「あ゛ー……飲み過ぎたかも」
翌日昼頃になって宿を発ったわたし。
昨夜調子に乗って飲み過ぎたわね…別に二日酔いとかは大丈夫だけど。
わたしはお酒の後に必ず自作の霊薬を一つ飲むようにしてるからね。
この薬は自信作!内臓へのアルコール負担を軽減する効能がある。
そのお蔭で翌日に気分が悪いとかそう言うのは無くなるんだけど、酔いそのものをどうにかするものじゃないので、この様に爆睡の末、寝坊してしまうことが稀に良くある。
まぁ薬売りなんて自営業の上、店を構えてるわけでも無いからそこまで深刻になることもない。

それはともかくシェイディンハルだ。
帝都を横目に湖の外周をぽくぽくと馬で歩く。
わたしは別に馬に乗れないとか、馬が嫌いってわけじゃないんだけど、どうもこの馬と言うのは性に合わない。
何と言うか一々面倒臭いのだ。街から街へと移動する際にも途中の山とかで薬草を摘んだりするんだけど、馬に乗ってるとどうも小回りが利かない。
良さげな素材を見付ける度に馬から降りるのが煩わしい。
そうこうしている内に日が傾いてきた。この分じゃ今日中にシェイディンハル入りは無理そうね。

わたしは近くの集落で宿を取ることに決めると、見えてきた農村に足を踏み入れた。
「…?」
何だろう?この変な感じ。誰も居ないのに人の気配がする。
家の中からこっちをじっと伺ってる、とかそう言うのじゃない。そこらに普通に人が歩いてるような気配。
ふと畑を見ると…鍬がダイナミックに宙を舞い畑を耕している。
お分かり頂けるだろうか 

「何これ?」
この農村に魔術師でもいて、自動鍬でも作ったのかしら?
物珍しさに負けて近寄って観察してみる。
「おい危ねぇぞ」
「え?」
鍬からの声じゃない。

話を聞くにどうやらこの農村、今透明化の呪いに掛かってるんだそうな。
わたしは夕暮れ迫る宿の一室で透明人間を相手に話を聞いている。
この村の近くに陣取ってるアンコターなる魔術師が日夜おかしな研究に明け暮れ、その余波と言うか影響を受けて迷惑してるんだとか。
「今回の透明騒ぎも初めは皆面白がってたんだけどさ、中々元に戻らないんだよ。そうなるとここが幽霊村だとかヘンな噂がたったりするだろう?そうなると困るんだよ」

…魔術師の風上にも置けないヤツね。
わたしも降霊術とかシロディールではご禁制っぽい、あまり真っ当な術を使うタイプではないけど、魔法は人様の役に立ってこそ、と言うのがわたしの信条だ。
確かに死霊術なんかは傍から見てると気味悪いって言うのは良く分かるけどね。
どこだったかで死霊術の真の目的は死者蘇生だ、なんてことも聞いた事はあるけど、良く目にするのは死体を労働力や兵力にしている場面だから誤解も多いのだろう。
まぁそれはさて置き、魔法で人様に迷惑かけるのは捨て置けないわね。
こう言うことの積み重ねで魔法の存在が疎まれたり、それこそ死霊術の様に当局からヘンな規制がかかったりするとわたしも迷惑だ。
そのアンコターとやらが何をやってるのかちょっと様子を見てみようか。

わたしは魔術師が陣取ると言う近くの廃砦を訪ねた。
呼びかけてみても返事は無い。ここにはいないのか?
そう思って砦の内側にお邪魔する。
アンコターと言うのは余程警戒心が強いのか、砦内には小鬼が放たれていた。
わたしは念を込めて地面をたん!と踏み鳴らす。
それを合図にわたしのマジカが人型を成す…はずだったんだけど、中途半端な形になってしまった。
見た目は首の無い腐乱死体。俗に言う首無しゾンビってやつだ。
中々上手くいかないわね。骸骨兵よりは強くなってるのは間違いないはずだけど。
わたしがやってるのは傍目からしたら死霊術っぽいけど、そうじゃない。
呪術による降霊がわたしの術の正体だ。
わたしのマジカで”器”を造り、そこに霊を降ろして使役してるんだけど…わたしのイメージする完成形にはまだ届かない。
とは言え骸骨兵よりは大幅に強い霊を固定出来てるみたいだから、少しは進歩したと思っていいのかな。
首無し死体は小鬼をものともせずに殴り飛ばす。

砦内に魔術師の姿が見えたので話を聞いてみようとしたんだけど、どうもアンコターに間違われたのが心外だったのか、いきなり争いに。
何もそんなに怒らなくても良いと思うんだけど。それともアンコターって余程酷い人なのか?

結局アンコターは見つからず、諦めて一旦外へ。どこにいるのかしら?と思ってたら上の方から何かの音がする。
呼びかけに気付かない程何かに集中してたのかしら?
でも砦の2階部分に来てみたんだけど…誰もいない。
「誰だ!またボクの研究を邪魔しに来たのか!?」
…こいつもか。
どうやら自分自身も透明化していただけみたいね。

わたしはアンコターに村の事を伝える。
「んん?この術を解いてほしい?放っておいても解けるよ?」
どのくらい続くのか聞いてみると1~2年だと言う。流石にそこまで待ってはくれないだろうな。
「うーん、そこまで言うならこれを使うと良いんじゃないかな?」
そう言うと解呪法を記した書と、その際に使う指輪を持ってくる。
こんなのがあるなら先に言いなさいよね。

わたしは農村に戻って指輪をすると早速解呪法を施術する。
「いやー助かりましたよ!いやほんとに。自分の姿が見えるってのは良いもんですねぇ」
効果の程を確認するために宿に戻ると主人の姿が見えるようになっていた。
ちゃんと効いたみたいね。
宿の主人は事件の解決に感激して今後は宿代を免除してくれると言う。有難い話ね。
そして今回の事を祝して、と酒盛りまで始まる。
うん、良い事をした後のお酒は格別よね。
こうして小さな農村の夜は更けていく。