スキングラードでの商いを無事に終えて到着するはブラヴィル。
あまり治安の良くないことで有名なこの街だけど、商売の相手はちゃんといる。
でも今日は何時もと雰囲気が違う。
何となくわたしが通ると妙に騒然とする。わたしを見て何かひそひそと話しているようだ。
一体どうしたんだろう?何かヘンな物でも付いてるんだろうか?と思ったけど、見た目それっぽい何かが付いてるわけでもない。
何か居心地悪いわね。
雑貨屋と錬金店で薬を卸し終わる頃にはわたしの回りはちょっとした人だかりになっていた。
…一体何なの?ひそひそと話す住人達の真意が掴めない。
「ねぇ…何だか今日は皆、様子がおかしくない?」
今しがた商売を終えた錬金店の店主にぼやく。
「ん?あぁ、そりゃアンタ有名人だからねぇ」
「有名人?」
「今や持ちきりだよ?”クヴァッチの英雄”ってね」
何でもわたしがオブリビオン次元から襲撃を受けたクヴァッチを救った女傑だと言う話が伝わっているらしい。
流石ブラヴィルの住人ね。治安が悪いせいか、盗賊ギルドの関係者が結構いる。…かく言うわたしも一応盗賊ギルド関係者ではあるんだけどね。
ともかくそのお蔭でこの街ではそう言った情報の伝達が速いらしい。
他の街じゃこんな風に噂されることなんてなかったのにね。
今日の様子がおかしいのはそのせいか。とにかく理由は分かった。
商いを終えて宿でも取ろうと錬金店を出た時、事は起こった。
「お願いします英雄様!何卒、お力を!」
一人のおばさんに懇願される。周囲は黒山の人だかり。
何この状況…おばさんはわたしが”クヴァッチの英雄”と聞いて縋って来たんだろうけど…衆人環視の中おばさんを無碍できるほどわたしの心は強くなかった。
わたしはただの薬売りだと言うのに、どうしてこうなるのか。わけが分からない。
大勢の見守る中、おばさんはとくとくとその窮状を訴える。
何でも高利貸しにお金を借りた旦那さんが行方不明なんだとか。
「お願いします!夫を、夫を助けてください、英雄様!」
涙ながらに訴えるおばさん。お願いだからその英雄様って言うのはやめて…。
結局わたしは断ることもできず、引き受ける羽目に。
今日はもう日も暮れるので宿で一泊した翌日、話に聞いた高利貸しのところに話を聞きに行く。
行方不明がどうこう言うのなら本当は衛兵にでも頼んだ方が良いんじゃないかと思うんだけどなぁ。特にこの手のゴロツキが絡む誘拐っぽい場合は。
「ねぇ、エイルロンっておじさんを探してるんだけど」
「んー?そいつの事を知ってるかどうかは…お前さん次第じゃないかと思わないか?」
「…何をすれば良いの?」
「がはは!こいつぁ話が早くて良い」
何でもこの高利貸しオークことクルダンが代々受け継いでる家宝の大斧を先代、つまり父親が無くしたんだけど、その所在が最近分かったと言う。
「それを取ってこい、と?」
「ま、そう言うこった」
相当大きな斧で、このオークの家名が掘り込まれているものらしい。
見ればすぐわかる、とは本人の言。
「分かったわ」
探し物程度でどうにかなるならマシな方だろう。借金の肩代わりをしろとか言われるより余程良い。
わたしは用意された小舟で斧を探しに行く。目的地はルマーレ湖のブラヴィル沖にある砦。
だがわたしは砦である人物と鉢合わせることになる。
その人物こそ他ならぬエイルロン…つまりおばさんの旦那さんだ。
「あんたも騙されたのか。お気の毒に」
エイルロンがくたびれた様に呟く。
どうもこのおじさんが言うに、あの大斧の話は誰かをこの砦に誘い込む時の常套手段らしい。
そして誘い込まれたら最後、ここで行われる殺人ゲームの獲物にされるのだとか。
どうもあのクルダンは高利貸し以外にもこのゲームを主催して参加者から料金を巻き上げてるんだとか。
参加者は気兼ねなく人殺しを楽しみ、後始末はクルダンが請け負う。
獲物役の人は借金が返せなかった人や、わたしの様に斧探しの偽依頼を受けた人が担当するんだと言う。
そして参加者と獲物役が対戦して勝った方が生きて砦を出られることになる。
ふぅん。つまり反撃しても良いのか。
狩人役の参加者は始めから鍵を持っているから、敵わないと思ったら逃げることも出来るけど、獲物役は狩人役から鍵を奪い取らないと砦から出られない。
「こんなことを頼めた義理じゃないが…生まれてこの方武器とは無縁の生活だったんだ。あんたに全て託すよ」
仕方ないわね…まったく何でこうなるかなぁ、ほんとに。
わたしは弓を準備すると狩人役が待ち受ける砦に踏み込んだ。
それにしてもこっちは明らかに不利よね。敵が何人いるのかもわからない。つまりは砦中を虱潰しに探し回らないといけない。
…じっとどこかで待ち受けてれば向こうから来てくれるかもしれないけど、そう言うのは性に合わないし、何より先手を取った方が有利だ。
取り敢えず探し回って三人の狩人役を倒したけど…まったくこれじゃどっちが狩人やら。
もうこれ以上はいなそう。一旦砦を出て奪った鍵を試してみよう。
そう思ってエイルロンのところに戻る…が、時すでに遅し。
エイルロンは無残にも斬り死にしていた。
斬り捨てたのは…高利貸しのクルダン。
「ちょっとどういう事?勝ったのはこっちよ」
「何だって?お前達は獲物だぜ?生き残ってどうするよ」
つまり始めから生かして帰すつもりは無い、と。
ふぅん。そう。
わたしはまずクルダンの舎弟っぽいのを先に始末すると、滅多に使わない裏技をクルダンに仕掛けた。
タムリエルに生を受けた人はもれなく星座の加護を受けている。
そして更にその星座の加護を強化するための石碑と言うものも存在する。
わたしの生まれは大蛇座。その石碑はわたしの生活拠点であるレヤウィンの南東、ブラックウッドの森にある。
「やめろぉぉぉ…助けてくれぇぇ!」
「無様な悲鳴ね。オーク族はタムリエルでも一、二を争う戦闘種族だと聞いていたけど、誇りはないのかしら?」
わたしの侮蔑がクルダンの耳に届いたかどうか。
星座の力を利用した呪いはさしずめクルダンの身体を締め上げる大蛇さながら。
哀れな獲物はとぐろの中で縛り上げ自由を奪われ、毒持つ牙で命脈を断たれる。
人はこれを「コブラの舞い」と呼んでるらしい。
でもそれだけなら苦悶の声を上げる程度で済んだだろう。
クルダンに無様な悲鳴を上げさせているのは…目の前で暴れるいつもの腐乱死体だ。
動くことも出来ずただ一方的におぞましい死体に殴り殺される…この男にはぴったりだと思わない?
呪術師に喧嘩を売ると言うことの意味をしっかりと噛みしめて貰わないとね。
まぁ噛みしめて後悔して反省してもその教訓を生かせる時は巡ってこないんだけど。
結局砦から帰ってこれたのはわたし一人だった。
…気が重い。これからわたしはおばさんに今日の事を伝えないといけない。
「英雄様は全力を尽くして下さいました…夫も借金さえしなければこんなことにはならなかったんです」
英雄様、か。
確かにクヴァッチの時は何とか上手くいったけど…やっぱりわたしはただの薬売りなんだと思い知らされる。
おばさんは面倒に巻き込んだお詫びに、と一冊の古書をよこす。
「駄目よ、受け取れないわ」
「良いんです。本来は夫の借金返済の助けにと売るつもりの物でしたから。もう必要ないんです」
そう言うと古書をわたしに押し付けると聖堂の方へ向かった。
旦那さんの死を悼むのだろう。わたしに出来ることはもう何も無い。
あまり治安の良くないことで有名なこの街だけど、商売の相手はちゃんといる。
でも今日は何時もと雰囲気が違う。
何となくわたしが通ると妙に騒然とする。わたしを見て何かひそひそと話しているようだ。
一体どうしたんだろう?何かヘンな物でも付いてるんだろうか?と思ったけど、見た目それっぽい何かが付いてるわけでもない。
何か居心地悪いわね。
雑貨屋と錬金店で薬を卸し終わる頃にはわたしの回りはちょっとした人だかりになっていた。
…一体何なの?ひそひそと話す住人達の真意が掴めない。
「ねぇ…何だか今日は皆、様子がおかしくない?」
今しがた商売を終えた錬金店の店主にぼやく。
「ん?あぁ、そりゃアンタ有名人だからねぇ」
「有名人?」
「今や持ちきりだよ?”クヴァッチの英雄”ってね」
何でもわたしがオブリビオン次元から襲撃を受けたクヴァッチを救った女傑だと言う話が伝わっているらしい。
流石ブラヴィルの住人ね。治安が悪いせいか、盗賊ギルドの関係者が結構いる。…かく言うわたしも一応盗賊ギルド関係者ではあるんだけどね。
ともかくそのお蔭でこの街ではそう言った情報の伝達が速いらしい。
他の街じゃこんな風に噂されることなんてなかったのにね。
今日の様子がおかしいのはそのせいか。とにかく理由は分かった。
商いを終えて宿でも取ろうと錬金店を出た時、事は起こった。
「お願いします英雄様!何卒、お力を!」
一人のおばさんに懇願される。周囲は黒山の人だかり。
何この状況…おばさんはわたしが”クヴァッチの英雄”と聞いて縋って来たんだろうけど…衆人環視の中おばさんを無碍できるほどわたしの心は強くなかった。
わたしはただの薬売りだと言うのに、どうしてこうなるのか。わけが分からない。
大勢の見守る中、おばさんはとくとくとその窮状を訴える。
何でも高利貸しにお金を借りた旦那さんが行方不明なんだとか。
「お願いします!夫を、夫を助けてください、英雄様!」
涙ながらに訴えるおばさん。お願いだからその英雄様って言うのはやめて…。
結局わたしは断ることもできず、引き受ける羽目に。
今日はもう日も暮れるので宿で一泊した翌日、話に聞いた高利貸しのところに話を聞きに行く。
行方不明がどうこう言うのなら本当は衛兵にでも頼んだ方が良いんじゃないかと思うんだけどなぁ。特にこの手のゴロツキが絡む誘拐っぽい場合は。
「ねぇ、エイルロンっておじさんを探してるんだけど」
「んー?そいつの事を知ってるかどうかは…お前さん次第じゃないかと思わないか?」
「…何をすれば良いの?」
「がはは!こいつぁ話が早くて良い」
何でもこの高利貸しオークことクルダンが代々受け継いでる家宝の大斧を先代、つまり父親が無くしたんだけど、その所在が最近分かったと言う。
「それを取ってこい、と?」
「ま、そう言うこった」
相当大きな斧で、このオークの家名が掘り込まれているものらしい。
見ればすぐわかる、とは本人の言。
「分かったわ」
探し物程度でどうにかなるならマシな方だろう。借金の肩代わりをしろとか言われるより余程良い。
わたしは用意された小舟で斧を探しに行く。目的地はルマーレ湖のブラヴィル沖にある砦。
だがわたしは砦である人物と鉢合わせることになる。

その人物こそ他ならぬエイルロン…つまりおばさんの旦那さんだ。
「あんたも騙されたのか。お気の毒に」
エイルロンがくたびれた様に呟く。
どうもこのおじさんが言うに、あの大斧の話は誰かをこの砦に誘い込む時の常套手段らしい。
そして誘い込まれたら最後、ここで行われる殺人ゲームの獲物にされるのだとか。
どうもあのクルダンは高利貸し以外にもこのゲームを主催して参加者から料金を巻き上げてるんだとか。
参加者は気兼ねなく人殺しを楽しみ、後始末はクルダンが請け負う。
獲物役の人は借金が返せなかった人や、わたしの様に斧探しの偽依頼を受けた人が担当するんだと言う。
そして参加者と獲物役が対戦して勝った方が生きて砦を出られることになる。
ふぅん。つまり反撃しても良いのか。
狩人役の参加者は始めから鍵を持っているから、敵わないと思ったら逃げることも出来るけど、獲物役は狩人役から鍵を奪い取らないと砦から出られない。
「こんなことを頼めた義理じゃないが…生まれてこの方武器とは無縁の生活だったんだ。あんたに全て託すよ」
仕方ないわね…まったく何でこうなるかなぁ、ほんとに。
わたしは弓を準備すると狩人役が待ち受ける砦に踏み込んだ。
それにしてもこっちは明らかに不利よね。敵が何人いるのかもわからない。つまりは砦中を虱潰しに探し回らないといけない。
…じっとどこかで待ち受けてれば向こうから来てくれるかもしれないけど、そう言うのは性に合わないし、何より先手を取った方が有利だ。
取り敢えず探し回って三人の狩人役を倒したけど…まったくこれじゃどっちが狩人やら。
もうこれ以上はいなそう。一旦砦を出て奪った鍵を試してみよう。
そう思ってエイルロンのところに戻る…が、時すでに遅し。
エイルロンは無残にも斬り死にしていた。
斬り捨てたのは…高利貸しのクルダン。
「ちょっとどういう事?勝ったのはこっちよ」
「何だって?お前達は獲物だぜ?生き残ってどうするよ」
つまり始めから生かして帰すつもりは無い、と。
ふぅん。そう。
わたしはまずクルダンの舎弟っぽいのを先に始末すると、滅多に使わない裏技をクルダンに仕掛けた。
タムリエルに生を受けた人はもれなく星座の加護を受けている。
そして更にその星座の加護を強化するための石碑と言うものも存在する。
わたしの生まれは大蛇座。その石碑はわたしの生活拠点であるレヤウィンの南東、ブラックウッドの森にある。
「やめろぉぉぉ…助けてくれぇぇ!」
「無様な悲鳴ね。オーク族はタムリエルでも一、二を争う戦闘種族だと聞いていたけど、誇りはないのかしら?」
わたしの侮蔑がクルダンの耳に届いたかどうか。
星座の力を利用した呪いはさしずめクルダンの身体を締め上げる大蛇さながら。
哀れな獲物はとぐろの中で縛り上げ自由を奪われ、毒持つ牙で命脈を断たれる。
人はこれを「コブラの舞い」と呼んでるらしい。
でもそれだけなら苦悶の声を上げる程度で済んだだろう。
クルダンに無様な悲鳴を上げさせているのは…目の前で暴れるいつもの腐乱死体だ。
動くことも出来ずただ一方的におぞましい死体に殴り殺される…この男にはぴったりだと思わない?
呪術師に喧嘩を売ると言うことの意味をしっかりと噛みしめて貰わないとね。
まぁ噛みしめて後悔して反省してもその教訓を生かせる時は巡ってこないんだけど。
結局砦から帰ってこれたのはわたし一人だった。
…気が重い。これからわたしはおばさんに今日の事を伝えないといけない。
「英雄様は全力を尽くして下さいました…夫も借金さえしなければこんなことにはならなかったんです」
英雄様、か。
確かにクヴァッチの時は何とか上手くいったけど…やっぱりわたしはただの薬売りなんだと思い知らされる。
おばさんは面倒に巻き込んだお詫びに、と一冊の古書をよこす。
「駄目よ、受け取れないわ」
「良いんです。本来は夫の借金返済の助けにと売るつもりの物でしたから。もう必要ないんです」
そう言うと古書をわたしに押し付けると聖堂の方へ向かった。
旦那さんの死を悼むのだろう。わたしに出来ることはもう何も無い。