グラアシアから尾行を依頼されたわけだけど…。
その人は何でもお向かいに住んでるのおばちゃんで、グラアシアを監視して誰かに報告していると言い張ってる。
が…はっきり言ってただのおばちゃんだ。朝から見張るよう言われてたけど、真に受けてらんない。
ちょっと昼間に畑に居るのを見かけただけだけど、グラアシアを監視なんてしてないだろう。
見た感じ普通にブドウ畑で野良仕事に精を出してるだけ。
もちろんその近くにグラアシアが居るようなことは無い。つまり見張ってなんかいないってこと。
わたしは暇になったのでそこらで日が暮れるまで薬草を摘んで街に戻る。

「どうだった?」
そして深夜グラアシアと落ち合って結果を報告する。
「えぇ…間違いないわ。あのおばちゃん、胡散臭い人と何か話してたところをみると…黒ね」
わたしは何を思ったか根も葉もないことをでっち上げた。
…うん、まぁこの方が面白いかな、と思っただけなんだけど…。
「くっ…やはりな…だが思い通りにはさせんぞ…」
グラアシアは小さく呻くように呟くとわたしに謝礼と言って金貨を握らせた。
…結構な額あるわね。
けど話はそれで終わらなかった。

「もう一人頼めるか…危険な奴がまだいるんだ」
そう言われた相手は宮仕えの男らしい。正直こっちもそこまで暇じゃないんだけど…まぁいいか。
マーティンの事を知っているのはジョフリーとわたしくらいなものだ。
ボーラスも隠し子の事は話したから、存在は知っているだろうけど、どこの誰かまでは知らないはず。
つまり急ぐことも無い。このグラアシア何故か金払いは良さそうなので、小遣い稼ぎにちょっと付き合っても良いかもしれない。

そして翌日もスキングラードに滞在することにした。
もちろん見張りに行くことはない。
夜になったら適当にそれっぽいことを言ってグラアシアの気分を盛り上げてやれば良いだけ。
「この街を離れた方が良いわ。あいつら貴方を暗殺する気よ」
「なんだと!?いや、分かっていたさ。こうなることはな。だが思ったより動きが速いな…奴等を甘く見過ぎたか?しかしこのままでは終わらんぞ」
わたしの答えに満足したのか、また結構な量の金貨をよこす。

「こちらも少し急がねばならんな…すまんが次で最後だ。やってくれるか?」
わたしは無言で頷く。
最後と言われて指定された人物は…ダヴィド・スリリーだった。
わたしの様なお酒大好き人間なら、いやこのシロディールで暮らしていれば飲まない人でも知っているだろう。
あの有名ワイナリーのスリリー氏だ。
もちろんこのスキングラードの有力者でもある。
いくら冗談でもこの人を悪く言う事はできない…。

そして最後の密会。
何故かグラアシアは大きな斧を担いでやってきた。
「奴はどうだった?」
「貴方の思い過ごしよ。スリリー氏は機関には繋がってなかったわ」
「!?…そうか…俄かには信じがたいが君がそう言うなら間違いは無いんだろうな」
そう言うと金貨と…一枚のメモを渡してきた。

「今日で終わりにしよう。そのメモにある人物を…消すんだ!報酬はこれまで以上に弾むぞ」
そう言われてメモに目を通すと初日のおばちゃんと二日目の宮仕えのおじさんの名前が書かれていた。
あちゃぁ…ここまでやる気だったか…ちょっと煽りすぎたかな?
でもどうしよう?幾つかのケースを考えてみる。
わたしが本当に殺しに行く…ありえないわね。馬鹿らしい。
受けたフリしてクヴァッチに行く…わたしが返り討ちにあったと思って暴れたりしないかしら?
殺人依頼を断る…いきなり斧振り回すかも?
どれもロクなことにならないわね。

わたしは取り敢えず話を受けることにした。
「じゃぁ…行ってくるわ。無事を祈っててくれると嬉しいわね」
「あぁ、もちろんさ。君だけが頼りなんだからな」
そしてわたしは衛兵の下へ。
「あの、そこでヘンな人にこんなもの渡されたんですけど…」
と殺人依頼メモを渡す。
うん、これで逮捕されて全員無事、丸く収まるはず。
「通報に感謝します。くそ、あのプッツン野郎め。ついにここまでおかしくなったか」
衛兵は小さく毒づくと走り出した。
わたしはそのまま宿に帰って明日の準備をして休んだ。

そして翌朝。噂話でグラアシアの死を知った。
どうも逮捕に抵抗して斧を振り回したせいで、衛兵に斬られたと言う。

グラアシア散る 


…あー…そうなっちゃったか…悪い事したなぁ…別に死んでほしいわけじゃなかったんだけど。
でもわたしが関わらなくても何時かはこんなふうになってたんだと自分に言い聞かせると改めてクヴァッチへと向かうことにした。