「どうしようかなぁ」
ダルの一件は無事解決したんだけど、まだちょっと困り事が残っている。
あの謎の手紙だ。
グレイフォックスからと言うことは盗賊絡みなのは間違いないと思うけど、そんなものを貰う覚えも無い。
さりとて無視しても大丈夫なものかと言うと、そこに確信は持てない。
少なくとも見知らぬ誰かが間違いなくわたしの居場所を探り当てて訪ねてくるくらいだから、何らかの情報網があるんだと思う。
シカトこいて向こうの気分を害したせいでおかしな連中に付き纏われるのは御免こうむりたい。
…やはり一度出向いて相手を確認するべきか。
そう結論したわたしは夜中の帝都波止場区へと出向く。

指定された場所に行くと胡散臭い連中がたむろしている。
盗賊の集い 

「これを寄越したのは貴方達で間違いないのかしら?」
わたしは貰った手紙を連中に突き出す。
真ん中で松明を持った男が手紙に目を通す。
「ふむ、招待状を受け取ったか」
その男、アーマンドは盗賊ギルドの幹部だと名乗り、わたしはそのギルドへの加入資格を得たのだと言う。
「人違いじゃないの?わたしこんなの受け取る理由なんて無いはずだけど?」
「我々の情報網を甘く見ないで貰いたいものだな。覚えがない、と言うことは無いだろう。お前はブルーマで窃盗をし、投獄されたはずだ」

そう言われて少し黙考。
…え!?アレのせいだっていうの?
確かに先日、ジョランダーから話を聞くためにワザと投獄されるよう仕向けたけど…。
わたしが何の為に盗みを働いたか、まではその「甘く見ちゃいけない情報網」とやらでは分からなかったのだろうか?
「どうやら思い出したようだな。納得したようだし話を進めるぞ」
「ちょっと待って、わたしは貴方達の仲間になる気は無いわよ」
「…ほう?だがここまで来た以上後戻りが出来るとも思ってはおるまい?」
わたしがギルド参加を拒否しようとしたらアーマンドは脅しをかけてきた。
四六時中ギルド員に付け狙わせると言うのだ。
う…それは嫌な話ね…常に盗人に気を付けてないといけない生活を想像するだけで…うんざりする。
はぁ…何でこうなるかなぁ…。
わたしは諦めてギルドに入ることにした。

「さて、では本題に入ろうか」
と言うことでアーマンドはわたし達を見る。
どうもこのたむろしていた連中で盗賊ギルドのメンバーはアーマンドだけらしい。
わたしを含め残りは盗賊ギルド参加希望者ってわけだ。
そして希望者が一度にこれだけ集まるのは稀な事らしく、本来ならこのアーマンドの所に辿り着くだけで合格なんだけど、今回は更に試験をすると言い出した。
それを聞いて一部からブーイングが出るも、そんなことはお構いなしに話は続く。
「この帝都にアマンテゥアスと言う奴がいる。そいつの日記を明日のこの時間、ここに持って来い」
ふぅん。試験ねぇ…つまり適当に流してワザと落第すればおさらばできるってこと、よね。
そう思ったんだけど…受験者に一人、わたしと同じボズマーの女がいた…それは一向に構わない。
でも、その女あろうことかわたしを挑発して走り去って行った。
…むか…。
多分同族同性のわたしに負けたくないとでも思ったのだろうけど…何かむかつくわね。
あの女許すまじ、と言うことで気付いたら何時の間にか傍で爆睡していた物乞いを叩き起こすとちょっと多めに小銭を握らせる。
「こりゃありがたい。アマンティアスの家は…」
それが分かれば充分。
わたしはあの女に目に物をみせてやろうと走り出した。

「はっ!ノロいんだよ(にやり)」
くそ…タッチの差で先を越された…。帝都をあまり知らないわたしにとって不利な勝負なのは分かっていたけど…。
わたしは何も得る物なくアマンティアスの家を出る。
このままあの女が日記を持って行って終わりか、と思って波止場区に戻ってみたんだけど、待てど暮らせどあいつは戻ってこない。
その内夜も明けて…盗賊ギルドの集会はお開き。

何かあったのかしら?
と言うことは…まだあいつの鼻を明かすチャンスはあるわけね。
とは言ってもどこのどいつかも知らないのよねぇ…と思ったら、戻ってきた…。
そして一軒の小屋に入って行く。
その小屋があいつの隠れ家?みたいなものなのかしら?
しばらくその小屋を見ていても出てくる様子も無い。
ちょっと近寄って中の気配を探ってみるけど、静まり返っている。
どうなってるのかしら?
わたしは近くを通りがかった物乞いにちょっと小銭を恵んで話を聞いてみる。
「ねぇそこの小屋の人ってどんな人?」
帰ってきた答えによると、完全夜型で、朝方帰ってきて昼くらいまで寝てる。夕方になると近くの船宿に繰り出すらしい。
なるほど、つまり今頃は寝てるってことか。
くくく…面白い話を聞いたわね。

わたしは鍵をピッキングするとこっそりと忍び込んでみる。
何でピッキングが出来るかって?そんなの乙女の嗜みに決まってるじゃない。
…おー、ほんとに寝てるわ。
ちょっと家探ししてそれっぽい日記を見付ける。
わたしはモノを頂くと早々に小屋を出た。
しかし日記なんて持ってこさせてどうするつもりなのかしらね?
わたしは何の気も無く日記をパラ見すると、そこにはとんでもない事が書かれていた。
どうもこれは日記じゃなく、研究日誌だったみたい。
しかも何の研究かと思えば…吸血鬼の要素を植物に賦与した、いわば吸血植物の研究だ。
そんなもの生み出してどうする気なのかしら?
研究は頓挫してしまったようなので、完成形がどう言うものになるのかまでは読み取れなかったけど、生命魔術の研究にしては物騒なのは間違いないわね。

「くそったれ!日記を盗んだわね!」
あの女、メスレデルの罵声で今日もご飯が美味しい。世に言うメシウマと言うヤツね。
わたしはその晩、盗賊ギルドの集会でアマンティアスの日記をアーマンドに渡す。
「良くやった。お前も晴れて盗賊ギルドの一員だ!」
その言葉を聞いて、しまった!と思った。
試験に落第してフェードアウトするはずだったのに…。
何でこうなるかなぁ…。
アーマンドによる盗賊ギルドの説明を聞きながらわたしは嘆息した。