリエの面影も無い。
「君は何者かね?どうやら本物みたいだが、外から助けに来てくれた…のか?」
木陰にいたダンマーの男が話しかけてきた。
どうもこの男が行方不明の画家、ライス氏その人らしい。
何がどうなってるのか聞いてみると、どうもここは絵の中らしい。
男は観念したように溜息を吐くと事の詳細を聞かせてくれた。
この画家は魔法の筆を使って絵を描いていた。
その魔法の筆は絵の中に入り込み、その中でイメージするとその通りの絵が描き上がるのだと言う。
ある日どこで聞きつけてきたのか、一人の盗賊が魔法の筆を盗もうとアトリエに忍び込んできた。
そして盗賊はライス氏を殴り倒して筆を奪うところまでは良かった。いや全然良くはないか。
そこまでならこんな大事にはならなかったんだけど、盗賊は筆の使い方を理解すると護身のために、と化け物を描いてしまったのだと言う。
その化け物が盗賊の言う通りに動いていればまだ良かったんだけど、化け物は正に化け物として行動を始め、まずは目の前にいた盗賊を殺してしまったと言うのだ。
それならさっさと絵から出てしまえば良いのに、と思うけど、そう上手く行かないのが世の常。
絵の世界から出る為の”出口”を描く必要があるんだけど、肝心の筆は盗賊の懐の中。
盗賊の死体は化け物に囲まれて近付くに近付けない。
「あの盗賊は筆の恐ろしさまでは考えていなかったようだな」
事情を話し終えたライス氏はまた溜息を一つ。
つまりわたしのやることは化け物を掻い潜って筆を取り戻すこと、ってわけか。
「これを持って行きたまえ。役に立つかは分からんが」
そう言って寄越したのは、絵の具を溶かすテレピン油。
こうしてわたしも絵の中に囚われてしまった以上、何もしないでいるわけにもいかない。
化け物がどれだけいるのか知らないけど、行くしかない。
あー…何か居る。
絵の中を歩き盗賊の死体を探してたんだけど、先に例の化け物を見付けてしまった。
見た目はトロールそのもの。まだこっちには気付いて無さそう。
あれが見た目通りトロールなのか、全く別の生き物になってるのかは分からないけど…戦場では先に見つけた方が勝つ。
誰が言った言葉だったかしら?わたしは木陰からこっそりと矢を射かけた。
「ぶもぉぉぉ!!?」
矢が刺さった化け物はこっちに気付いて怒りのままに突進してくる。
…試すなら早い方が良いか。わたしは受け取った油瓶を開けると、中身を化け物にぶち撒けた!
う…効果はあるみたいだけど、止めとけば良かったかも?
どろどろにとろけながら襲いかかってくるトロールは迫力満点。
子供が見たら泣く上に絶対夢に出てくるレベル。
わたしも対抗すべく首無し腐乱死体を呼び起こす。
…うん、二流のホラー芝居みたいになってきたわね。
「ぷぎょぉぉぉ!」
結局油に耐え切れず断末魔と共に完全に溶け落ちる。
けど、その断末魔を聞きつけたのか、次から次へとトロール風の化け物が沸いて出てくる。
ぱしゃぱしゃと油を掛けながら絵の中の山道を進むと…砂漠?のような場所まで辿り着いた。
地面に触れてみるけど、砂は無く布地の様な感触。
…そうか。ここはまだ絵として描かれていない画布の部分なのか。
そんな何もない場所に男が一人倒れている。
こいつが盗賊か。
魔法の筆を握りしめたまま絶命していたので、懐を漁るような必要は無かった。
化け物に散々殴られたらしく体中がはれ上がり血塗れだ。
わたしは筆を持ち帰りライス氏に手渡す。
「やってくれたか!これで帰れるぞ!」
ライス氏が筆を虚空に向けて振ると…そこにはあのアトリエの風景が浮かび上がった。
わたし達はその風景に向かって飛び込む。
「君のお蔭で助かったよ」
ライス氏を伴ってアトリエを出ると奥さんが目を丸くして出迎える。
夫婦は再開を喜ぶと改めて
「君のお蔭で無事に帰ってこれたよ。友情の証としてこいつを持っていくと良い」
そう言うとかなり分厚い生地で出来たエプロンをくれた。
このエプロン…何か魔法が掛かってるわね。魔法の筆と言い良くも色々呪具を持っているものだ。
「あと…筆の事は秘密にしておいてくれないか?これがおおっぴらになると今度は盗賊じゃ済まなくなるかもしれんのでな」
「そうね。筆の事は忘れるとするわ」
それを別れの挨拶としてわたしは画家の家を後にした。
今日はすっかり遅くなってしまったし、商売は明日にしようかな。
わたしは安宿に引き上げることにした。
やっぱりレヤウィンからシェイディンハルの道のりが一番長いわね。
わたしは長旅の疲れを癒すべくニューランド山荘の扉を潜る。
他の街では先に商売を済ませてから宿を取るんだけど、シェイディンハルだけは例外だ。
レヤウィンからの道中、宿場も少ないのでかなり強硬な道程を辿ってくるので先に休憩してから商談をするようにしている。
で、このニューランド山荘。所謂安宿なんだけど、女将さんがダンマーなせいか客層もほとんどがダンマーになる。
まぁ肌の色こそ違えどもわたしもダンマー達も同じエルフ族だから、あまり揉め事になることは無いけど、たまにガラの悪いのに絡まれることもある。
それはともかく、今日は何時もと違う展開に発展した。
「もし。クヴァッチの英雄と名高い光里さんでしょうか?」
…またか。あの一件以来本当にわたしの知名度が鰻登りだから困る。
これが商売に繫がれば良いんだけど、そっちの方ではさっぱり効果が無い。
イイエヒトチガイデスヨと答えたいところだけど、この手の話しかけ方をしてくる人は大体困り事を抱えている。
我ながら甘いなぁ、と思うこともあるけど、こう言う人を無碍にするのはどうしても躊躇ってしまう。
今回話しかけてきたのはダンマーの中年女性。
ライス・ライサンダスの奥さんだと言う。
ライス・ライサンダス?どこかで聞いたような?
「主人の事をご存じありませんか。画家なんですが」
あぁ、そうだ。何でも本物がそこにあるようにしか思えない程の精緻な絵を描くと言われている画家だ。
それはともかく、その画家が行方不明なんだと言う。
絵に集中したいとアトリエに籠ることは度々あったけど、余りに長いので心配になって見に行ったら居なくなっていたとのこと。
衛兵に相談して捜索してもらうも手掛かりは一向に掴めず、困り果てているんだそうな。
…ところでわたしは常々疑問があるんだけど、”クヴァッチの英雄”って二つ名はどう言う風に伝わってるのかしら?
わたしがクヴァッチでやったことと言えば、オブリビオンゲートを閉じてクヴァッチを占拠してたデイドラを追い返す手伝いをしただけなんだけど。
言ってみれば戦闘に関することしかやってないのに、何でこうした探偵の様な頼みごとまで舞い込んでくるのやら。
人の噂なんて有る事無い事くっついていくのが世の常なんだろうけど、いざその渦中の人になってみると本当に不思議。
休憩がてら注文したフルーツジュースを飲み干すと、わたしは夫人の案内に応じてアトリエを見に行くことにした。
こうして画家のアトリエに入るのは初めてだけど、まぁイメージ通りな部屋ね。
あちこちに画布が置かれ完成した絵もあれば描きかけの絵もあり、そして画材が乱雑に置かれていて。
部屋だけ見ればおかしいところは見当たらない。
わたしは絵の事はさっぱりだけど、置かれているそれらの絵を見ると確かにこれは凄いと思ってしまう。
これが本当に絵なのかと疑ってしまうほど。
やっぱり世の中凄い人っているものなのね。
わたしは一人アトリエをうろうろと見て回る。
どうしたものか。どこから手を付ければいいのやら。
ダルの時はある程度足取りが分かってたから何とかなったけど、今回はまったくそう言った情報が無い。
わたしは考えながら何となく絵を見ていた…はずだった。
あれ?何か風景が変わってる…今までアトリエにいたはずなのに、どこかの山林みたいな場所になっていた。
「何なの?」
きょろきょろと辺りを見回すけどアトリエの面影も無い。
「君は何者かね?どうやら本物みたいだが、外から助けに来てくれた…のか?」

木陰にいたダンマーの男が話しかけてきた。
どうもこの男が行方不明の画家、ライス氏その人らしい。
何がどうなってるのか聞いてみると、どうもここは絵の中らしい。
男は観念したように溜息を吐くと事の詳細を聞かせてくれた。
この画家は魔法の筆を使って絵を描いていた。
その魔法の筆は絵の中に入り込み、その中でイメージするとその通りの絵が描き上がるのだと言う。
ある日どこで聞きつけてきたのか、一人の盗賊が魔法の筆を盗もうとアトリエに忍び込んできた。
そして盗賊はライス氏を殴り倒して筆を奪うところまでは良かった。いや全然良くはないか。
そこまでならこんな大事にはならなかったんだけど、盗賊は筆の使い方を理解すると護身のために、と化け物を描いてしまったのだと言う。
その化け物が盗賊の言う通りに動いていればまだ良かったんだけど、化け物は正に化け物として行動を始め、まずは目の前にいた盗賊を殺してしまったと言うのだ。
それならさっさと絵から出てしまえば良いのに、と思うけど、そう上手く行かないのが世の常。
絵の世界から出る為の”出口”を描く必要があるんだけど、肝心の筆は盗賊の懐の中。
盗賊の死体は化け物に囲まれて近付くに近付けない。
「あの盗賊は筆の恐ろしさまでは考えていなかったようだな」
事情を話し終えたライス氏はまた溜息を一つ。
つまりわたしのやることは化け物を掻い潜って筆を取り戻すこと、ってわけか。
「これを持って行きたまえ。役に立つかは分からんが」
そう言って寄越したのは、絵の具を溶かすテレピン油。
こうしてわたしも絵の中に囚われてしまった以上、何もしないでいるわけにもいかない。
化け物がどれだけいるのか知らないけど、行くしかない。
あー…何か居る。
絵の中を歩き盗賊の死体を探してたんだけど、先に例の化け物を見付けてしまった。
見た目はトロールそのもの。まだこっちには気付いて無さそう。
あれが見た目通りトロールなのか、全く別の生き物になってるのかは分からないけど…戦場では先に見つけた方が勝つ。
誰が言った言葉だったかしら?わたしは木陰からこっそりと矢を射かけた。
「ぶもぉぉぉ!!?」
矢が刺さった化け物はこっちに気付いて怒りのままに突進してくる。
…試すなら早い方が良いか。わたしは受け取った油瓶を開けると、中身を化け物にぶち撒けた!
う…効果はあるみたいだけど、止めとけば良かったかも?
どろどろにとろけながら襲いかかってくるトロールは迫力満点。
子供が見たら泣く上に絶対夢に出てくるレベル。
わたしも対抗すべく首無し腐乱死体を呼び起こす。
…うん、二流のホラー芝居みたいになってきたわね。
「ぷぎょぉぉぉ!」
結局油に耐え切れず断末魔と共に完全に溶け落ちる。
けど、その断末魔を聞きつけたのか、次から次へとトロール風の化け物が沸いて出てくる。
ぱしゃぱしゃと油を掛けながら絵の中の山道を進むと…砂漠?のような場所まで辿り着いた。
地面に触れてみるけど、砂は無く布地の様な感触。
…そうか。ここはまだ絵として描かれていない画布の部分なのか。
そんな何もない場所に男が一人倒れている。
こいつが盗賊か。
魔法の筆を握りしめたまま絶命していたので、懐を漁るような必要は無かった。
化け物に散々殴られたらしく体中がはれ上がり血塗れだ。
わたしは筆を持ち帰りライス氏に手渡す。
「やってくれたか!これで帰れるぞ!」
ライス氏が筆を虚空に向けて振ると…そこにはあのアトリエの風景が浮かび上がった。
わたし達はその風景に向かって飛び込む。
「君のお蔭で助かったよ」
ライス氏を伴ってアトリエを出ると奥さんが目を丸くして出迎える。
夫婦は再開を喜ぶと改めて
「君のお蔭で無事に帰ってこれたよ。友情の証としてこいつを持っていくと良い」
そう言うとかなり分厚い生地で出来たエプロンをくれた。
このエプロン…何か魔法が掛かってるわね。魔法の筆と言い良くも色々呪具を持っているものだ。
「あと…筆の事は秘密にしておいてくれないか?これがおおっぴらになると今度は盗賊じゃ済まなくなるかもしれんのでな」
「そうね。筆の事は忘れるとするわ」
それを別れの挨拶としてわたしは画家の家を後にした。
今日はすっかり遅くなってしまったし、商売は明日にしようかな。
わたしは安宿に引き上げることにした。