ブルーマから馬を走らせ辿り着いたのはコロールだった。
出発が夕暮れ時だったから、もはや夜も更けている。
何でコロールに来たのかと言われても特に理由は無い。
シェイディンハルでも良かったし、帝都でも良かった。
ただ何となく戻ってきた、と言ったところか。
そろそろ日付も変わろうと言う頃だったから、宿を取ってすぐに床に就く。
さてこれからどうしようかなぁ、と思いながら眠りについたはずだったけど、それは不意な来客によって妨げられた。
「友人からだ」
と言って見知らぬダンマーのおばさんがわたし宛の手紙を渡す。
一体何なのよ…こんな時間に。
寝ぼけ眼で手紙の封を切り、中を確認する。
文面は至って怪しい。
何か犯罪を助長するような、盗みをする者に朗報、みたいな内容だった。
何だか気味悪いわね。一体何なのよ。
差出人を見ると…そこにはグレイフォックスの名が。
グレイフォックス…まさか知らない人もいないと思うけど伝説的な大盗賊の名だ。
一体何で?悪戯?全く真意が見えない。
そもそも何でわたしにこんな手紙を寄越す必要があるのか。
表向きは薬売り、本業は呪術師。そんなわたしに盗賊からのお誘いが来るとは思えない。
考えても答えは出そうになかったので、わたしは考えることをやめた。
そして翌日。
アルノラの一件で手に入れた値打ち物を捌くために雑貨屋に行った時の事だった。
「娘が行方不明なの」
コロールで有名なアルゴニアン母娘が経営する、と言っても実際商売してるのは母親のシードさんだけど。
まぁそれはともかく、この雑貨屋の看板娘ことダル=マがお遣いに出たっきり帰ってこないと言う。
ここの母娘はわたしが薬の行商をする際にもご贔屓にしてもらっているいる卸先で、もちろんダルとも顔見知りだ。
人懐っこい娘で誰からも好かれる良い子だと思う。
お得意さんが困ってるとあっては見過ごせない。人探しなんて専門外だけど一肌脱ぐとしますか。
ダルがお遣いに行ったのはコロールから少し南の…ハックダートと呼ばれる隠れ里だ。
場所を教えてもらって取り敢えず里に向かう。
結構な山道ね。獣道すら無いようなこんな辺鄙な所に良く住み着いたものだわ。
山林を抜けてハックダートに辿り着く。
隠れ里だけあって小さな集落だ。
ダルがお遣いに行ったのはここの雑貨屋だと言うけど…。
「よそ者は出ていきな」
店に入るなりいきなりこれだ。商売する気、あるのかしら?
いきなりなご挨拶だけど、こちらも長居する気は無い。
ダルの事を聞いてみたんだけど、店のおばさんはまた怒り出す。
「あの小娘のことか?まったく!何時になったら品物を納品しにくるんだい!これじゃ商売にならないよ!」
何でもお遣いに来るはずのダルはまだ来ていないと言う。
途中で何かあったとか?来る道すがらでそれっぽい跡は見なかったと思うけど…狼や場合によっては山賊に襲われたとか?
朝一でコロールを出てきたから頃合いはまだ昼前。時間はある。
少しあたりの林を探してみるか?
結構探したけどやっぱり痕跡は見つからない。
わたしはちょっと休憩するためにハックダートに戻り、宿で休憩させてもらう。
これはちょっと厄介なことになってきたみたいね。
少なくともこの辺りで何かあったようには見えない。でも雑貨屋には来てないと言う。
今日はここで一泊してもう少し探してみるか。
そう思って部屋を借りるついでに宿のおじさんにも聞いてみる。
「ねぇ、ダル=マって子、探してるんだけど、何か知らない?」
「アルゴニアンの娘?知らんなぁ。そもそも若い娘なんて見かけないし、もし知っていても何でわしが行方不明のことを知ってなくちゃならんのだ!おかしなことを言うなら出ていけ!」
何故か仕舞には怒り出す始末。
でも…何かおかしな感じがする。別にこのおじさんを疑ったりしたつもりもないんだけど…少し仕草とか雰囲気にうっすらと怪しさが滲み出てる気がする。
多分この隠れ里で、やっぱり何かあったんじゃないだろうか?
わたしは一休みすると念の為隠れ里を見て回ることにした。
この里には何軒かの家と聖堂が一つ。あとは雑貨屋と宿だけだ。
まだ日が沈むには早すぎる時間だけど、人の気配は少ない。
取り敢えずこう言う時の定番、聖堂に入ってみる。
今は司祭も参拝客もおらず無人。
ただ経典が一冊、ぽつねんと置かれてるだけだ。
経典を見てみると、シロディールでは使われていない言葉であれこれ書いてあった。
流石に読めないので内容は分からない。隠れ里ってくらいだから、何か宗教的な理由でもあるのかしらね?
得る物も無かったので聖堂から出ると老人が一人…わたしに近付いてくる。
「日が暮れたらわしの家…あそこの小屋に来てくれ」
ぼそりと小さく呟くとそのまま去って行った。
一体何かしら?今じゃ駄目なの?
でもあの老人、ダルについて何か知ってるようね。じゃなければわたしに近付いたりはしないだろう。
取り敢えず日暮れまで宿でゆっくりとしようかな。
そう思って引き揚げて借りた部屋でちょっとうたた寝…。
「痛っ!?」
いきなり何かに叩かれた、と言うか殴られた!
目を覚ますと棍棒を振り上げた半裸の男が!何事!?
驚いたわたしは無意識のうちに床をだんっ!と踏み鳴らすをその踏み込んだ所から骸骨兵が湧き出る。
骸骨兵に前を任せて態勢を整える。とは言っても狭い宿の一室、弓なんてそう易々と撃たせてもらえない。
一撃で決める!
一体何だったの?骸骨兵と共に動かなくなった半裸の男を見下ろす。
割としぶとい奴らしく、一撃とはいかなかったけど何とか撃退する。
物取り…って言うか強盗?わたしの荷物は漁られてなさそうだし、いきなりわたしを殴った理由が良く分からない。
…そう言えばこの部屋の向かい、相当荒れてたけど…誰かが泊まった時に同じように襲われたりしたのかしら?
そう思って向かいの部屋を見てみる。
家具と言う家具がひっくり返って一体何があったのやら。しかも片づける気も無いらしい。宿を経営する気、あるのかしら。
わたしはひっくり返った箪笥に挟まってた一冊のノートを手に取る。
え、これって。
ぱら見して意外なことに驚く。
何とこのノート、ダルの日記だ。ちゃんとこの里に来ていたんだ。
でも雑貨屋のおばさんも宿のおじさんも知らないと言う…特に宿のおじさんは泊めたにも関わらずシラを切ってたことになる。
外を見るとうたた寝が長かったのかもう夕暮れ時。
…あのおじいさんを訪ねるに丁度良い頃か。
「あの娘を助けてやってくれ。このままでは危ない」
老人が語り始めるはこの里のこと。
ここでは深き者と呼ばれる謎の生物を崇めているらしい。
で、それを復活させるための生贄にダルを捧げるつもりだと言う。
わたしを襲った半裸の男はその深き者に近付こうと地下で生活している近き者と呼ばれる…言ってみれば熱心な信者、とでも言う存在らしい。
「あの娘は地下に捕えられておる。近き者が見張っているから気を付けなされ」
そう教えてくれると鍵を一つ。
「宿の地下室からが一番牢に近い。そこから行かれよ」
わたしはお礼を言って宿に戻る。
宿のおじさんは出かけたのか、居なくなっていた。まぁ好都合ね。
教えてもらった通り宿から地下室に降りるとすぐ傍に牢があり、ダルが捕まっていた。
「助けに来たわよ」
「お願い出して!宿で寝てたら襲われてこんなところに!」
「分かったから静かにして。あいつらに見付かるわよ」
そう言うとダルは言葉を飲み込んだ。
牢の鍵も地下室と同じものだったようで、貰った鍵であっさりと開く。
「さ、帰りましょ」
わたしはそのまま宿の地下室を通って宿の1階を通り外に出る。
「そう言えば私の馬、知りませんか?こんな所に置いていけない」
あぁ…そう言えば馬がどうとかシードさんも言ってたっけ…
でも馬、ねぇ?見かけたのは雑貨屋裏手の厩くらいだけど、それかしら?
一応そこに連れてって本人に確認してもらう。
ダルはほっとした様子で馬に跨る。どうやらこの馬で間違いなかったみたいね。
わたしも馬に乗ると先導して夜の林を進む。
森に慣れたボズマーのわたしなら夜でも普通に走れるけど、ダルにそこまでの馬術を求めるのも酷と言うもの。
ゆっくりと馬を歩かせる。
ハックダートを出たのが夜も更けた頃だったから、コロールに帰り付いた頃にはもう日付が変わりそうな時間になっていた。
でも無事到着。ダルも緊張が解けてほっとした様子だ。
ここまでくればもう安心ね。雑貨屋はコロールの表門から見える位置だ。衛兵もいるしそうそう何も起こらないだろう。
わたしはそれでも念の為ダルを雑貨屋まで送り届ける。
この日からコロールの雑貨屋ノーザングッズ商店とは良き商売相手になった。
やっぱり商売の基本は信頼関係よね。
出発が夕暮れ時だったから、もはや夜も更けている。
何でコロールに来たのかと言われても特に理由は無い。
シェイディンハルでも良かったし、帝都でも良かった。
ただ何となく戻ってきた、と言ったところか。
そろそろ日付も変わろうと言う頃だったから、宿を取ってすぐに床に就く。
さてこれからどうしようかなぁ、と思いながら眠りについたはずだったけど、それは不意な来客によって妨げられた。
「友人からだ」
と言って見知らぬダンマーのおばさんがわたし宛の手紙を渡す。
一体何なのよ…こんな時間に。
寝ぼけ眼で手紙の封を切り、中を確認する。
文面は至って怪しい。
何か犯罪を助長するような、盗みをする者に朗報、みたいな内容だった。
何だか気味悪いわね。一体何なのよ。
差出人を見ると…そこにはグレイフォックスの名が。
グレイフォックス…まさか知らない人もいないと思うけど伝説的な大盗賊の名だ。
一体何で?悪戯?全く真意が見えない。
そもそも何でわたしにこんな手紙を寄越す必要があるのか。
表向きは薬売り、本業は呪術師。そんなわたしに盗賊からのお誘いが来るとは思えない。
考えても答えは出そうになかったので、わたしは考えることをやめた。
そして翌日。
アルノラの一件で手に入れた値打ち物を捌くために雑貨屋に行った時の事だった。
「娘が行方不明なの」
コロールで有名なアルゴニアン母娘が経営する、と言っても実際商売してるのは母親のシードさんだけど。
まぁそれはともかく、この雑貨屋の看板娘ことダル=マがお遣いに出たっきり帰ってこないと言う。
ここの母娘はわたしが薬の行商をする際にもご贔屓にしてもらっているいる卸先で、もちろんダルとも顔見知りだ。
人懐っこい娘で誰からも好かれる良い子だと思う。

お得意さんが困ってるとあっては見過ごせない。人探しなんて専門外だけど一肌脱ぐとしますか。
ダルがお遣いに行ったのはコロールから少し南の…ハックダートと呼ばれる隠れ里だ。
場所を教えてもらって取り敢えず里に向かう。
結構な山道ね。獣道すら無いようなこんな辺鄙な所に良く住み着いたものだわ。
山林を抜けてハックダートに辿り着く。
隠れ里だけあって小さな集落だ。
ダルがお遣いに行ったのはここの雑貨屋だと言うけど…。
「よそ者は出ていきな」
店に入るなりいきなりこれだ。商売する気、あるのかしら?
いきなりなご挨拶だけど、こちらも長居する気は無い。
ダルの事を聞いてみたんだけど、店のおばさんはまた怒り出す。
「あの小娘のことか?まったく!何時になったら品物を納品しにくるんだい!これじゃ商売にならないよ!」
何でもお遣いに来るはずのダルはまだ来ていないと言う。
途中で何かあったとか?来る道すがらでそれっぽい跡は見なかったと思うけど…狼や場合によっては山賊に襲われたとか?
朝一でコロールを出てきたから頃合いはまだ昼前。時間はある。
少しあたりの林を探してみるか?
結構探したけどやっぱり痕跡は見つからない。
わたしはちょっと休憩するためにハックダートに戻り、宿で休憩させてもらう。
これはちょっと厄介なことになってきたみたいね。
少なくともこの辺りで何かあったようには見えない。でも雑貨屋には来てないと言う。
今日はここで一泊してもう少し探してみるか。
そう思って部屋を借りるついでに宿のおじさんにも聞いてみる。
「ねぇ、ダル=マって子、探してるんだけど、何か知らない?」
「アルゴニアンの娘?知らんなぁ。そもそも若い娘なんて見かけないし、もし知っていても何でわしが行方不明のことを知ってなくちゃならんのだ!おかしなことを言うなら出ていけ!」
何故か仕舞には怒り出す始末。
でも…何かおかしな感じがする。別にこのおじさんを疑ったりしたつもりもないんだけど…少し仕草とか雰囲気にうっすらと怪しさが滲み出てる気がする。
多分この隠れ里で、やっぱり何かあったんじゃないだろうか?
わたしは一休みすると念の為隠れ里を見て回ることにした。
この里には何軒かの家と聖堂が一つ。あとは雑貨屋と宿だけだ。
まだ日が沈むには早すぎる時間だけど、人の気配は少ない。
取り敢えずこう言う時の定番、聖堂に入ってみる。
今は司祭も参拝客もおらず無人。
ただ経典が一冊、ぽつねんと置かれてるだけだ。
経典を見てみると、シロディールでは使われていない言葉であれこれ書いてあった。
流石に読めないので内容は分からない。隠れ里ってくらいだから、何か宗教的な理由でもあるのかしらね?
得る物も無かったので聖堂から出ると老人が一人…わたしに近付いてくる。
「日が暮れたらわしの家…あそこの小屋に来てくれ」
ぼそりと小さく呟くとそのまま去って行った。
一体何かしら?今じゃ駄目なの?
でもあの老人、ダルについて何か知ってるようね。じゃなければわたしに近付いたりはしないだろう。
取り敢えず日暮れまで宿でゆっくりとしようかな。
そう思って引き揚げて借りた部屋でちょっとうたた寝…。
「痛っ!?」
いきなり何かに叩かれた、と言うか殴られた!
目を覚ますと棍棒を振り上げた半裸の男が!何事!?
驚いたわたしは無意識のうちに床をだんっ!と踏み鳴らすをその踏み込んだ所から骸骨兵が湧き出る。
骸骨兵に前を任せて態勢を整える。とは言っても狭い宿の一室、弓なんてそう易々と撃たせてもらえない。
一撃で決める!

一体何だったの?骸骨兵と共に動かなくなった半裸の男を見下ろす。
割としぶとい奴らしく、一撃とはいかなかったけど何とか撃退する。
物取り…って言うか強盗?わたしの荷物は漁られてなさそうだし、いきなりわたしを殴った理由が良く分からない。
…そう言えばこの部屋の向かい、相当荒れてたけど…誰かが泊まった時に同じように襲われたりしたのかしら?
そう思って向かいの部屋を見てみる。
家具と言う家具がひっくり返って一体何があったのやら。しかも片づける気も無いらしい。宿を経営する気、あるのかしら。
わたしはひっくり返った箪笥に挟まってた一冊のノートを手に取る。
え、これって。
ぱら見して意外なことに驚く。
何とこのノート、ダルの日記だ。ちゃんとこの里に来ていたんだ。
でも雑貨屋のおばさんも宿のおじさんも知らないと言う…特に宿のおじさんは泊めたにも関わらずシラを切ってたことになる。
外を見るとうたた寝が長かったのかもう夕暮れ時。
…あのおじいさんを訪ねるに丁度良い頃か。
「あの娘を助けてやってくれ。このままでは危ない」
老人が語り始めるはこの里のこと。
ここでは深き者と呼ばれる謎の生物を崇めているらしい。
で、それを復活させるための生贄にダルを捧げるつもりだと言う。
わたしを襲った半裸の男はその深き者に近付こうと地下で生活している近き者と呼ばれる…言ってみれば熱心な信者、とでも言う存在らしい。
「あの娘は地下に捕えられておる。近き者が見張っているから気を付けなされ」
そう教えてくれると鍵を一つ。
「宿の地下室からが一番牢に近い。そこから行かれよ」
わたしはお礼を言って宿に戻る。
宿のおじさんは出かけたのか、居なくなっていた。まぁ好都合ね。
教えてもらった通り宿から地下室に降りるとすぐ傍に牢があり、ダルが捕まっていた。
「助けに来たわよ」
「お願い出して!宿で寝てたら襲われてこんなところに!」
「分かったから静かにして。あいつらに見付かるわよ」
そう言うとダルは言葉を飲み込んだ。
牢の鍵も地下室と同じものだったようで、貰った鍵であっさりと開く。
「さ、帰りましょ」
わたしはそのまま宿の地下室を通って宿の1階を通り外に出る。
「そう言えば私の馬、知りませんか?こんな所に置いていけない」
あぁ…そう言えば馬がどうとかシードさんも言ってたっけ…
でも馬、ねぇ?見かけたのは雑貨屋裏手の厩くらいだけど、それかしら?
一応そこに連れてって本人に確認してもらう。
ダルはほっとした様子で馬に跨る。どうやらこの馬で間違いなかったみたいね。
わたしも馬に乗ると先導して夜の林を進む。
森に慣れたボズマーのわたしなら夜でも普通に走れるけど、ダルにそこまでの馬術を求めるのも酷と言うもの。
ゆっくりと馬を歩かせる。
ハックダートを出たのが夜も更けた頃だったから、コロールに帰り付いた頃にはもう日付が変わりそうな時間になっていた。
でも無事到着。ダルも緊張が解けてほっとした様子だ。
ここまでくればもう安心ね。雑貨屋はコロールの表門から見える位置だ。衛兵もいるしそうそう何も起こらないだろう。
わたしはそれでも念の為ダルを雑貨屋まで送り届ける。
この日からコロールの雑貨屋ノーザングッズ商店とは良き商売相手になった。
やっぱり商売の基本は信頼関係よね。