「さて、どうしようかなぁ」
一旦はレヤウィンへと思っていたんだけど、結局またコロールに戻ってきてしまった。
コロールは居心地の良い街だから、何か問題があるわけじゃないんだけどね。
ただ計画が狂うのはどうも落ち着きが悪い感じがする。
さりとてまたわざわざシェイディンハルを経由してレヤウィンを目指すのもどうなんだろう、と言ったところ。

じゃぁ何時も通りのルートで行商していくことにしようかな。
うん、元々はそうなんだし、それで良いか。
…っと、出発前に魔術師ギルドに顔を出す。

今までわたしはギルドに加入していなかった。
何せわたしの得意ジャンルは呪術、降霊術…ギルドはあまり良い顔をしない系統だ。
加入して因縁つけられるのも面白くないし、無理に入ることも無いかと思っていたんだけど、先日シードさんに勧められて少し考え方を改めた。
やはり商売上信用と言うのは大事なのは分かっているけど、その信用を手っ取り早く得るには肩書きがあると良いと言うのだ。
確かにそうかもしれない。「ただの薬売り」より「魔術師ギルドの錬金術師」の方が身元も確実に聞こえるだろう。

「これは単純なことではない。ギルドの一員となると言うことは相応の責任が伴うことになる。覚悟は良いかね?」
コロール支部の長、ティーキーウスが厳かに問いかけるが、わたしは二つ返事で即答する。
本当に分かってるのか?と言いたげな表情だったけど、結局ギルドの加入は認められた。
一応加入に当たってあれこれと説明を受ける。ギルドのシステムと大学の存在。
…そう言えば大学には構呪の祭壇と付呪の祭壇があって、大学に入学できたら自由に使える、とか聞いた事がある。
何時か大学に行ってみたいわね。編み上げてみたい新術や強烈な呪具のアイデアはいくらでもあるんだ。
ちょっと頑張ってみようかな。まぁ一朝一夕に大学とはいかないだろうから追々やっていこう。

さて、と。それじゃ次は…帝都か。
結局何時ものルート。でも良いよね。何時もと同じ変わりなく、つつがなく。最近は厄介事が多くて慌ただしかったけど、それもお仕舞。
国の御家騒ぎやオブリビオンゲートなんてわたしの身の丈に合わない事ばかりだわ。

昼過ぎに帝都は商業区に到着。
帝都は流石に商店も多く、活気に満ちている。
わたしは何時も馴染みの錬金店に足を運ぶ。
「お?やぁ毎度」
今日はあまり…と言うか全然お客さんがいないみたいね。
何時もの通り霊薬を卸し、そしてわたしも薬の素材になる材料を購入する。
「今日は随分と静かね」
わたしの何気ない一言が始まりだった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………そうなんだよ」
店主が盛大な溜息と共に呟く。
何でも最近この商業区に新しい店が出来たらしい。それは構わないんだけど、そこの品揃えが凄いらしく何でも取扱っていて、さらに価格も激安。
お蔭でこの錬金店だけじゃなく、近隣のお店は軒並み廃業寸前に追い込まれているらしい。
そんなに凄いお店があるのか…どんなお店なんだろ?
興味が沸いたわたしは何時もの買い出しのついでにそこも見て回ることにした。
あれか。コピアス商店。中に入ると中々の繁盛ぶり。店主は…ボズマーの男の人。
品揃えも確かに豊富みたいで、武器や鎧もあれば錬金素材も扱っている。
百貨店と言えば聞こえは良いけど、何と言うか節操の無い店ね。
商品知識とか大丈夫なのかしら?普通百貨店と言えば複数のお店が寄り合って一つの店舗を構えてるものだけど、ここはあの男一人で切り盛りしてる。
わたしは特に何も買わずにそこを後にした。

後は何時も通り魔術用品店と掘り出し物を求めて中古品店へ。
「おや、お久しぶり」
中古品店のおばさん、ジェンシーンがほっとしたように挨拶してくる。やっぱりここもあのお店に煮え湯を飲まされているのだろう。
確かにあの店の割引率は凄いもので、この中古品店よりも安い。
信じられるだろうか?中古品より安い新品があるなんて。
ジェンシーンもそのことをぼやいていた。
何でもあまり客足に差が出ないよう帝都のお店は互助会を設けてある程度皆利益が確保できるようにしているらしいんだけど、例の新店はその互助会にすら入ろうとしないと言う。
「ありゃ絶対裏で何かよからぬことをしてるよ。じゃなきゃあんな値段で物を売れるわけがないんだ」
話はここで終わればただの愚痴ですんだはずなんだけど…。

「ねぇアンタ。ちょっと手伝ってくれないかい?ちょっとあの店を調べて欲しいんだよ」
わたしは帝都の人間じゃないから疑われずにお店に近付けるだろう、と言うのだ。
う…またしても厄介事の気配…。どうしようかなぁ…でも商売相手と信用を強くするチャンスと言えばそうなるのか。
「じゃぁちょっと様子を見てみるわ」
解決までできるか分からないと念を押して少しだけお手伝いすることにした。

改めてコピアス商店へ。
「随分と安いのね。こんな価格で大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
店主のソロニールは自信たっぷりに言い切る。
どこでこんな商品を見付けてくるのか聞いてみたけど、そこは当然教えてくれなかった。
ま、そりゃそうよね。
取り敢えずどこから仕入れてるのか、それが分かればいいんだけど。

閉店後にソロニールの足取りを追う。
まずは近所の宿で夕食。ワインを一杯ひっかけたら街中を散歩。
…そして自分のお店の裏手へ。今日は仕入れは無しか。
と思ったんだけど、そのお店の裏手で待ち構えている男がいて、何事か話し込み始める。
裏取引 
聞いてみると、どうも商品の納入についてらしい。この男が仕入れ先か。何だか商売人にしてはちょっとガラが悪い。
人相もそうだし、話し方も…接客には向いてなさそう。
とにかくこの男だ。どこの誰なんだか分からないとどう言う仕入れ先なのか分からない。
この男を観察していたけど、そのまま男は帰宅。
家は普通の住宅で、ここで何か商売しているようには見えない。別の所で仕事してるのかしら?

翌日もその男を見ていたけど、何か仕事をしているようでは無かった。じゃぁやっぱり家の中で内職してることになるのかしら?
何だか良く分からない。
わたしはこの男…表札を見るとアガマーと言うらしい…の家に無許可でお邪魔することにした。
でも家の中に何かの作業所とかがある訳でも無いみたい…。
と思って地下まで来たところでわたしは見てしまった。
「何これ、骨粉じゃない」
何で骨粉が?しかもかなり大量にあちこちにぱらぱらと落ちている。
そして土の付いたスコップ。
…こいつまさか死霊術師?
テーブルの上にかなり分厚い本が置いてある。
それを見てみると…帝都だけじゃない、各都市の埋葬者とその副葬品が書き込まれた帳面だった。
…まさか、ねぇ。これだったらまだ死霊術師の方がマシだ。
このリスト、如何にも墓を暴いてますと言ったこの部屋の様子。
あんまり考えたくないけど…恐らくソロニールの扱ってる商品は…死者の副葬品だ。
わたしはこのリストを持ち出すと改めてソロニールに会った。
「貴方の取引相手だけど…こんなの持ってたわよ?」
リストに目を通したソロニールは血の気が引く。
「何…だと…」
どうもこのリストに有った品が納入されていたらしい。
「こんな馬鹿な…だがそうなんだな。いくら知らぬ事とは言え…くっ」
苦悩するソロニール。
「頼む、奴を…アガマーを止めてくれ。いくら何でもこれは許されることじゃない」
わたしはソロニールからアガマーのスケジュール…つまり墓暴きの日取りを教えてもらうと…次の墓暴き現場へと向かった。
とある霊廟の中で相対するわたしとアガマー。
「待ってたぜ?アンタが嗅ぎ回ってるのは気付いてたさ。だからこっちも相応の準備ってやつをしてたんだ」
そして物陰からのっそりと出てくる鎧の大男。
「お前さんへのプレゼントさ。俺から贈れるのはこの無名の墓だけだからな!」
ぱっと見、二対一。でもここは霊廟。わたしにとっては好都合。
霊を降ろすのに事欠かない。
わたしは何時もの様にマジカを込めて地面を踏み鳴らす。
たん!と高い音を立てて踏み込まれたところから首の無い亡者が起き上がる。

「アガマーとその仲間、ここに眠る、っと」
わたしの為に掘ったと言う墓穴に二人の男を詰め込んで霊廟を後にする。
ソロニールとジェンシーンに全て終わったことを伝える。
…そう言えばわたしがここまですることは無かったような?
墓暴きをしてることが分かった時点で衛兵に相談すればわたしが危ない事をするまでも無かったんじゃ…?
…全ては後の祭り、か。

結局ソロニールはこれまでの事を悔い改め、互助会にも参加して真っ当な商売をすることにしたと言うし、結果としては上々よね。
しっかし、わたしも何だか…随分厄介事に巻き込まれやすい体質になったみたいね。これからはちょっと気を付けないと。