グラアシアのことはあんな結果になってしまってちょっと落ち込み気分だけど、わたしはクヴァッチへと馬を進める。

「おい!あんた、早く逃げるんだよ」
アルトマーの男が大慌てで走ってきた。
息を切らせたその人が言うにはクヴァッチの目の前にオブリビオンゲートが開いて、全てを破壊してしまったと言う。
「もうここは駄目だ!俺は逃げるぞ!」
そう言い残して振り返ることも無く走り去ってしまった。
オブリビオンゲート?街が全壊?
俄かには信じられない話だけど…確かにクヴァッチの手前に難民キャンプが出来上がっていた。
そこにいる人達は皆一様にくたびれた表情と煤けた格好をしていた。
「神は我々を見捨てたのか…」
絶望に折れる修道士を脇目にクヴァッチの街を目指す。

クヴァッチは小高い丘の上にある街。
わたしはその丘を登って行く。
「おい、こっちに来ちゃいかん!危険だぞ!」
一人の衛兵に制止される。
その人はこのクヴァッチの衛兵長、サヴリアンだった。
彼が言うに昨夜突如としてオブリビオンゲートが開いて、無数のデイドラが押し寄せてきたと言う。
そして街は全壊。住人の大半も殺戮の海に飲まれた…。
そして今は数少ない生き残りと、街の中にいるかもしれない生き残りを救出するために戦ってい
ると言う。

「くそ…あのゲートさえどうにかできれば…」
サヴリアンは毒づく。
その視線を追ってわたしもゲートとやらを見る。
街を守る城壁、そして唯一の城門の前には赤々と燃えるようなオブリビオンゲート。

オブリビオンゲート 


…わたしも初めて見た…吐き気のするような赤。
それを見た時にわたしの頭の中でマカダミアナッツの様な何かが弾けたような気がした…。
「青き清浄なる世界の為に!!」
「あ!おい!待て…!」
誰かに止められたような気がしたけど、多分気のせい。知らないけどきっとそう。
わたしはゲートに向かって走り出した。

ゲートに飛び込むとその先ではクヴァッチ兵と下級デイドラの小競り合いの最中だった。
わたしは無言で弓を構えると正確にデイドラを射抜く。
いつもより集中力が高まってるのが分かる。
乱戦で誤射してしまいそうで撃つのを躊躇うような場面でも確実に敵だけを射抜ける。
「助かったよ…まさか援軍が来てくれるなんてな」
小競り合いに決着がついたところでクヴァッチ兵が駆け寄ってくる。
「ここは任せて下がって。外にまだ仲間がいるわよ」
わたしは満身創痍な彼を足手まといと判断すると脱出するように促す。
彼自身こんなところはもうこりごりと言わんばかりに逃げ去る。

そこでわたしも漸く一息ついた。
一体自分に何が起こったのか良く分からないけど、何だか急に何かに目覚めたような…?
その反動なのかちょっと体が重く感じる。こんなのでこの先大丈夫かな?
改めて記憶を手繰り寄せて、辺りの風景を見る。
真っ赤なオブリビオンゲートを見た途端、何が何だか分からなくなって飛び込んだ先がここなわけだけど。
ゲートそのものと同様、この世界も赤い…。
つまり現世ではなく、オブリビオン次元のどこか…ってことよね。

オブリビオン次元には現在16の次元が観測されている。
16と言うのはそのままデイドラの王の数と一致する。オブリビオン次元と言うのは要はデイドラ王の世界のことだ。
ジョフリーは皇帝陛下の遺言から、敵対勢力はメエルーンズ・デイゴンとあたりを付けていたけど、その予想が正しいならここはデイゴンの次元、デッドランドと言うことになる。
確かにこの灼熱した大気、焼けた土地、溶岩の川…伝承されているデッドランドの特徴通りの世界。
と言うことは、敵に先手を打たれたってことになるのか…グラアシアの相手をしたのは失敗だったわね…。
わたしは内心で舌打ちする。どうやって知ったのか分からないけど、敵もここに皇族最後の生き残りがいることを嗅ぎ付けたんだ。

自分の甘さが招いた結果、か。取り敢えずこのゲートを何とかしないと。
わたしも呪術師。一応この手の専門家だ。何をするべきかは理解しているつもり。
ゲートが開いたと言うことはオブリビオン次元と現世の間に安定した「通路」が出来てるってことになる。
つまりその安定させている何かを取り除けばゲートは安定を失い崩壊するってこと。
ざっと周りを見渡すと…ただ荒地ばかりと言うわけでもない。幾つか塔が見える。定石ならそう言うところにその「何か」があるはずだけど。
わたしは手近なところに見える塔から入ってみることにした。